軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ジゼルを愛人に。

戦場に戻ったロランを迎えたのは仲間の魔法使い、カパネル王国の兵士、そして貴族たちだった。

命令に背き駆けつけてくれた彼らに改めて礼を言う。

「ロラン様、私たちは自分の意思でここにまいりました。ですからロラン様が気に病む必要はありません」

そう言って笑顔を向ける彼らはロランに下された王命を知り、迷うことなくここに駆けつけた。そしてそれを見た兵士たちも詳しい事情は知らないが、尊敬するロランのピンチだと聞き駆けつけた。

戦闘は一旦終結し、主人がいないこの領地を王家が管理すると発表された。辺境は国を守る上で重要な場所。ロランの両親ジュベール公爵が協力するのだろう。

「マチアスに会いました」

ロランは駆けつけた仲間達と食事を摂りながら淡々と言った。

「マチアス。ブルレックの若き王、ジゼル様を狙っているあのマチアスです」

グレアムはロランの言葉を補足するよう言った。クレール伯爵達、貴族は驚きロランを見つめる。

「二回目の攻撃寸前で逃げられましたが、あの男、手強い。王は、戦闘は終結したと言いましたが、恐らく近いうち再び会うでしょう」

「ロラン様、マチアス王がカパネル王国に再び現れるということでしょうか?」

クレール伯爵は眉間に皺を寄せロランに聞いた。

「クレール伯爵、初めて会ったマチアスは我がカパネル王国の王とは違い、頭の切れる男です」

(恐らくマチアスはジゼルが魔力を無効にする可能性があると気がついている)

その言葉にグレアムは口に含んだワインを吹き出す。

「お、おい、ロラン、それはまずいぞ、我が王がバカだと言っているような言葉は流石にまずい」

「……グレアム、私はそんなことは一言も言っていない。お前が言ったのだ」

その言葉に周りは笑い出した。ここにいる人間は皆そう思っているからだ。

「恐らく……マチアスはジゼルの価値を知っています。この国が今、分断の道を進み始めた今、マチアスはこの絶好の機会を逃さないでしょう。恐らく一番不安定なこの領地に再び現れます」

「ではロラン様はここでマチアスを待つのでしょうか?」

クレール伯爵がロランに聞く。

「私もマチアスには用がありますから、少しの間ここに滞在しようと思います。ただ、落ち着けば妻の元に戻ります」

ロランはワインを口に含みクレール伯爵に微笑んだ。

クレール伯爵はロランがそんな表情を浮かべるとは想像もしなかっただけに麗しく微笑むロランを見て驚いた。そして、ベルトランが自分の息子以上にロランに期待する気持ちも理解できる。

ロランは常に堂々とし、自分の思いを貫く強さがある。王家や、ジュベール公爵にシャルロットとの結婚を強要されてもはっきりと突っぱねる強靭な意志は大魔法使いの名に相応しい。

そして聖女ジゼルを安心して任せられるのはロランだけだ。

ロランは修復が終わった山を見つめながら心に引っかかっている疑惑を考え始める。

違和感がある。その違和感の正体は分からない。だが、些細な瞬間にその違和感が姿を現す。徹底した管理をしても、ジゼルが、戦争が起きたことを知っていた。

もし、万が一別邸に仕える者が裏切っていたら……

ロランは一番考えたくない可能性を考え始める。

最初こそジゼルを嫌っていたヤニックは、ロランの行動に心配をしながらもジゼルを認めている。エミリーも身元は確かな娘であり、ジゼルを慕っているのもわかる。オーブリーも同じだ。他の使用人も昔からロランに仕えている信用できる者ばかりだ。

だが、何かがおかしい。

戦争の件もそうだが、何より愛情表現してもジゼルがそれを信じていないように感じるのだ。

その理由がわからない。

泣いていた理由もわからない。

そして戦争が勃発したという事実だけを知っている理由もわからないのだ。

ただ、医者がそんな話をしたかも知れないと言った事実はエミリーに確認すればわかることだ。

それに、裏切り者がいたとしても裏切るメリットがあるのだろうか?

(――結局……杞憂かもしれない)

ロランは大空を見上げた。雲ひとつない青空はロランの気持ちをすっきりとさせる。

とにかく、今は環境を整えることに集中する。五ヶ月が終わる前までに決着をつけ、ジゼルにこれからも共に生きようと、伝えことが何よりも大切なことだ。

「ロラン様! ジュベール公爵夫妻がロラン様に面会したいといらっしゃいました」

ロランが戦場に戻った数日後、ロランの両親ジュベール公爵夫妻が現れた。

「……用事はないと伝えてくれ」

ロランは椅子に腰掛け手に持った書類を一旦机に置き言った。簡易テントの入り口の向こうに見える両親を見て唇を結ぶ。今、心にあるのはジゼルを排除しようとした実の両親に対する失望だけだ。

「ロラン! あなたが一人で戦って倒れたと聞いて……」

ロランの母ルィーズが泣き崩れ、ロランの父リオネルが支える。その姿を横目にロランは書類に目を通し仕事を続ける。

ロランをここまで追い詰めたのはシャルロットを支持した母親の存在。父親はロランやベルトランと違い穏やかな人間で争いは好まず、ジュベール公爵家を発展させるよりも守りを重視する。だから王家とは穏便な関係を望んでいる為シャルロットを受け入れた。

「ロラン……ロラン、私の息子」

ルィーズは泣き続ける。

「ハァ……」

ロランはため息を吐きテントの入り口に移動し、 両親(二人) を見た。

二人はロランの姿を見てその圧に声を失う。

以前のロランと違い、目の前のロランは大魔法使いにふさわしい圧がある。息子じゃなければ簡単に話しかけられないような雰囲気に二人は言葉を失った。

「ジュベール公爵家から除籍する手続きはまだ行われていないようですね。私は皆様の お(・) 望(・) み(・) 通(・) り(・) 一人で戦いました。これ以上何を望まれるでしょうか?」

淡々としたロランの言葉に二人は息を呑む。

ロランの瞳から親愛の情が消え、他人に接する時の冷たい態度が今、自分達に向けられているのだ。

ロランの瞳は鏡面のように両親を映す。完全に心が離れたことをその瞳から二人は悟った。だが、たった一人の息子を諦めたくはないと、父リオネルが口を開いた。

「ロラン、今日は提案があって来たんだ。ロランがジゼルを手放したくないなら認めよう。この地を王から賜りロランの愛人としてここに住まわせよう。何、不自由はさせない。それにこの提案は王とシャルロット様も了承しているんだ」