軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

召喚魔法

部屋に入るとシャルロットはベットに運ばれていた。意識朦朧としノエルの呼びかけに答えない。顔色は青白く荒い呼吸を何度か繰り返し意識を失った。

ロランはすぐにシャルロットに駆け寄りその手を握った。驚くほど指先が冷たい。大量の血を失ったせいだ。

(このままシャルロットを死なす訳にはいかない。瀕死の人間を回復させるエンジェルを召喚する)

ロランは立ち上がった。ベッドの逆側でシャルロットを診察していたノエルがロランに気が付き頭を下げベットから離れた。

ロランは魔法陣を描き召喚魔法を使った。部屋の中が光に溢れエンジェルが降臨した。エンジェルは瀕死の人間の生命力を復活させる。眩く輝くエンジェルがシャルロットの額にキスをするとシャルロットの弱々しい呼吸がしっかりしたものに代わり、血色も良くなった。

条件はあるが、よほどの状況でない限りシャルロットが命を失ったとしても助けることができる。

ロランはシャルロットの顔を見て安堵のため息を吐いた。

だが、頭の片隅にジゼルが浮かんだ。

ジゼルがこの状況になったらロランはジゼルの命を救う事は出来ない。

そう考えた瞬間に血の気が引き心臓が貫かれるような痛みを感じた。

ジゼルが死んでしまう……この世界からいなくなってしまったら……。

そう考えるだけで指先が震え生きる気力が失われてゆくように感じた。

(ダメだ、心が乱れる。今考えるべきことではない)

ロランはその考えを頭の中から追い出すよう首を振った。

みるみるうちにシャルロットの呼吸は落ち着き、部屋中に安堵のため息が漏れる。五、六人いる侍女達は腰が抜けたようにその場に座り込んだ。だが、まだ治療は終わっていない。シャルロットの体内に毒が残っているのだ。

「ノエル、シャルロットが飲んだ毒はなんだ?」

ロランはノエルに聞いた。

ノエルはテーブルの上に置いてあった青い小瓶を指差し侍女に持ってくるように言った。シャルロットが飲んだと思われる毒薬の瓶だ。ほんの少し毒薬が残っている。その小瓶の蓋を開け、香りを嗅ぎ、

「アロマリド」

と呟いた。

「アロマリド?」

魔力の消耗が激しいエンジェルを召喚したせいか頭痛を感じながらもノエルが持っているその空き瓶を見た。青いガラスの小さな小瓶。その瓶の作りは荒い。

ノエルはその瓶をロランに手渡し言った。

「外国製のもので間違いありません」

そう言ってラベルを指差した。そのラベルはどこで作られたのかわからないよう剥がされていた。

「ロラン様、これは血糖値を急激に下げ意識低下を起こす薬の一種でカパネル王国では医師しか扱えません。苦しまず眠るように……そんな薬でございます。瓶の色は同じ青ですが、カパネルではラベルは無く瓶にアロマリドと彫ってあります。アロマリドは血圧を下げる効果もあり高血圧の患者にも処方いたしますが少量です。あと……この薬は誤って妊娠中の女性が服用すると流産の恐れがあり、特に注意しなければならない薬です」

そう言いながら医師はすぐ様赤い瓶を取り出し治癒魔法を使いシャルロットの血管に注入した。

「…おそらく服用しそれほど時間も経っておりませんのでそれが幸いしました。それにロラン様のエンジェルのお陰で命の危険は回避されましたので、数日経てば……元気になられるでしょう」

医師はすこし困ったような表情を浮かべロランに言った。

「シャルロット様がこれをどのような方法で入手したのか大変気になるところです。複雑なこともあるでしょうが……国王にどのようにご報告すれば良いのか……」

医師は苦々しい表情をロランに向け頭を下げ部屋を出ていった。シャルロットは眠っている。その顔は先ほどと打って変わって穏やかだ。

ロランはシャルロットの部屋の窓から暮れ行くカパネル王国の夕日を見つめた。あの丘の夕日と違い感情を揺さぶられる感覚はない。ただ、暮れゆく夕日、一日が終わり夜の帳が下りる。それ以上もそれ以下もない。

(あの丘がなければ私もこの夕日を夕日だと思って生きていただろう)

何も感じず、心を揺さぶられることなく淡々とした人生を。それが与えられた人生なのだといつからか思うようになり、そう生きてきた。特別な喜びも、悲しみもなく、ある意味で穏やかな日々。

けれどいつからか心の空洞が無視できないほど大きくなり、幼い頃に見つけたあのマグノリアの丘に行き、夕日を見た時に涙が止まらなかった。なぜ泣いたのかわからない。

(けれどあの時から私の中で何かが変わった。そして、ジゼルに出会い、彼女を知れば知るほど心を揺さぶられ彼女の前だけは冷静な私で居られなくなった)

ロランはシャルロットに視線を移した。シャルロットは眠る姿も美しい。だが、ロランにとってそれ以上でもそれ以下でもない。

この夕日と同じだ。