軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

毒を飲む

ある日、運命を動かす大きな事件が起きた。

ロランは城の執務室で仕事をしていた。その日は珍しく朝からシャルロットが訪ねて来ず静かな午前中を過ごしていた。このまま午後も静かに穏やかに仕事ができればと思っていた矢先、慌ただしくドアをノックする音が聞こえる。

一体誰だ?

ロランがドアを見ると同時に入室の許可をしていない扉が開く。

「失礼します!!ロラン様!助けて下さい!!シャルロット様が服毒なさって!!」

侍女は震えながら頭を下げた。侍女の洋服に血がついている。

シャルロットが毒?あのシャルロットが?

侍女のブラウスとスカート部分に血がついている。

シャルロットが吐血した?

鼻をつく血の香りが部屋中に漂い始めた。

生々しい鮮血の赤と侍女の蒼白した顔面の対比がどこか非現実的に思える。

一気に体がズシンと重くなる。急激に口の中が渇き底のない穴に落ちて行くような感覚がロランに襲いかかる。

平穏を望んでもその立場上平穏などない。大魔法使い、公爵家次期当主、シャルロットの恋人。

逃げ出したくなる現実に眩暈がした。

だがロランは立ち上がり椅子にかけてあるローブを羽織った。おそらく召喚魔法を使うことになるだろう。

シャルロットが毒を飲んだと聞いた時から思考が停止し気持ちは焦る。一体どうして?何が起きたのだと得体の知れない恐怖すら感じる。

それと同時にシャルロットはなぜ毒を飲んだのだと怒りに似た気持ちも否定できない。心の奥底にこの狂気じみた行為をしたシャルロットを責めたい気持ちも否めない。

このままズルズルと何処かに引き込まれるような気がし鳥肌が立った。

シャルロットは何のために毒を飲んだのだ?

シャルロットの衝撃的な行動に動揺する気持ちを堪えロランは冷静に現状を把握しようと頭をフル回転させた。

まさか……世間の関心を取り戻すために毒を飲んだのか?

そう考えた瞬間、ロランは身体中の血の気が引いた。

シャルロットは体を張ってまでこんな狂気じみたことを?

そこまでして世間の関心を取り戻しジゼルを追い詰めたい?

そこまでして私を手放したくない?

そう考えると神経を逆撫でされるような、そこ知れぬ心の闇を感じますますロランの心は鉛のように重くなった。

だが、それでいて、そこまでするシャルロットに対し同情の気持ちも芽生える。

シャルロットも……苦しんでいる。

「ハァ……」

ロランは重々しい気持ちを吐き出すようにため息を吐いた。

「ロラン様!すぐにシャルロット様の元に!!」

侍女は切羽詰まった表情を浮かべ叫ぶ。ロランはその声に我にかえり直ぐに侍女と共に部屋を出た。

ロランは城内を移動しながら考えていた。

シャルロットは自分が死なないとわかっているから毒を飲んだ。

私が死んだ人間を生き返らせることができる唯一の大魔法使いだからだ。

けれど、万が一がない訳ではない。

それほどの危険を冒してまでシャルロットは……。

ロランは両手を握りしめた。

侍女に案内されシャルロットの自室に入るとすでに治癒魔法が使える医師ノエルが来ており床に倒れたままのシャルロットの脈を取っていた。大量に血を吐いたのかシャルロットのドレスは血まみれだ。

ロランはその姿を見て息を呑んだ。

シャルロットのそんな姿を見たくない。いつも優雅に美しいものに囲まれ微笑んでいる姿が似合う。こんな床に……。

ロランは胸が押しつぶされたように苦しくなった。

医師のノエルは部屋の入り口で立ち尽くすロランの方を振り向いた。その額に汗を浮かべ唇を震わせている。何か恐れに似た感情を抱いているように見える。ロランは固唾を呑んだ。

「ロラン様の召喚魔法があればシャルロット様は大丈夫でございます。……と、取り急ぎドレスを脱がせ処置をします。恐れ入りますが……」

ロランはノエルの言葉を聞き、少しだけ安堵した。

治療のためシャルロットのドレスを脱がす為私に出て言って欲しいと言いたかっただけであんな表情をするとは、今の私はそれほどの表情をしているのだろうか。

ロランは黙って頷き部屋を出た。

部屋の前の廊下に背をつけロランはこの状況を改めて考えた。

なぜシャルロットは毒を飲んだのか。

民衆の関心を引き寄せるためにここまでするのだろうか?

床で横たわるシャルロットを思い出すと心が張り裂けそうになる。それは愛情ではなくそこまで追い詰めてしまったという罪悪感。

私はジゼルに惹かれている。愛し始めている。だが、こんなに哀れな姿を晒してまで縋りつこうとするシャルロットを見ると深い罪悪感に苛まれる。けれどジゼルを追い詰めたシャルロットを許す気持ちにはなれない。一体どうしたらいいのだ……。

ロランは奥歯を噛み瞼を閉じた。

部屋の中から呻き声が聞こえる。シャルロットが苦しんでいる。

そんな声を聞きたくない。けれど心の奥底で罪を償うべき時なのだと思う気持ちも否定できない。そしてシャルロットの絡みつくような嫉妬の矛先にジゼルがいる。ここまでするシャルロットがジゼルを狙わないわけがない。

そう考えるだけで全身が金縛りにあったように動けなくなる。

シャルロットはいつかジゼルを、殺してしまうかもしれない。

目の前が真っ暗になり体が粟立つ。怖い、ジゼルを失うと考えるだけで体がバラバラになってしまいそうになる。もし、ジゼルが殺されてしまったら私は……。

ロランは恐怖に身震いし、頭を振った。こんなことを考えてはダメだ。

だが、なぜシャルロットは毒を飲んだのだ?

まさか……勘付かれた?

私がシャルロットを調べていることに?

それとも私がジゼルに惹かれていることに?

昨日までのシャルロットは普段通り執務室にやってきて愛の言葉を繰り返しせがみ、その言葉を聞き満足そうに微笑んでいた。全ていつも通りだった。

ランスロットがしくじる訳がない。

それなら私がジゼルに惹かれていることに勘付かれたかもしれない!

それでシャルロットは毒を!!

ロランはドアにもたれかかっていた体を起こした。

一体どこで勘付かれた?まさか屋敷に買収された者がいるのか?

ロランの鼓動が速くなる。

どうしたらいいのだ?!何も、考えられない。

「ロラン様お入りください」

部屋の中からノエルがロランを呼んだ。

ロランは冷静を装い部屋へと入っていった。