軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

心から求めた時

――忘れられるはずがない。

幼い頃からずっと見続けてきた人。

憧れて、憧れて、同じ空間にいることが奇跡にさえ思えたあの日々。

同じベッドで眠るようになり、手を繋いで眠るようになり、言葉はなくても通じ合えたと感じた数々の瞬間。あの夜、マグノリアの丘でキスをした後、何かを言おうとしたその瞳は今でも心に刻まれている。

けれど、全ては偽りだった。

「私は、愛されていなかった! 選ばれなかった!!」

心の傷を再び抉られるような感覚に胸を抑える。美しい思い出が崩れ、瓦礫の中で絶望に打ちひしがれたあの瞬間を思い出し涙が止まらない。

『ジゼルは、本当に、そう、思っているの?』

また声が聞こえる。

(本当にそう思っている? そうとしか思えなかったあの時のこと、でも、本当に……そうだったのだろうか?)

ジゼルは動きを止める。怒涛の展開に追いつかなかった思考、目の当たりにした現実、あの新聞記事……立ち止まり考えられなかったあの時の事。ジゼルはあの時のロランを改めて思い出す。

『ジゼル!! 行くなーーーーーー!!』

ロランの叫びを思い出し、ジゼルの胸は締め付けられる。

(……いなくなることを望んでいるならばなぜ、ロラン様はあんなに必死に手を伸ばし続けてたのだろう? なぜ名前を呼び続けたのだろう? なぜ、涙を流したのだろう?)

――考えても答えのない疑問。その答えはロランしか持っていない。

ただ、それを聞くことは叶わない。

『ジゼル、一番大切なのは、ロラン・ジュベールがあなたを愛しているか、より、 あ(・) な(・) た(・) が(・) ロ(・) ラ(・) ン(・) ・(・) ジ(・) ュ(・) ベ(・) ー(・) ル(・) を(・) 愛(・) し(・) て(・) い(・) る(・) か(・) 、じゃない?』

(ロラン・ジュベールを愛しているか?)

大魔法使いのロラン・ジュベール。

ジュベール公爵家次期当主のロラン・ジュベール。

そしてあの日、目を細め妻だと言ってシャルロットの目の前で抱き寄せてくれた夫、ロラン・ジュベール。

「愛しているか? そんな、こと……!!」

ジゼルは言葉に詰まる。一度も口に出すことはできなかったロランへの思いが溢れ出す。

五年経とうが十年経とうが千年経とうが変わるはずがない。

「うっ、うぅ……」

封じ込めていた思いが溢れ出す。

「あ、愛しています……忘れられる、はず、ない……ロラン様を……忘れられるわけ……な……い」

ジゼルはこの世界に戻り初めて『ロラン』の名を口にした。その瞬間ジゼルの感情は爆発する。

「うっ、ロラン、様に、会いたい、会いたい、です、遠くからでもいいから……」

「愛されなくてもいい……何も、何も望みません、ただ、ロラン様に……会いたい」

ジゼルは枕に顔をつけ、涙を、溢れ出す感情を、そして恋しさを堪えようとした。

揺れる金色の髪、感情を映す青い瞳、どこか寂しげな笑顔。

「愛されなくてもいい、同じ空気が吸えるのなら、同じ時間を生きられるのなら、遠くからその姿を見つめ幸せを願えるのなら、私は……どんなことでも我慢できる」

「も、もう、何一つ求めません、初めて会った頃のように、空気にだってなれます……無視されても、目に映してもらえなくても、それでも、それでも構いません……」

「だから、神様お願い、ロラン様の世界に、帰りたい……ううっ、帰りたい……ロラン様に……会いたいんです……」

この五年胸に押し込めていた感情は止め処なく溢れ出す。

「ロラン様、ロラン様……愛しています……心から、愛しています。な、何も、求めません……だから、一目で……い、いいから、お会い、した……い」

ジゼルは両手で顔を覆い息を止めた。行き場のない涙が指の隙間からこぼれ落ちる。いつからか、ロランに何かを求めていた。だから深く傷ついた。けれど、一番大切なのは自分自身の気持ちだった。

「よ、ようやく、気がついたんで……す。私の気持ちが……何より、大切だったことに……ロラン様、ジゼル・メルシエは、あなたを、愛しています。た、たとえ愛されなくても……ただ、ただ、愛しています…………」

ジゼルが両手を組み、ロランを思い浮かべ愛の言葉を口にした瞬間、空中に魔法陣が浮かび上がった。

あの夜、ロランが命をかけ放った移転魔法が発動されたのだ。

ジゼルの体が光り始める。

「!? な、何?……」

事情を知らないジゼルは目を見開き茫然とする。

立っていられないほどの熱感が湧き上がり、火山が噴火するような強烈な圧力が身体中を駆け巡り、心臓が跳ね上がった。

「うっ!!」

大砲で体を撃ち抜かれたような衝撃に意識が混濁する。

「ロラン……様……」

遠ざかる意識の中ジゼルはロランの名を呟く。

これで死んでしまっても最後に口にしたのは愛しい人の名。全てがスローモーションのように流れる時間、頬を流れる涙が真珠のように宙に浮かんで見えた。

そして遠ざかる意識、それと同時に全身の血管に何かが流れ込み、何が起きたのかわからぬまま、ジゼルは意識を失った。

『……ジゼル、お願いがあるの』

頭の中で声がする。この声は、美琴だ。

『美琴様?? 』

『ジゼル、時間がない。この剣を持って行きなさい。これは…………の剣、あとこの実を』

『え? 美琴様? 聞こえない、なんとおっしゃった?』

『元の世界に戻せば、きっと……に会える。私も……ジゼル、幸せになるのよ』

『美琴様? 美琴様!?』

ガタン……ガタガタ

(う、ん……何??)

ジゼルは遠くで聞こえる何かの音に、意識を取り戻した。うっすらと瞼を開け周りを見る。しかし目の前は真っ暗で何も見えない。

(私、どうしたのかしら……寝てしまった? あの夢の続き?)

ガタガタガタ!! バーン!!

何かが暴れているような音がし、ジゼルの体に緊張が走った。

(何? 怖い……ど、どうしよう……)

ジゼルは暗闇の中恐怖に身を縮める。

ガタガタ…バサバサ!!!

聞き慣れない羽音に生唾を飲み込む。夢か現実かわからぬ中でジゼルの恐怖はピークに達する。

ガタガタガタガタ

「……キュウ」

……

「? キュウ?」

動物の鳴き声に目を見開く。暗闇を見つめながら目を凝らすと同時に夜明けのような優しい光がどこからか差し込み辺りを明るく照らし始める。

目の前にうっすらと何かの輪郭が見えた。ニワトリほどの大きさの何か、だ。首を傾げ見続けていると小さなドラゴンがジゼルを見上げていた。

「……ド、ドラゴン?」

「キャウ」

ドラゴンはジゼルの胸に飛び込みジゼルの顔をじっと見つめる。

ジゼルは驚きに体が動かない。

しかしドラゴンはジゼルに頭を擦り付け嬉しそうに目を細めた。

「……ドラゴン……」

ジゼルは目の前にいる小さなドラゴンを見て言葉を失った。

見覚えがある。

「……」

あの日、初めての契りの夜ロランが召還した……

「……あなた……ロラン様のダークネス……ドラゴン?」