軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新しい日々が始まる

ロランは溢れるジゼルへの想いを抑え言った。

その言葉にジゼルは驚いた表情を浮かべ首を傾けている。間を空け、焦ったようにジゼルは頭を下げ言った。

「い、いいえ、私はこちらで充分です、大丈夫ですから……」

うっすらと額に汗を滲ませ遠慮するジゼル。嫌ではなさそうだが、どうして良いのかわからない戸惑いの表情をロランに向けている。ロランはその表情を見て口角をあげ、強引に言葉をかける。

「聞こえなかったのか? ベッドに来い」

言葉は強いが、遠慮するジゼルの姿を見て目を細める。慣れていないロランの優しさに戸惑っているのが伝わってきた。それほどまでに冷たく接していた自分の態度に後悔を抱きながら、恐々近づくジゼルから目を逸せない。

(少しでも動けば逃げてしまいそうだ)

ロランはわざと戯けるようにポンポンとベッドを叩き、できるだけ自らのオーラを消すよう自制した。

これが先ほどまで貴族達を震えさせた大魔法使いの姿とは思えない。

圧倒的な力を持つロランが唯一気を遣うただ一人の人間。

「あの、ロラン様はどちらに……」

「!!??」

ロランはその言葉を聞き、雷に打たれたような衝撃を受けた。

一緒に眠るという想像がジゼルに無かったことにショックを受ける。ロランはその衝撃的な言葉に倒れそうになりながらも平静を装った。

(ここまで言って、別々で眠る必要がある? まさか、嫌なのか!?)

次第にジゼルの言葉が腹立たしくなる。だが、冷静に考えると、緊張し上擦った声のジゼルがロランを嫌がるようには見えない。どちらかといえば恥じらい、遠慮のような態度だ。

(……嫌がってはいない)

急降下した心が上昇し始める。

(私の心をここまで揺さぶっている自覚はないようだな。……ジゼルは本当に……)

ロランは口角を上げた。

それならば、まるで当たり前な態度をとることが最善だとロランは普段通りの口調で言った。

「私もベッドで寝る、このベッドは広い、半分使え」

そう言いながら立ち上がり、緊張し身を硬くするジゼルの手を握った。

ジゼルの指先は思ったよりも温かく、ロランはその温もりにホッとする。

遠慮し戸惑うジゼルをエスコートするのもロランの役目なのだ。ジゼルはこんなことに慣れていない。人との触れ合い、優しさを向けられること、愛を向けられることに慣れていない。それならロランが惜しみない愛を注げばいい。

ロランはジゼルをベットに誘導し、ジゼルは放心したようにロランに身を任せている。きっと頭の中が真っ白になっている。そんなジゼルの姿に笑みが浮かぶ。

(ゆっくりと愛情を注げばいい。焦ったらダメだ。ジゼルは自己肯定感が低い。突然深い愛情を向けたら戸惑い逃げてしまうかもしれない。ゆっくりと、時間をかけジゼルを肯定してあげなければならない)

ロランは焦る気持ちを堪え、ジゼルを寝かせその隣に横になった。

案の定ジゼルは何が起きたのかわからぬまま、目を丸くし、両手で布団を握り顔を半分隠し天井を見つめている。

(ゆっくりでいい、その心を開いてもらえるよう私は努力を惜しまない)

ロランはできるだけ気配を消し瞼を閉じた。

隣にいるジゼルは横になったまま動かない。その緊張が伝わってくるが、それは嫌なものではないとわかる。ジゼルにとって何が起きたのかわからないのは当然だろう。全てを話せるまで時間がかかるかもしれない。

けれど、全てが話せる日が来たらジゼルの手を取って二人でマグノリアの丘に行きたい。

(五百年前もあの場所で私たちは逢ったんだ。そしてあの場所で……)

ロランは唇を結ぶ。胸を切り裂くような悲しみと深い後悔。闇に呑み込まれる感覚は今でも覚えている。だが、また私たちは出会えたのだ。手を伸ばせば愛しい人がいる。

ロランはそっと手を伸ばす。だが、その動きにジゼルは敏感に反応する。

(これではジゼルが疲れてしまう。やはり大人しく寝たふりをしよう)

ジゼルは明け方近くまで右を向いたり左を向いたりし、眠れない様子だった。ロランは動かずジゼルに緊張を与えないよう眠るふりを続ける。

ロランだって疲れていないわけではない。あれだけの騒ぎを起こし膨大な魔力を使ったのだ。だが、ジゼルを前にしたらそんなことはどうでも良くなる。ただ、この愛おしい人を大切にしたいだけ、安心させたいだけなのだ。

うっすらと空が明るくなる頃、ジゼルは眠った。

ロランは起き上がり隣で眠るジゼルを見つめる。

いつもソファーで眠るジゼルを見つめていた。でも今は隣で眠る愛しい人。

顔にかかる髪に触れる。柔らかい髪はサラサラと枕の上から滑り落ちる。

(ジゼル、今日から私のこの気持ちは隠さない。言葉にできなくても私が愛し大切にしているのはあなただとわかってもらえるよう努力する。だから、もう出て行くなど言わないでくれ)

カーテンの隙間から朝日が差し込む。清々しいほど清らかな光。

今日から始まる新しい日々を祝福するようにベッドで眠るジゼルを照らす。

ロランは眠るジゼルをそっと抱きしめ光の中目を閉じた。