作品タイトル不明
淡路島へ
トンネルを抜けると、そこは明石海峡大橋だった。
大阪湾と瀬戸内海の境界線とも言える、かつては世界一長かった吊り橋だ。
そこを越えると淡路島となる。
俺たちは予定を一カ月ほど前倒しにし、淡路島に向かっていた。
ちなみに、メンバーは俺、ミルク、アヤメ、姫、水野さん、クロ、シロの五人と二匹である。明石さんは用事があって夕方まで来られないらしい。
それでは誰が車を運転しているのかというと、姫だった。
まさか、姫が運転免許を持っているとは思ってもいなかった。
『免許持ってたんだな。てっきり姫のことだから運転は全部運転手任せだと思ってた』
『ええ、普段は運転手任せよ? でも、たまには自分で運転したいことだってあるわよ』
とのことらしい。
この車は姫専用らしく、彼女が運転しやすいようにペダルの位置や椅子の高さなどを調整しているらしい。
本当はトゥーナも一緒に来られたらよかったのだが、護衛の点で問題があったのと、政府の仕事があるらしく断念。
「そういえば、淡路サービスエリアに恋人の聖地って呼ばれている場所があるみたいですね」
そう言ったのはアヤメだった。
「恋人の聖地? 確かにでっかい観覧車が見えるけど――」
サービスエリアのある方向に、とても大きな観覧車が見えてくる。
この前行った万博公園の横にある観覧車並みに大きい。きっと明石海峡が良く見えることだろう。
「確かに観覧車は素敵ですけど、ちゃんとした由来があって――」
アヤメが言うには、古事記や日本書紀に登場する国土創造の夫婦神―― 伊弉諾尊(いざなぎのみこと) と 伊弉冉尊(いざなみのみこと) が海を矛でかきまわして大地を完成させようとした。そして矛をあげたとき滴り落ちた潮が一つ島となり、二柱の神はその島に降り立ち結婚した。
その島が淡路島だという。
淡路サービスエリアは平日だというのにかなり混雑していた。
夏休みに入ったからか子連れの家族が多い気がする。
水野さんは気を利かせてくれたのか、大観覧車の下にあるドッグランでクロとシロを遊ばせてくれている。
クロが入っているドッグランでは、全ての犬がクロに服従状態になって他の飼い主たちを悩ませているので本当は行ってほしくなかったが、シロがずっと車の中で大人しくしていたから遊ばせてあげないとな。
「ここがその伝承を元にできた恋人の聖地です、ハートライトゲートです! 実は昔から来てみたかったんですよ」
とアヤメは俺、ミルク、姫を案内してくれた場所は、なんというかホッチキスの芯のような形の真っ白な建物だった。
ただ、天井にたくさんの穴が開いていて、そこから差し込んでくる光がハートの形になっている。
しかもその奥には明石海峡大橋がはっきりと見えて、写真映えしそうなスポットになっていた。
俺とアヤメ、俺とミルク、俺と姫の三パターンで写真を撮ったあと、四人揃って写真を撮った。
これも夫婦の形です――って言ったら、伊弉諾尊と伊弉冉尊はなんと思うだろうか?
その後、高速道路を降りて道の駅あわじに移動。
淡路牛バーガーを購入してみんなで食べた。全国ご当地バーガーグランプリで1位になったというオニオンビーフバーガーってのも気になったが、この後、海岸沿いを移動して、パンケーキのお店に行くことになっていたので断念。
パンケーキの店にはドッグエリアもあり、クロとシロも一緒に入る事ができた。
とてもふわふわで濃厚なパンケーキに口の中が幸せに包まれる。
その後、俺たちは予約していたグランピング施設に到着。
「真衣、一人にしちゃってごめんね。夕方には明石さんも来ると思うから」
ミルクが申し訳なさそうに言う。
「一人じゃないよ、クロちゃんとシロちゃんも一緒だし。それに、ダンジョンに入りたくないっていうのは私の我儘だしね。お宝ダンジョンってどんな場所かはわからないけれど、ダンジョンではあるんだから気を付けてね」
と水野さんを一人残し、多賀の浜へ。
ただし、海水浴のためではない。
全員での海遊びは明日のお楽しみ。
今日はお宝ダンジョンに行くことになっている。
さて、移動するかと思ったら、水野さんが俺を呼んだ。
「どうしたの?」
「うん、一応注意だけしておこうかなって……本当はこういうの私が言うべきじゃないんだけどね……」
水野さんは少し口ごもったあと、俺の眼を見て言う。
「ミルクちゃん、アヤメちゃん、姫ちゃん。全員いい子だけど、いつまでも甘えてたらダメだと思うよ。最後はちゃんとケジメをつけてよね」
水野さんが言った。
それは水野さんなりの優しさだったのだろう。
まさか、三人と既に結婚していますなんて言えない俺は、少し困りながらも頷いた。
※ ※ ※
「この先ね……」
地図は多賀の浜から県道を跨いだ先にある藪の中を示していた。
予めこの先にあることはわかっていたので、虫よけスプレーの準備は万全だし、土地の持ち主にも立ち入る許可を貰っている。
普通に歩いて入るのは難しく、石切剣を使ってなんとか道を切り開き、進んでいく。
五メートル進むのに十分以上かかることもあった。
道路の反対側から降りた方がよかったんじゃないかと思うこともあったが、ここまで来たら今更引き返せない。
「スキルが使えたらな。薙ぎ払いっ! とか言って一気に草を刈れるんだが」
「それを言うなら私も分身の術を使って五人分の働きができるわよ」
「風魔法を使って一気に刈りつくせます」
「火魔法は危ないし、薬魔法に除草剤はまだないから役に立たないかな」
と四人で愚痴を言いながら、ひたすら進むと、二本の木の間に、場違いな程に綺麗な扉を見つけた。
そのカギにはこれまた綺麗な南京錠が取り付けられている。
これがお宝ダンジョンの入り口だろう。
むしろ、これが入り口でなかったら何だというのだろう?
一応確認のためにスマホで写真を撮って確認してみると、写真には扉が映っていない。
PDの入り口と同じで俺たちにしか見えていない入り口なのだ。
「開けるぞ」
錠前の鍵穴にお宝の鍵を挿すとすんなり中に入っていき、自動的に鍵が回転。
錠前が消え失せ、扉がゆっくりと開き、地下に続く階段が姿を見せたのだった。