軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

望郷の景色#sideトゥーナ

トゥーナはこの世界の人間ではない。

トゥーナのいた世界は既に滅んで存在しない。

それはもう理解している。

何故なら、トゥーナは自分の世界の名前も、その姿も思い出すことができない。

あんなにも愛した世界なのに。

世界が滅ぶというのはそういうこと。

悲しい。

けど、悲しみにふけっている暇はない。

トゥーナには、世界を再生するという目的がある。

8600万人いた、トゥーナが女王ルシャトゥーナ・ラミロア・マクル・ノ・ハンデルマスだったときの国民。

終末の獣との戦いでどれだけ数を減らしたかはわからないが、きっといまも滅んだ世界の中で眠りについているはず。

彼らのためにも――ううん、終末の獣と戦い名誉ある死を遂げたエルフたちの意志に報いるためにも世界を再生させないといけない。

「今日はよろしくお願いします。エルフの女王陛下。私は本日の調査を担当します岩倉と申します」

600歳くらいに見えるおじさんが頭を下げる。

でも、彼は実はトゥーナより年下らしい。この世界の人種族は見た目はエルフに似ているが、エルフより遥かに寿命が短いらしい。

「……ん、トゥーナ。よろしく」

トゥーナは岩倉と名乗る男と、周囲の男たちを一瞥する。

気になったのは、銀髪の男。

「私は今回の護衛担当の西条虎です」

爽やかに笑みを浮かべる銀髪の男。

ダンジョン局の人が言うには、この国で12番目に強い人らしい。

これまで何度も要人警護をしてきた凄腕の冒険者――この世界で言う探索者だという。

彼の他に、彼の仲間らしき数人の探索者を紹介された。

西条虎は強い――と思った。

トゥーナの世界ならば、SSランクの領域に足を踏み入れている。

30歳にも満たないのにこの強さ。

人は肉体の成長が早い分、ステータスの成長も早いのだろうか?

だけど――何かが歪。

妙な魔力の流れを感じる。

周囲はそれに気付いていない?

「では、行きましょうか。調査の場所は梅田ダンジョンの23階層です。本来ならば転移用の魔方陣を使って21階層に移動したいところですが、陛下はまだ梅田ダンジョンの21階層に行ったことがないので、ひとまず西条殿と一緒に通常のルートで23階層に来ていただく必要がございます」

「……ん、必要はない。スキル『パーティ結成』」

トゥーナはスキルを使った。

パーティ結成を使い、岩倉と同じパーティに入る。

「……岩倉と同じパーティに入った。これで岩倉が使える転移用魔法陣を使って一緒に転移できる」

「なんと、エルフの女王はそのようなスキルをお使いになられるのですね」

クエスト発行も、パーティ結成も、エルフの中ではそれなりに使える者がいたスキルだけれども、この世界では珍しいらしく驚かれた。

妖精の輪も、エルフの冒険者の二割以上が使えるスキルなのだけれども、持っているのは泰良様だけらしい。

エルフと人間では使えるスキルの種類も異なるのだろうと推測する。

「これは最初から予定が狂ってしまいましたね」

「そうですね。とはいえ、時間短縮ができて喜ばしい誤算ですよ」

西条が肩をすくめ、岩倉が笑って言う。

トゥーナたちは21階層に転移した。

ダンジョンが21階層から牙を剥くのはトゥーナの世界もこの世界も同じか。

梅田ダンジョンの21階層は砂漠だった。

遠くにうっすらと壁が見えるが、熱気のせいでその壁もぼやけて見える。

「……暑い」

トゥーナのいた世界に砂漠なんてものはなかったはず。

森の中で生きるエルフにとって、砂漠は非常に面倒。

天井があるはずのそこには青空が広がっている。

幻影魔法によるものだけれど、太陽の熱まで再現されるのは嫌。

「ええ、これは堪えます。ですが、砂漠エリアは階段の場所さえわかっていたら真っすぐ次の階層に向かえるのは利点ですね。こちらです」

岩倉は魔法の方位磁針を使って次の階層に続く階段の位置を探り、移動をする。

途中、巨大なサソリの魔物が現れたが、西条が前に出る。

手から灰色のブレスのようなものを出すと、巨大なサソリは石になった。

石化ブレス?

エルフに使えるスキルではないはずだけど、人間には手からブレスを吐くスキルでもある?

それとも、あの白い手袋が魔道具の一種?

「いやぁ、西条殿のホワイトドラゴンのブレスは相変わらずお強い」

「岩倉さん」

「おっと、失敬失敬」

……?

あれがホワイトドラゴンのブレス?

ホワイトドラゴンは高貴で誉高い癒しの竜。

状態異常のブレスを吐くはずがない。

人間の間の隠語?

それとも、この世界のホワイトドラゴンはトゥーナの知るホワイトドラゴンとは違う?

「では、行きましょう。陛下」

西条が微笑む。

爽やかなはずの笑顔が、砂漠の中では暑苦しい。

そして、暑さと歩きにくさ、口の中に砂が入る煩わしさを除けば順調に23階層に移動できた。

23階層の中は涼しく、砂も入ってこない。

トゥーナの知るダンジョンの23階層にも壁画は一枚あった。

海の中の絵。

それがこの23階層にもあった。

だが、それ以外にも複数の絵が飾られている。

砂漠の絵、空の絵、そして――

「…………」

涙が出た。

これは……あぁ、そうか、これが。

「……トゥーナのいた世界」

トゥーナは呟いた。

忘れていたはずの自分の世界の景色が脳裏に補完された。

「やはり、この壁画は異世界の風景画でしたか。貴方を連れてきてよかった」

岩倉が言った。

トゥーナもここに来られてよかったと思う。

自分の世界の一部を、ほんの一部を思い出すことができたのだから。

「少し休憩しましょう。砂漠の移動は喉が渇きますからね」

西条がそう言って、魔法の水筒と複数の紙コップを取り出すと仲間に配って水を注いでいく。

「女王陛下もどうぞ」

「……ん、必要ない。自分のがある」

「岩倉さんは?」

「我々も水筒は持参しています。どうぞお構いなく」

そう言って、岩倉たち研究員は自分の水筒を、トゥーナはラッシーの入った瓶を取り出す。

そして、それを飲んだ時だった。

「うっ」

その呻き声は西条の仲間たちから上がった。

彼の仲間たちが次々に倒れていく。

何が起こったのか考える暇はなかった。

西条がこちらに手を向けて、先ほどの石化ブレスを出してきた。

避けられない。

先ほどの石になったサソリの姿が目に浮かぶ。

あれはただ相手を石にするだけではない。

石にし、そして破壊する即死性のブレスだ。

あの石化ブレスを浴びたらトゥーナは確実に死ぬ。

……ごめん、みんな。

そう思った時。

だが、石化ブレスはトゥーナに届かなかった。

「やれやれ、危なかったのぉ」

トゥーナの背中に張り付いていた狐の聖獣――ミコトが現れて、目の前に結界を生み出して防いでくれていた。