作品タイトル不明
レジェンド宝箱の中身
「へぇ、私がいない間にそんなことになってたのね。それで、ああなってるわけ……」
ヴァレンを倒したが、アヤメはまだミルクに魅了されたままだった。
そのため、
「ミルクちゃん、私、頑張ったよね。頭撫でてくれると嬉しいな」
顔を真っ赤にしたアヤメがミルクに甘えている。
もしかして、魅了状態って幼児返りするのだろうか?
普段は冷静で丁寧な言葉を使うアヤメがあんなふうに甘えている姿を見るのは珍しい。
「うん、アヤメ。よく頑張ったよ。偉かったね」
「えへへ、嬉しいな。ミルクちゃん大好き」
俺の 嫁(アヤメ) が 嫁(ミルク) に NTR(ねとら) れた。
俺はこの二人のイチャラブをどうやって見たらいいのだろう?
リスナーのコメントを見ると、
〔てぇてぇ〕
〔てぇてぇ〕
〔てぇてぇ〕
〔てぇてぇ〕
〔てぇてぇ〕
〔てぇてぇ〕
〔てぇてぇ〕
〔てぇてぇ〕
さっきからこの調子だ。
たしかに、濃厚過ぎない百合カップルは 尊い(てぇてぇ) か。
うん、じゃあ俺も手を合わして拝んでおこう。
「ミルクちゃん、次はほっぺに………………っ! あっ!?」
とアヤメが何かを言おうとしたところで、アヤメの顔が普通に戻る。
「アヤメ、元に戻った?」
「う、うん。ごめん、ミルクちゃん。もう大丈夫だから」
アヤメが恥ずかしそうにミルクから距離を取る。
せっかく魅了が解けたのに、顔が真っ赤だ。
「アヤメも元に戻ったことだし、そのレジェンド宝箱っていうのを開けてみましょ? トゥーナはレジェンド宝箱の存在を知ってるのよね? エルフの世界ではどんなものが出たの?」
「……世界樹の種」
「世界樹っ!?」
「……ん。名前はあるけど、こっちの世界の言葉に翻訳するとそう。エルフは世界樹の加護を得て繁栄した」
それは凄いな。
だったら、これは何が出るのだろうか?
「俺が開けていいか?」
「他に誰が開けるっていうのよ」
「うん、泰良でいいよ」
「……泰良様しかいない」
「……………………」
アヤメ以外は満場一致で俺が開けるように促し、アヤメは恥ずかしくてまだ素に戻れていない。
〔ダンジョン局(公式):一度配信を広域配信から局内配信に切り替えてください〕
〔情報規制っ!? 俺たちも中身みたい〕
〔こういう情報は公開されるべきだろう〕
〔いや、この場合の情報規制はやむを得ないか……世界樹の種とか事実なら世界中に配信されていいものじゃない〕
〔ぐっ、後で報告を頼む〕
なんか情報規制の要請が出た。
「すみません、ダンジョン局からの要望により、一度配信をストップします」
そう言って、配信クリスタルを操作し、配信先の設定を切り替える。
「これで大丈夫ですか?」
とダンジョン局の職員さんに確認を取るのだが――
〔uematsu(公式):すまない、さらに情報規制を掛けさせてもらった〕
思いがけない人からコメントが。
防衛大臣――って上松防衛大臣?
え? 本物?
名前の後ろに以前にはなかった公式マークがあるから、ハッキングされていない限り本物ってことか。
「上松大臣っ!? え? ダンジョン局に放送を流しているのでは?」
〔防衛大臣(公式):さすがに世界樹の種クラスのアイテムが出る可能性があるとなれば、ダンジョン局の局長クラスでは手に負えない。この放送は防衛省の幹部クラスだけで見学させてもらっている。トゥーナ姫と一緒にいてよかった。そうでなければ見逃しているところだった」
あぁ、トゥーナと一緒にいるから念のために配信を見ていたのか。
道理で対応が早いはずだ。
ただ、いままで陸地を創造する天沼矛や、真実を映し出す真実の鏡のレシピ、さらに世界の残滓である廃世界など上松大臣にも言うことができない伝説級のアイテムをたくさん手に入れてきたので、今更な気がするが。
「じゃあ、レジェンド宝箱を開けますね」
俺は虹色に光る宝箱を手に取る。
もう、この宝箱そのものも価値がありそうだが、残念なことに宝箱は固定されていて、俺がどれだけ力を込めても運べそうにない。
金属でできているのか、それとも石でできているのか、滑らかな触り心地の宝箱の蓋を持つ。
鍵は掛かっていないようで、すんなり開いた。
中に入っていたのは――
「これは――」
絨毯?
だいたい畳二畳くらいのサイズの布が入っていた。
もしかして、空飛ぶ絨毯だろうか?
絨毯の伝説のアイテムと言われて思い浮かべるのは、まずそれだった。
飛行機の無い世界の移動手段としては最高のアイテムだが、現代日本だとそれほど価値はないかもしれないな。
あ、でもこのダンジョンのように歩きにくい階層だったら使える。
広げてみると、魔法陣のようなものが織り込んである。
あれ? この魔法陣、どこかで見たような気がするんだが。
とりあえず、鑑定してみる。
移動手段という点は間違いではなかった。
ただ、想像の十倍、いや、百倍以上ヤバめの品だった。
【転移魔法陣:転移用の魔法陣が織り込まれている絨毯。二つ一組で双方向に移動できる】
俺だけでなく、ミルク、アヤメ、姫も鑑別のモノクルを使って鑑定している。
そして、アヤメが鑑別のモノクルを貸して、トゥーナも確認する中、姫が代表して上松大臣にアイテムの説明をする。
「という効果の魔道具のようです」
姫が説明を終えた。
そして――
返事がない。
返事がない。
返事がない。ただのしかばねになってないよな?
「あの、上松大臣?」
……やっぱり返事がない――と思ったら――
〔uematsu(公式):この魔法陣のことは口外禁止で頼む。後日、話し合いの席を設けさせてくれ〕
とのこと。
文字だけなのに、非常に疲れている様子の上松大臣の表情がひしひしと脳裏に浮かぶ。
やっぱりタダ事じゃなかったようだ。