軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21階層の世界(その3)

「ほぼ正解だよ、月見里閑」

と言って、ダンプルが現れた。

「点数でいったら73点ってところかな? もちろん100点満点だよ」

「ほぼ正解なのに落第点なのかい?」

73点で落第点だったら、俺は高校三年生に上がれていないぞ。

「忠実に再現しているのではなく、世界の記憶――いや、もっと人間味の溢れた言葉で言うなら、世界が見ている夢ってところかな?」

「……世界の夢」

「そう。ちょっと歩こうか」

とダンプルはぽよんぽよんと跳ねながら街を歩く。

当然、こんな奇妙奇天烈な生物は街のどこを見てもこいつ以外にいないというのに、誰も当然のように受け入れている。

なるほど、この世界をどう表現したらいいかって思っていたが、夢という表現は本当にしっくりとくる。

夢の中って、不思議なことがいろいろと起こるのに、夢を見ている俺自身はそれを当たり前のように受け入れている。

「夢といっても幻というわけではない。仮に君が真実の鏡を使ったところで、この幻が消えてなくなるわけじゃない。何故ならこの世界はいまこの瞬間においては確かにここにある現実なのだから。真実はいつも一つなんて言うけれど、真実なんていうのはあやふやなものなんだよ」

ダンプルはどこからともなく取り出したお金を念動力で動かし、それを店員さんに渡して焼き菓子らしきものを代わりに自分のところに持ってくるとそれを齧った。

触感はクッキーというより煎餅に近いのか、パリっといい音が響いた。

「想像通り。ここは既に終末の獣によって滅んだ世界だ。エルフがいた世界とは別のね」

「なんでそんな世界がダンジョンの中にあるんだ?」

「君たちに見せたかったのさ。僕は制約により、ダンジョンの中のことしか喋れない。だが、ここはダンジョンの中だから説明ができる。まぁ、抜け道というか、これはほぼバグ技だね。僕の本体すら想定していない異常事態さ。本体の僕は君たちにこんな話をしてほしくないはずだし」

「本体の意志に反してるってこと?」

姫の質問にダンプルは身体を横に振る。

「必ずしもそうとは限らないよ。例えば、姫くんがダイエットをしていたとしよう」

「ダイエットなんて必要ないわよ」

姫が間髪容れずに言う。

確かに、姫はもっと肉を付けるべきだとは思う。

「例えばの話だよ。君がダイエットをしていたとして、食べたいケーキも食べられない。そんなとき君が分身を作ったらケーキを食べると思う? 食べないと思う?」

「私が分身なら食べます! だって分身なら消えてしまえばカロリーのことを気にせずに済みますから!」

「分身の食べたケーキって分身が消えたらどこに行くんだろ? 姫のお腹の中?」

とミルクが少し気になることを言う。

どうなるんだ?

分身が消えたとたん、胃の内容物だけぶちまけられるってことはこれまでなかったが。

だが、俺とミルクの疑問には誰も答えずに話は進む。

「そういうことだ。分身っていうのは本体の意志を持つが、本体の思惑通りに動くとは限らない。僕は教育者として生み出されたからね。君たちに教えたかったのかもしれない」

「真実を?」

俺の問いに、ダンプルは残りの焼き菓子を食べながら言った。

「さて、悪いが 迷宮転移(ダンジョンワープ) の魔法を使ってくれ。夢から覚める時間だ。君たちも夢の中に取り残されたくはないだろう?」

と言ってダンプルは俺の頭の上に飛び乗った。

夢の中に取り残されるって怖いな。

女性陣も全員俺の身体に触れていることを確認し、 迷宮転移(ダンジョンワープ) を使って21階層の入り口――転移陣のあった部屋に移動。

そして、再び外を見ると、そこにあったのは夜の荒野ではなく雪原だった。

そして、その雪の中に一つ――スノードームくらいの大きさの、透明の容器に入った惑星があった。

「壱野さん、あれって――」

「ああ……たぶんそうだろうな」

アヤメが横で囁き、俺が頷く。

鑑定する。

【廃世界:かつて夜の民たちが過ごした世界の成れの果て】

やっぱり廃世界か。

夜の民って種族なのか?

「光の神に逆らい、太陽を封印された人たちの末裔だよ」

「太陽がないという割には極寒の地でもないし、植物も生えていたようだが?」

「地球の常識を異世界に持ち込むのはナンセンスだよ、月見里閑」

ダンプルはそう言って、廃世界を浮かべてどこかに消した。

「いまのはその世界の記憶ってことかい?」

「そうだね。管理者権限でダンジョンの階層に上書きした。しかし、規格外のことをするとやっぱり疲れる。予備のリソースをかなり消費してしまったよ」

「それって大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないから魔石をくれないかい? Dコインでも構わないが」

「……今日拾った分でよかったらやるよ。さっき換金したから半分くらいしか残ってないが」

と言って、ダンプルに魔石をやった。

ダンプルはそれを口に入れる。

「うまいか?」

「味はないよ。取り込んでいるだけさ」

とダンプルは魔石を呑み込んで言った。

「さて、では僕はもう帰るよ。話したい事は話したしね」

「待ってくれ。もう少し話を――」

「滅んだ世界の記憶を見る方法ならダンポンに聞くがいい。廃世界の記憶を見たことで彼も情報を開示できるようになっているはずだ」

ダンプルはそう言って転移陣に入って帰っていった。

わからん。

あいつが一体何をしたいのかさっぱりだ。

本物の21階層を見る。

やはり真っ白な雪原が見えた。

冷気が吹き込んできて、この部屋もかなり冷える。

この装備で雪原走破は無謀だ。

俺たちはダンプルと同様に転移陣を潜って、1階層に戻った。

ダンプルはロビーにはいなかった。

ダンポンに聞け――か。

「しかし、ダンポンに聞け……か。彼に会うのは総理大臣に会うよりも厄介だぞ。政府の要人ですら向こうからコンタクトしてくるのを待っているのが常だからな」

閑さんが説明するように言う。

彼女はPDを知らないから、俺たちがダンポンといつでも会えることを知らない。

彼女には前程悪い印象はないが、PDについて説明する気はないので、俺は黙って「厄介な宿題ですね」と言って誤魔化したところ――

「そうだ、ちの太くん。夏休みの宿題が未提出のようだが、どうしたのかね?」

と突然話題を切り替えた。

「え? 俺はやらなくてもいいって――」

「それは前任の高橋先生が言ったものだろう? 今の担任は私だから、君だけ特別扱いはできない。期限は延長するから九月十日までに提出するように」

と突然厳しいことを言ってきたのだった。

なんたる藪蛇だ。