軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【37】レオンハルト(レオンハルトside)

レオンハルトは、王家にとって不出来な王子ではなかった。

国王と王妃の第一子であり、血筋も問題はない。

第二王子とは7つほど歳も離れており、求められているだけの能力があるならば、彼を王太子とするにあたって貴族たちから大きな不満も出なかった。

レオンハルトを王太子とするために、婚約者の後ろ盾は特に必要ではない。

周辺国に釣り合う年齢の王女は居なかったが、現在ベルツーリ王国を脅かす敵国はおらず、懸念があるとすれば北の魔獣の領域だけだ。

十数年前、スタンピードが起きた際に辺境伯夫妻が亡くなった。

だが、嫡男は立派に両親の跡を継ぎ、バルツライン領を守っている。

であれば王家として、すべきことは国内の安定だ。それが今の王家の治世には求められている。

よってレオンハルトの婚約者は当初、国内の貴族との結び付きを強化するため、シュタイゼン公爵家の長女アンジェリーナをと国王は考えていた。

実際、この縁談は両家の承認を経て、締結されるはずだった。

そこに待ったを掛けたのがレオンハルト王子本人だ。

当初のそれは王子の我儘だと国王たちは考えていた。

だが、明らかに王子が望んでいない姿勢のままでアンジェリーナとの婚約を結べば、シュタイゼン家と王家の間に軋轢が生じてしまう。

そのため、レオンハルトとアンジェリーナの婚約は見送るしかなかった。

国王としてはシュタイゼン家との繋がりを諦め切れず、しばらく保留する形を取る。

ローディック家であれば問題ないかと問えば、レオンハルトはそれも固辞していた。

では、どういう意図があるかと聞いた時、レオンハルトはこう答えたのだ。

「アルストロメリア王家の末裔の女性が居ます。いずれ証明できるはず。ですから時間を頂きたい、父上。いえ、国王陛下」

……眉唾な話だった。

だが、それが真実であれば捨て置けない話でもあった。

信憑性などない。だが、レオンハルトは何らかの確信を持っているようだ。

それにレオンハルトが独自に動いていることも王には伝わっていた。

ただ、公爵令嬢との縁談が嫌で嘘を吐いている、子供の我儘ではないらしい、と。

国王は事態を見守る事に決めた。

そうしている間に、縁談を保留させていたアンジェリーナ・シュタイゼンは辺境伯と婚約を結んでいた。

そして、シュタイゼン公爵からは静かな圧力があった。

強く責められこそしなかったが、今後、アンジェリーナの縁談に口を挟むことは、もう王家には出来なくなったのだ。

国王は溜息を吐く。

レオンハルトに抱いた初めての大きな失望だった。

レオンハルトが王立学園の2年生に進学する。

すると誰の目にも分かるように、一人の令嬢を気に掛けるようになっていった。

学園1年生のシュリーゲン男爵令嬢だ。

当然、その報告は国王にも届いている。

「……ただの男爵令嬢ではないのか。元孤児? 少なくともシュリーゲン男爵の実の娘ではないらしいが」

レオンハルトは、彼女を前王家の末裔と考えているらしい。

彼女がいずれ養子になれるように、筆頭侯爵家を抱きこもうと画策していた。

どうやら彼女の後見に据えるつもりのようだった。

レオンハルトなりの政治をしようと考えているのは理解できる。

行動もしている様子だ。

件の令嬢が、アルストロメリアの末裔であるという根拠をレオンハルトが周囲に明かすことはない。

だが、確信だけはある様子だった。

その頃のシュタイゼン家は、もはや王太子の婚約者に関せずという態度で、ローディック家からは強い抗議があった。

男爵令嬢を王妃に据えることは出来ないのだから。

レオンハルトの動きも掴まれているようで……。

いずれは、レオンハルトの行動にも見切りをつけて、王命で王太子の婚約を強行する事を国王は考えていた。

国王の頭には、やはり学年でも首席を取り続けているアンジェリーナがあったが……既にどうにもならない事だと諦めてもいる。

ローディック公爵家の好きにはさせないようにしつつ、やはりサンディカと結ばせるべきだとも。

その矢先の、シュタイゼンからの王妃教育についての提案だ。

……意外なことにその案は、シュリーゲン男爵令嬢をフォローし、ローディック家をしばらく沈黙させるような案だった。

現状のまま、レオンハルトの考えにも沿っているようだ。

加えて、筆頭侯爵家が彼女の後見となることを先延ばしすることに繋がった。

ベルツーリ王国内の、勢力の激変を先送りにする案だった。

他家や王家のフォローに回る姿勢と見えて、シュタイゼンの敵を抑えるようなアイデアだ。

もしやシュタイゼンの思惑は、実はレオンハルトとアンジェリーナの婚約か、という考えも浮かんだが……アンジェリーナの婚約が破談になるような話は全く聞かない。

むしろ辺境伯とは仲睦まじい様子であるという。国王はそれを残念に思った。

「シュタイゼンの思惑が掴めんな……」

レオンハルトとは友人とも言えないような距離感を保っているカルロス公子。

彼は、レオンハルトと男爵令嬢との仲を取り持つつもりなのか。

ローディック家と裏で結ぶ気があるようにも見えた。

公爵令嬢サンディカは、レオンハルトにすり寄る真似はせず、むしろシュリーゲン嬢を囲い、庇護を与えている。

彼女を排除する気はない様子だ。

「レオンハルトは慕われているのか。支えようと思われているのか。それにしては……」

以前からレオンハルトに付けようと考えていた側近たちが居る。

だが、その彼らは王太子の近くに居ることを断った。

マルコット家の次男も、宰相家の三男も。シュタイゼンの公子も。加えて魔塔で管理している少年も。

今のレオンハルトにも側近は付けているが、どうしても想定していた者たちより様々な面で見劣りする。

それは、そのままレオンハルトへの評価に繋がっているだろう。

「……はぁ」

国王は、シュタイゼンからの提案を受け入れた。

ローディック公爵がまだ不満を漏らしていたが、意外な事にサンディカがその提案に前向きだったのが決め手だ。

ただし、国王はレオンハルトに、この問題において条件を付ける。

「レオンハルト。お前が以前言っていたような事情が、件の娘にあるのであれば。

それを証明せねばならん。それは分かっているな?」

「はい。承知しております。それは問題ありません」

「……そうか。では条件がある」

「条件?」

「件の娘には、シュタイゼンからの提案を受け入れ、王妃教育を受けさせる。

そこで結果を示さなければ、お前との婚約は認められん。

その娘にとっても不幸な事であろう。器でない者に王太子妃など務まらない。

よって、お前が、件の娘、メルク・シュリーゲンに対して便宜を図ることは許さぬ」

「……は?」

「公平に教育を受けさせ、公正に判断するという事だ。

決して『王太子のお気に入りだから』などという理由で、シュリーゲン男爵令嬢を優遇することはさせない。

お前の方も必要以上に彼女に近付くな。余計な気を回す者が現れるからな」

「えっ、そんな!」

「……将来、王妃に据えたいのであろう? そのために動いているらしいな。勝手に」

「あ、いや、それは」

「であれば、正しい判断をせよ」

国王は、レオンハルトの態度と行動が、国内に波紋を呼んでいることは知っている。

それでも。多くを見逃してきたのは。

「お前は、シュタイゼンとローディックが気に入らぬのか? お前の代では侯爵家を取り立てたいのか」

それだけでは絶対の間違いとは言い難いから。

公爵家の力が強過ぎ、王家を脅かすほどと思うならば、侯爵家に力を与えたいと考えるのも理解できた。

「それは……。いえ、シュタイゼンには、その」

「シュタイゼンが気に入らぬなら、サンディカを選べ。私はローディックの方が気に入らぬがな」

「……それは承知しております」

国王はレオンハルトに溜息を吐いた。

「アルストロメリアの末裔の証明は、娘が在学中にさせよ。

そして王妃教育でも成果を上げさせよ。お前は彼女への便宜を図ってはならん。純然たる結果のみで示せ。

お前からメルク・シュリーゲンに過剰な接触を取ることは控えよ。彼女の器は公正に見る。

すべて今後のためだ。お前自身のためなのだ、レオンハルト。

……それでも、お前には確信があるのだろう? 何故、理由を私にまで語らず、沈黙するのか知らぬが。

その娘がアルストロメリアの末裔であると、断じられるのだろう?」

「はい! それは絶対です!」

「……そうか。では、与えた条件の通りだ」

「う……。は、はい……。承知致しました。陛下」

そうして。

レオンハルトが、当初考えていた程のメルクとの逢瀬の機会は得られなかった。

レオンハルトにとって譲れない『 出来事(イベント) 』の時だけは彼女に関わりに行ったようだが。

国王は、メルクがすぐに音を上げると考えていた。

王妃教育の厳しさには付いてこれまい、と。多くの貴族たちもそうだ。

あれはサンディカの器を知らしめるためのパフォーマンスにすぎないと、そう考えていた。

だが、意外にもメルクは厳しい教育で折れなかった。

元より学園での成績は取れていた上で……当初、至らなかった部分を彼女は補おうとしていた。

努力する気概だけはある様子だ。

「……だが、公爵令嬢より見劣りするのは確かだ」

実力も品位も。同時に王妃教育を受けている他の者、侯爵令嬢・伯爵令嬢たちよりも下の評価だった。

しかし、他の候補の令嬢たちはサンディカの思惑なのか、どんどん王妃教育から離れていく。

「いや、それはレオンハルトの態度のせいか……」

メルクの優遇こそ禁止しているが、かといって他の令嬢たちに期待させるような素振りもレオンハルトはしない。

厳しい教育を受けたところで『己には芽がない』と判断した令嬢たちは、さっさと離れていった。

国王は選択肢がどんどん狭まっていくことに焦りを覚える。

レオンハルトにも早く、前王家の証明をさせるよう促したのだが……以前までの自信はどこへやら。

「それが、その」

「なんだ?」

「メルクが……意欲的ではなくて」

「は?」

「彼女が、高等魔法を使えば、そこに『聖花の魔力』が発現するはずなのです。私はその確信を持っています」

「……そうか。まぁ、それ以外の証明など出来まい。だが、魔法が使えないのか? シュリーゲン男爵令嬢は」

「そ、そんなはずはないのですが……、ただ、その。意欲を見せなくて……自分も促しているのですが」

レオンハルトの思惑が外れた2つ目がこれだ。

彼の知る記憶では、メルクはもっと高等魔法について意欲的だった。

そして今の時点で、すでに自分の前で『聖花の魔力』を見せてくれていた。

最もレオンハルトの思い通りにならなかった事と言えば、やはりメルク自身だろう。

彼女とは『前』と同じように交流しているはずなのに。

以前のような情熱も、恋に浮かされた乙女の表情もレオンハルトに見せてくれない。

かつて愛し合ったはず。愛し合えたはずの、女性。

その心が別の男に移ったのかと思えば、そうにも見えず。

ただ、自分に向けられる情熱だけが……『前』よりも少し、冷めている。

(どうして……メルク。以前と、何が違う? 以前の私たちは……、……分かっている。大きく違うことは何か)

レオンハルトには一つの答えがある。

メルクと自分の恋愛感情が、以前ほど燃え上らない原因に。

そして、おそらくレオンハルト自身の行動によって、その違いが生じてしまった事も……彼には分かっていた。

「だが、私からの条件は変わらん。

分かっているな? レオンハルト」

「はい……」

「優秀なシュタイゼン公女との縁を拒み、今も尽くしてくれているローディック公女の手も取らない。

侯爵家だが、お前の思ったように後ろ盾になるか? 既にシュリーゲン家にはローディックの手が回っているがな。……レオンハルトよ」

「は、はい。陛下」

「お前は何がしたい? 何を求めている。件の令嬢の愛だけか? それさえ手に入れば、王位は要らんか」

「え」

「……お前より七つ下だが、王家の血を引く者は別に居ることを忘れるな。

私もすぐに退位する気はない。第二王子が育つまで猶予があるということだ。

……肝に銘じるといい。お前は唯一無二ではない。短絡的なことも考えるなよ?

第二王子には信頼できる護衛が付いているからな」

「わ、分かって……おります」

王太子であることも場合によっては変わる。

メルクが前王家の証明が出来なければ。……そんなはずはないのだけれど。

サンディカがレオンハルトを拒めば。……既に彼女は、カルロスの方の手を取っている様子だ。

「……問題を過剰に起こさないのであれば。新たな公爵家を立てるのもいい。

その器がなければ、より爵位は下になるだろうが。

それもまたお前に与える『猶予』と『期待』である」

「猶予、と期待?」

「……自信があるのだろう? メルク・シュリーゲンが確かにアルストロメリアの末裔であると。

であれば、新しい公爵家を立て、そこに囲うのもいい。

『今代では』王妃の座に相応しくなかった。ただ、それだけのこと。

血を残せば、いずれ、その血がベルツーリ王家と再び交わる日も来るだろう」

「へ、陛下! お待ちください! 真実、メルクは確かにアルストロメリアの……!」

「だから、それは承知している」

「え」

「……前王家の末裔であるなら、公爵位を与える価値もある。

だが、それと次代の王と王妃になり得るかは、また別の話なのだ。分かるか?」

レオンハルトは目を見開いた。

「で、ですが! 王太子である私と、アルストロメリアの『姫』が結ばれるなら、それは!」

「以前までは、私もそう考えていた。だが、それはお前たちの成果次第だろう。使えるならば使う。使えぬなら……それだけだ」

「ぐ……」

「……レオンハルト。お前は、そこまで不出来ではなかったはずだ。

それなりに政治で立ち回ることも出来る。だが、最近は至らぬ所が目立つようになったな?」

「う、ぐ……。それは。ち、父上」

「……はぁ。私は今でも後悔している」

「後悔?」

国王は、残念な者を見る目でレオンハルトを見た。

「お前とアンジェリーナが結ばれていれば。……お前のそういった至らぬ点を補って貰えただろう。

そうしていれば今のような憂いもなく、お前が王太子のままでも良いと私も言えた。

だが、前王家の末裔という名誉か、或いは恋情か。

それに囚われた今のお前と『そこそこに優秀』な令嬢とでは、王位を継がせるのに不安を感じる。

アルストロメリアの名を以てしても、だ。分かるか? そのような評価なのだ、今のお前は」

その言葉は、レオンハルトにとって最も聞きたくない言葉だった。

◇◆◇

上手くいかない『今』を前にして、レオンハルトの脳裏に『その事』が一度も浮かばなかったと言えば、それは嘘になる。

もしも、彼女と婚約していたら。

今度こそ、その関係が上手く続いていたら。

今の時間をそのためにこそ費やしていれば。

考えた事はあった。思い浮かんだ事もあった。

だが『それ』は二度と手に入らない。

時間を巻き戻しでもしない限り。

レオンハルト自らが手放した、一つの選択。

当初は『彼女』を悪女と断じて、そんな事などレオンハルトも考えなかった。

だが『今』の時間でメルクが虐げられることはなく。

……ずっと彼女を警戒していた。今度こそメルクを守るのだと。

だが、そうする意味は、まるでなかった。

レオンハルトは無駄な時間と神経を費やしただけになった。

(嫉妬する理由がないから? それとも……)

今では、かつての時間で友や同志だった者たちに諫められる事もあった。

レオンハルトは彼女の……アンジェリーナの、一体、何を警戒しているのかと。

その必要はあるのか、と。

アンジェリーナを忌避する頑なな態度をレオンハルトが表にあまり出さなかったのは……デニス・コールデンの影響でもある。

デニスが学園教師のニール・ドラウトにアンジェリーナの不正を疑い、食って掛かる光景を見ていた。

他にも何度かそんな風にしている様子も。

レオンハルトが手を出さずとも、宰相の息子が手を下すだろうと思っていた。

その間、アンジェリーナとは関わらず、自分はメルクと交流を深める方に時間と手間を費やせばいいと。そう思っていたのだ。

だけれど。

証明されたのは、アンジェリーナがメルクに危害を加える理由がない、ということ。

また、レオンハルトは見てしまった。

それはバルツライン辺境伯と仲睦まじく過ごすアンジェリーナの姿。

辺境伯へ向けられた情熱。その視線、表情……。

『アンジェリーナが恋をしているならば』

彼女は、ああいった表情なのだ、と。

(……あんな目を、あんな顔を、私はアンジェリーナに向けられた事は、なかった)

であれば?

かつてのアンジェリーナが、そもそもレオンハルトに恋をしていなかったのなら。

『前』の時間における根底が破綻する。

メルクに嫉妬する理由などないのだから。

……いいや、彼女に権力欲があるのなら、あり得なくはないはず?

その答えも現状が物語っている。

何故なら、アンジェリーナはレオンハルトに追いすがらない。

まだ婚約者の居なかったはずのレオンハルトになど興味も向けずに、バルツラインとの婚約を結んだ。

そして普段からは剣の修練に励んでいて。

(……あんな、顔で)

剣を振るうアンジェリーナの姿もレオンハルトは見た。

彼女は嬉々としてバルツラインへ、魔獣が待つ北の地へ嫁ごうとしていた。

他の令嬢では、ああはならないだろう。

フリードとすら似合いに見える、単純な性質に見えた。

そんな女が、もしも、ただメルクが目障りなだけだったなら……陰湿な、隠れた危害の加え方などするのだろうか……。

剣を振るうアンジェリーナの、明るく魅力的な表情も、すべて。

かつての時間で見たことなどないものだった。

レオンハルトこそがアンジェリーナの婚約者であったというのに。ただの一度も。

「…………」

アンジェリーナは悪女だ。悪女でなければならない。

かつての己の判断に間違いなどあってはいけない。

それに、そんな悪女が居たからこそ、かつてのメルクの心は情熱的になったはずで。

ならば、今回もそうであるのが望ましくて。

いいや、そもそもすべてが間違いだった?

もしも自分が選択を間違っていたのなら。

(何故……。メルクは、何故。自分は……何故)

自分は何がしたい。何を求めている。王位か、愛か。

(…… やり直せば(・・・・・) )

その答えは見つかるだろうか。

『今』の時間が大きく『前』と異なっている理由は、レオンハルトがアンジェリーナとの婚約を阻止したからだ。

では、その行動をせず、アンジェリーナとの婚約を最初から結んだままであれば?

今度は注意深く観察すればいい。

本当にアンジェリーナは、メルクに危害を加えたのか。

彼女が本当に悪女なら……今度こそ、以前のように情熱的に燃え上がったメルクと自分は結ばれて。

もしも、アンジェリーナが……、無実……であるなら。

(そんな事は。そんな事はない。ないんだ。あっては……。けど、もしも、そうなら……私は)

──上手くいかない。

レオンハルトは、逆行当初に思い描いていたような人生を歩んではいなかった。

それでも時間は前へ進んでいく。

レオンハルトの心を置き去りにして。

メルクは以前よりも早く王妃教育を受けるようになった。

もしも、このまま。すべてが進んでいったら。

自分に待つ未来は……果たして思い描いたものなのか。

レオンハルトは不安を抱えていた。

そうして、苦悩している時だった。

レオンハルトは、メルクがアンジェリーナに会いに行ったと聞いた。

シュタイゼンの屋敷で茶会を開き、アンジェリーナがそこにメルクを呼んだらしいと。

王妃教育を担当している者から、その事を聞いて。

「アンジェリーナ……!」

レオンハルトは、シュタイゼン家に向かった。

そこに、どんな光景を『期待』していたのか。

アンジェリーナがメルクに危害を加える姿?

その理由は、嫉妬心から?

それとも、すべてが否定される光景か。

今度こそ自分が悪女の手からメルクを守り、メルクの情熱の目を再び向けられること?

何故、そう思うのか。何故、そう願うのか。

何を本当に求めているのか。

レオンハルト自身にも、その答えは掴めないままだった。