軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

距離

口下手な私がロラン様に正直な気持ちを伝えるにはどう言えば良いのだろう?

ロラン様の中で私は悪女だから裏があると思われているかもしれない。でも私にできることは誠心誠意ロラン様にこの気持ちをお話しする方法しかない。

ジゼルは両手を握りしめた。

ロランの望み通りここから去る、そう決めたジゼルが今更シャルロットを不安にさせるなどあり得ないことだ。

それに遠くに行くという言葉の意味は二度と会わないことを指す。魔法が使えないジゼルが移動する手段は馬車か自分の足で歩く以外ない。遠くに行けば戻って来られないのが現実だ。

先日の海がジゼルにとってどれほど嬉しい出来事だったかはおそらくロランにはわからないだろう。海を見るまでにどれほどの距離を移動しなければならないか、その途中危険な目に遭遇する可能性も否定できない。

だから一生見ることができないかもしれないと思っていた海にロランが連れていってくれたことはジゼルにとって夢のような奇跡のような出来事だったのだ。

遠くに行くはジゼルにとって「二度と会わない」という意味につながる。大魔法使いのロランがその意味を理解できないことは当然だとジゼルは気がついた。

魔法が使える人間の視点など私にわかるはずが無かった。それも大魔法使いとなれば想像もつかない。私の話し方はロラン様に全く通じない、もしかしてロラン様の話も私が全く理解していなかったかもしれない。今更そんなことに気がつくなんて……。

大魔法使いと魔力のない人間。

あまりに違う私達はこんな些細なことでもすれ違ってしまうんだ。

ジゼルは目を閉じた。私が見えている世界はロラン様とは違う。

ロラン様が遠い。本当に遠く感じる。こんな私がシャルロット様に敵うわけがない。

何も言わなくても通じ合えるなど私とロラン様の間には成立しないのだわ。だからあの日もロラン様は黙っていらっしゃったのかもしれない。私は何一つロラン様を理解していなかったんだ。

ジゼルはその現実に気がつくと改めてロランとの距離を感じた。心の距離、体の距離、生きる感覚の距離。ずっと縮まることのないこの距離。ロランの邪魔にならないように遠くに行く。全ての距離をひっくるめた意味だ。

私はロラン様が好き。できることなら近くの町に住んでロラン様を陰から見守りたい。だけど私の存在がお二人の幸せを邪魔してしまうから遠くに行くしかない。そんな存在はいない方がいい。だけど本当はとても辛い。

でも、それ以外の選択肢もない。そのために一人で生きようと今頑張っているのに心は揺れている。でも、私には選択肢が無いからそうするほか無い。

ロラン様だけがその選択権を持っているから。

ジゼルはゆっくりと目を開け手の中の葉を見つめた。

その葉は握った手の圧力に屈し原型をとどめていない。クシャッとなった木の葉はジゼルの手から落ちていった。まるで今のジゼルの心のように見えた。

ロランは黙ってその様子を見ている。今、何を思っているのかは全くわからない。

勇気を出し、愛する相手の幸せを願い離婚後二度と会わないというこの言葉を口にする悲しさはじわじわとジゼルの心の世界から色彩を奪う。この心の景色がモノクロに変わる前に消えたい。

だがその前にロランにこの言葉を信用してもらわなければならない。その意味を理解してもらわなければならない。

ジゼルは唇を結び奥歯を噛み締めた。

私がロラン様に信用されていないからこの言葉も同じように信じてもらえない。だが、どうすればロラン様はこの言葉を信じてくれるのだろう?

本当にお二人の前から消えます。二度と会いません。永遠に会うことはありません。

そう言えば良いのだろうか?

ジゼルはロランの視線を避けるようにしゃがみ込み床に落ちた葉を拾った。下を向くと鼻の奥がツンと痛む。泣きそうな自分を追い出すために肉刺だらけの手のひらを見つめた。一生懸命やり続ければ何かが変わる。……ロラン様にわかっていただく努力をしよう。

ジゼルは立ち上がり埃だらけのスカートを見て小さく息を吐いた。

こんな格好で立ったままお話しすることでは無いわ。落ち着いて話をしなきゃ。この汚れた格好もきっと印象がよく無いはず。まずは着替えて出直そう。そしてエミリーにお茶を頼みしっかりと向き合って一つ一つ絡まった糸を解くように丁寧に説明しよう。まずはそこから始めよう。

ジゼルは申し訳なさそうな表情を浮かべロランに話しかけた。

「あの、ロラン様、急ぎ戻ってまいりましたので汚れた格好で……その、申し訳ありません、急ぎ着替えて参りますから、あの、少しお待ち下さいませ」

ジゼルは簡単に頭を下げロランを見るとロランは黙ってジゼルを見ている。

沈黙が何を意味するのかわからない。ジゼルはロランの沈黙に耐えきれなくなった。

心臓がバクバクと音を立てる。

ロランの表情は怒っているようには見えない。だが、優しい表情でも無い。かと言って無表情でも無い。ただその瞳からは温度を感じた。熱い情熱を感じる瞳。

何か言いたいことがあるのだろうか?

ジゼルも黙ってロランの言葉を待ったがロランは何も言わずソファーから立ち上がった。