軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

マグノリアの木の下で

ロランが帰って来た。

ジゼルは外套を羽織りエミリーと共にエントランスでロランを出迎えた。ロランは馬車を降り柔らかい表情を浮かべジゼルに頷き、執事に持っていた鞄を預け外へと歩き出した。

ロランの表情にジゼルも笑顔で応える。

嬉しい、いつからかこうして優しく微笑んでくださることが多くなったけれどその度に断ち切れないロラン様への思いを募らせてしまう。

ジゼルは十日後に別れる現実を思い出し胸を押さえた。ロラン様に二度とお会いできないと考えるだけで悲しみで胸が潰れそう。込み上げる思いを堪えるように胸の前で両手を握った。

だけど今晩はロラン様が外出に誘ってくれた特別な時間。何も考えず思い出になる夜にしたいから気持ちを切り替えよう。

ジゼルは顔を上げロランの後を追って歩き出した。

エントランスを出て階段を降り、待機している馬車に乗り出かけるのか、それともロランの魔法で出かけるのか、ジゼルは階段の下で立ち止まろうとした。

しかしどちらも違った。

ロランは口角を上げ「行こう」と言ってそのまま歩いて別邸の門を出た。

ジゼルは予想外の行動に驚いたが、ロランの後をついて行った。

ロラン様とお散歩?どうしよう、すごく嬉しい。

ロランは別邸を出て道なりに歩き始めた。空には月が出ており優しい光で行く道を照らす。ロランの後ろ姿を見つめながらこのまま二人でどこか遠い世界に行けたらいいのに……そんなことを考えながら歩いた。前を歩くロランの歩調に合わせ長い髪が揺れ動く。しなやかで美しい金色の髪が月の光を浴び青みのあるシルバーに見える。ロランが寝静まってから何度もこの指先で触れたあの髪。もうすぐお別れだと思うと駆け寄りその毛先に触れたい衝動に駆られた。

ロランは速くもなく遅くもなく、まるでジゼルの歩幅に合わせるようにゆっくりと歩いている。少し近寄りそっと手を伸ばす。指先に触れるか触れないかの距離、だけどその髪に触れる勇気が持てなかった。

ロランはどこかに向かっている。だがジゼルはこの別邸に来てから外に出たことが無くどこに向かっているのか全くわからなかった。ただ、ロランと歩く夜道がずっと続くことを願った。

ロランは途中で道から外れ膝丈ほどある草むらをかき分け少し勾配のある坂を登って行った。ジゼルも後に続く。

坂の途中、ロランはジゼルを振り返りまた歩く、それを三度ほど繰り返した時、ジゼルに向けて剣を抜いた。

ロランはいたずらっ子がいたずらをする前のような可愛い笑顔でジゼルを見た。

あ、ロラン様は実戦をして下さるのね!

ジゼルも胸に隠していた剣を取り出し微笑みながらロランを見た。

ロランが剣を振りかざして来たのをジゼルはギリギリのところで避けながら攻撃を仕掛けた。ロランは笑顔を浮かべながら楽しそうにジゼルと剣を交わす。余裕のあるロランに対しジゼルは必死で応戦する。ロランはどんどんジゼルを追い詰めて行った。一方ジゼルは逃げながら追いつかれながら戦っていたが、慣れない坂道での攻防に足元が安定せず倒れた。だがすぐに土を握りロランめがけ投げつけ、その隙に立ち上がり逃げた。

ジゼルは全速力で丘の稜線を走り、城と町が一望できる頂上の開けた場所に出た。

そこには一本のマグノリアの木がありその木の下でロランに捕まった。

「ハァハァ」

息が上がっているジゼルに対してロランは一つも乱れていない。

ロランはジゼルの首に剣を突きつけ

「殺されるぞ!」

と言って笑った。

「ここであなたに殺されても……それは本望です」

ジゼルも笑顔で答えた。これは紛れもない本心だ。

その言葉を聞いたロランは目を見開きジゼルを見た。

あ、変なこと言っちゃったかな……ジゼルは「ごめんなさい」と言って下を向いた。

さっきまで笑顔だったロランの顔色が変わるのを見る勇気が無かった。

ロランは下を向いているジゼルの顎先に指をかけジゼルを上に向かせた。

目が合った。

ロランはフッと微笑みジゼルにキスをした。

「……」

ジゼルは何が起きたのかわからなかった。

ロランの妻として過ごして来た月日の中で、一度もロランとキスをしたことが無かった。

結婚式の時も、抱かれている時も、一度も。一番簡単な愛情表現をしないのはロランの意思だと思っていた。

ロランは驚くジゼルの唇を離し、顔にかかる髪を後ろに撫で付け額の傷にもキスをした。

驚いて硬直するジゼルを優しく抱きしめ、もう一度キスをした。

ジゼルの瞳から涙が溢れ、頬を伝わり下にぽたぽたと落ちていった。

ロランは指でその涙を拭い、ジゼルを見つめた。

ジゼルもロランを見つめた。

「お前……」

「グギャォー!!」

ロランが話をしようとした時、空気が揺れるほどの雄叫びが聞こえた。

声の方を見ると月を覆い隠すほど大きなドラゴンがカパネル城の真上に現れた。そのドラゴンは雄叫びと共に暴風を呼び空が真っ暗に変わった。

一体何が起きているの?ジゼルは目の前で起きていることに対処できず呆然と見ている。

「ガァギャァー!!」

突然大きな雄叫びを上げ、口から巨大なエネルギーの塊を城に向かって放出した。

ドカーン!!

物凄い衝突音がし、眼下に広がる街の一部が破壊され、城からは火の手が上がった。

ロランはその様子を見て目を見開き動きを止め、ジゼルは燃える城を見てロランの愛するシャルロットを思い出した。

「クッ……やはり!!私から離れるな!!」

ロランはジゼルを抱き寄せ移動魔法を使った。