軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ジャスミンの秘事

二週間の休みが始まった。

ロランはその間に違和感の種を探そうと決めた。ジゼルが去った後のベッドに腰掛け違和感について考え始める。

何かがおかしい。ただその何かがわからない。

ジゼルが泣いていた理由。

頑なにロランの元から去ろうとする理由。

通じ合えたと思えば、一歩引いてしまう理由。

様々な 違和感(理由) の正体はわからない。だが、確実に二人の間に入り込んでいる。

誰かがシャルロットに買収されている可能性も視野に入れている。が、該当する人間がいないのが現実だ。

ロランはため息を吐き、窓辺から外を眺めた。

ガチャ

突然部屋のドアが開き、オーブリーが花を持って現れた。

ロランはノックをしないオーブリーを睨む。主人のプライベートな部屋にノックもせず入るなどあり得ない行為だ。

「ロ、ロランさまいらっしゃらないかと、ドアもノックせず失礼いたしました」

オーブリーは青ざめ姿勢を正し謝罪する。その様子を見つめながらロランは低いトーンで話しかける。

「……いつもここに花を持ってくると聞いたがジゼルがいる時も そ(・) う(・) な(・) の(・) か(・) ?」

ロランの言葉に緊張するオーブリーの手には黄色のブーゲンビリアが握られている。

「も、申し訳ございません!! いつもジゼル様がお出になってから参りますので決してそんなことは!! ロ、ロラン様がお帰りになっているとは……も、申し訳……」

「……もう良い。ところでその花は?」

ロランは震え涙を溜めるオーブリーを見て弱いものをいじめているような気分に陥った。オーブリーはジゼルが信頼している心優しい青年だ。

ロランは怒りを堪える。

ロランの気持ちを察したのかオーブリーは震えながら頭を下げ、ロランに花を見せた。

「き、今日はロランさまの髪色に近いこのお花を、ジ、ジゼルさまがお好きな花ですので、あとそのほかにジゼル様に 似(・) た(・) 清らかなジャスミンの花を……」

(ジゼルに似たジャスミン? だからこの部屋にジャスミンが飾られているのか)

ロランは不快な気持ちを抱く。一介の使用人が主人の妻に……だが、それは単純な嫉妬。ロランは小さく首を振り、気を取り直しオーブリーに話しかける。

「オーブリー、最近魔法で庭を構うことはあるか? 昨夜木の葉から魔力を感じた」

ロランは窓を背に聞く。何気ない姿だが、ロランの存在感は一種の圧力になり、オーブリーは背筋を伸ばす。

「ジゼル様が木の上でお休みになると聞き、い、急ぎ枝を払いました。ただ、ジゼル様はそれを知りません。私が勝手に……」

「そうか、気を遣ってくれたんだな。わかった。もう下がって良い」

ロランは庭園を見つめた。ジゼルがカゴを手に畑に向かう姿が見える。ジゼルの後を二匹の黒猫が付いて歩く。そしてその後をオーブリーが追いかけていった。

「……庭師のオーブリー」

ロランは両手を握る。嫉妬の炎が再び燃え上がりそうになったが、オーブリーはジゼルが信頼している人間だ。くだらない嫉妬でジゼルを悲しませたくない、ロランはそう自分に言い聞かせた。

程なくし、ヤニックが朝食ができたと呼びにきた。ロランはヤニックと共に食堂に移動する。ジゼルは先に来ていたようで笑顔でロランを出迎え、頭を下げた。

ロランもジゼルに頷き、椅子に腰掛け、ジゼルも着席する。

それと同時にメイドが料理を運び、次々にテーブルに並べられる朝食を見てロランは驚いた。

目の前に並べられた朝食はどれも新鮮でキラキラと輝いている。作りたての温かな朝食。

そして、魔法を使わなくていい朝食はロランをほっとさせる。些細な魔力でも出来るだけ温存したい。

(……ああ、よかった)

魔法を使わなくて良い食事にホッとする自分にハッとする。これが、常にジゼルが感じていた感覚なのかと唇を結んだ。

ジゼルは朝食に手をつけずロランにスープを持ってくるようエミリーに指示していた。

ロランは早速朝食を食べる。

「!?」

一口食べ、ロランは驚いた。香りも味も今まで食べていたものとは比べ物にならないほど美味しかった。疲れた体に染み渡るような朝食はロランを癒し前向きな気持ちに誘う。食事とは本来こういうものだとロランは知った。

そしてエミリーが持ってきた湯気が立つスープをスプーンですくい口に入れる。

(……温かい)

心と体の隅々まで染み渡る温かさに心まで溶けそうになった。そして同時に内側から活力が生まれる感覚に驚く。なんの変哲もない優しい味のスープに感動するなど思いもよらなかった。

食事が終わり、ロランは口元をナフキンで拭う。ジゼルはその様子を少し緊張したような表情を浮かべ見ている。

「……料理人が代わったのか?」

ロランは徐にジゼルに話しかける。ジゼルはハッとしたような表情を浮かべ、穏やかな口調でロランの質問に答えた。

「いえ、同じです。だけど、皆さん考え方が変わったのかもしれません。お気に召さなかったですか?」

遠慮がちな笑にロランは柔らかな表情を浮かべ言った。

「いや、美味しかった。とくに、このスープ」

その言葉を聞いたジゼルの顔がパッと明るく輝く。花が咲いたようなその笑顔にロランは口元を緩めた。

「あ、ありがとうございます。それは私が作りました。ロラン様がお疲れでしょうから」

思いがけないジゼルの言葉に心が躍り出す。

ジゼルの気持ちがこもったスープはロランの為に作られたのだ。

「お前が、作ったのか?」

そう言いながらロランの表情はより柔らかく輝く。

「はい、美味しいと言って下さって……嬉しいです」

ジゼルは頬を赤くし、目線を下げ頭を下げた。その両手は握られている。

(嬉しくても両手を握るんだな)

ロランは微笑みを浮かべゆっくりと頷いた。

温かな雰囲気の中の朝食、些細な日常にも愛は溢れている。

言葉はなくともそこにも愛はあった。