軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法が使えたならば

一刻も早く治療しなければ!

ロランはジゼルを抱え、公爵家にある自室に連れて行った。

会場を出る時、目の端にシャルロットの姿が見えた。

シャルロットの前でジゼルを抱き上げることに後ろめたさも感じない。それよりも、ジゼルをこんな姿にしたのはお前なのか!?と怒りが込み上げる。

だが今は、腕の中で泣きながら震えるジゼルを医者に見せることが最優先事項だ。ジゼルは額を押え呆然とした表情を浮かべ目の前のロランを見つめている。

ロランは胸の中にいるジゼルを覗き込んだ。流れる涙、血で染まった額のハンカチ、うっすらと唇から滲み出る鮮血。

堪えていた怒りが爆発しそうになる。言葉や態度だけでは物足りず、とうとうジゼルに手を出した。

不安げにロランを見つめるジゼル。その流血は止まらない。これ以上血が流れると危険だ。

「私の胸のポケットにあるハンカチで額を押えろ」

しかしジゼルはロランの言葉が届かないのかロランを見つめ続けている。それほどまでに怖い思いをしたジゼルを仕方がないとはいえ、近くで見張っていなかったことを悔やむ。

(ジゼルの血を止めなければ)

ロランはジゼルを覗き込み言った。

「私の首に手を回せ」

しかしジゼルの耳にロランの言葉は届いていない。

ジゼルは黙ってロランを見つめている。

見つめ合う二人。沢山の言葉が浮かぶ。だが今はジゼルの怪我の対処をしなければならない。ロランはグイッとジゼルを覗き込みゆっくりした口調で言った。

「もう一度わかりやすく言う。そのハンカチはもう血だらけで使えない。取り替えるから額から手を離し私の首にその手を回せ」

ジゼルは理解したのかロランの言う通り行動した。ロランは片手でしっかりとジゼルを抱え、もう片方の手でハンカチを取り出しそっとジゼルの額に当てた。

ジゼルの冷たい体がほんのり温かさを取り戻してきた。ロランは抱き抱える手に力を入れる。

「移動魔法が使えるか試す。移動魔法は私の半径一メートル範囲まで範囲を広げる事ができる。だがお前は魔法を無効にする。だから魔法に触れないように魔法に干渉しないようにそのまましっかりと私に掴まれ」

ロランは魔法を使い二人は公爵家から姿を消した。

ロラン達は別邸の部屋に居た。だがジゼルに魔法を干渉させないように範囲を広げたせいで公爵家の椅子やベッドまでロランと一緒に移動してきた。

「ハァ」

ロランは指を鳴らしそれらを消し、意識を失ったジゼルを覗き込んだ。

ジゼルは瞼を開け見慣れた部屋に驚いた表情を浮かべる。移動魔法が使えると思っていなかったようだ。

ロランはジゼルをソファーに下ろし、すぐに部屋を出て医者を呼ぶようエミリーに指示をした。執事のヤニックはロランの洋服を見て驚く。

「ロ、ロラン様……一体」

「ジゼルが怪我をした。私たちの着替えを用意してくれ」

ヤニックは驚きロランを見て言った。

「着替え……ロラン様はお茶会に戻られるのですか?」

ロランはその言葉を聞き頷き言った。

「ああ、戻る。処理しなければならないことがあるから」

そう言ってロランは部屋に戻った。

部屋に入ったロランを見てジゼルは慌てて立ち上がり近くに置いてあった手拭き用の布を持った。

(こんな時まで私に気を遣って……)

ロランの洋服の血を拭おうとするジゼルにロランは声をかける。

「そんなことしなくて良い。すぐに医者が来る」

そう言いながらジゼルを再び座らせ止血するために抑えていた手を優しく退け傷を確認する。

想像以上に深い傷を見て心が潰れそうになる。どれほど痛いか、怖かったか。ロランは奥歯を噛む。

「結構深いな…………」

ロランはそう言いながらジゼルの額にハンカチを当てた。ジゼルの瞳は潤み、涙の跡が消えていない。

「騒ぎを起こして申し訳……ありません……」

ジゼルの力無い言葉は、守ってあげられなかったと後悔するロランの心臓に剣を突き刺す。

ジゼルが謝ることなど何一つない。ジゼルは何の落ち度もないのだ。ロランはジゼルを見た。

ジゼルは目を閉じ、ポロポロと涙を流す。ロランはその姿を見て両手を握る。ロランの不甲斐なさがジゼルを危険に晒し、怪我をさせ、泣かせているのだ。

「あの、ロラン様、」

「ロラン様!お医様が到着されました」

ジゼルが話そうとした時、エミリーがドア越しに声をかけてきた。ロランはチラッとジゼルを見た。ジゼルは何かを言おうとした。

(聞いてあげたい。どんな言葉も私は受け入れる)

ロランはジセルを見る。

「な、何でもありません」

ジゼルは消えそうなほど小さな声で言った。

ロランは黙ってジゼルを見つめる。

(何を言いたかったのだろう?ジゼルの言葉を知りたい。治療が終わったら耳を傾けよう)

ロランはドアに向かって言った。

「入れ」

エミリーに案内されながら医者が入ってきた。

邸宅の近くに待機させていた医者だ。腕は良い。ロランはジゼルの隣に腰掛けた。心配で仕方がない。痛みを耐えていることもわかる。近くにいたい。

(ああ、ジゼルに魔法が使えたら……)

ロランは悔しさに唇を結んだ。

医者はジゼルの傷を見て言った。

「ああ、これは、縫わないと……」

ロランはその言葉を聞き、体に力が入った。

(縫う?ジゼルの傷を縫うだと?)

医者はそう言うとガーゼに消毒液を染み込ませ傷口に当てた。

「うっ」

ジゼルが涙を滲ませ痛みを耐えている。ロランはジゼルの苦しむ姿を見て耐えられなくなった。

「痛がっている、どうにかできないのか?」

ロランは語気を強め医者に言った。

「……痛そうに見えませんが」

医者の言葉にロランは首を傾ける。ロランはジゼルの顔を覗き込んだ。ジゼルは顔を赤くし、嬉しそうに口角を上げている。ロランにはジゼルに何が起こったのか理解できない。だが、痛がっていない様子を見て胸を撫で下ろし言った。

「……そのようだ」

医者はジゼルの額を五針縫った。