軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

39話 階層の境目?

ダンジョンの深層に飛ばされた俺は、同じように飛ばされてきた2人の女性と行動を共にしていた。

2人とも、冒険者のトップランカーで有名人。

俺みたいな駆け出しの初心者とはわけがちがうのだが、この階層では苦戦していたらしい。

初心者の俺でも、レベルがあればパワーでなんとかなるってわけだ。

やっぱり暴力――暴力がすべてを解決する。

そんな暴力があっても、暗闇の中に閉じ込められたらどうしようもない。

上の階層に上る脱出口がなければ、物資を食いつぶしてジリ貧になる。

いくら高レベルでも、食料がなければ餓死してしまう。

そんな俺たちに、天の助けがやって来た。

以前俺が捕まえて、4層を寝床にしていたハーピーだ。

なぜか俺に懐いているのだが、彼女がここまでやって来たってことは、4層とここはつながっているってことになる。

彼女の案内でダンジョンの中を進んでいたのだが、眼の前に出現した裂け目を飛び越えたときに、それは起きた。

得体の知れない恐怖が身体を包み、全身の肌を泡立たせる。

これは俺だけではない、姫もカオルコも同じものを感じていたので、気のせいではないだろう。

闇の中から巨大な手が這い出てくるような恐怖を感じ――俺は、姫とカオルコを担いで走り出した。

「うわぁぁぁぁ!」

ひたすらに走る。

俺たちは逆らうことができない本能的な恐怖から逃れるために暗闇の中を走った。

この恐怖は理性を凌駕し、全身を突き動かす圧倒的な力。

闇は不気味に静まり返り、その静寂が一層恐怖を増幅させた。

高レベルで疲れ知らずだというのに、心臓は胸を突き破らんばかりに激しく鼓動し、息が荒くなり、冷たい汗が背中を伝う。

恐怖に駆られた俺達は立ち止まることができなかった。

何かに追われているような感覚、そして逃げなければならないという切迫感が、俺たちを無意識のうちに暗闇の中へと駆り立てたのだ。

「はぁはぁ……」

やっと、俺たちを狙うなにかから逃れることができたようだ。

「……」「……」

俺が担いできた2人を降ろすと、カタカタと震えている。

冒険者のトップランカーである姫でさえ、あの恐怖には身がすくんだようだ。

「2人とも、もう大丈夫だよ」

俺は震える2人を抱きしめた。

「……あ……」

「ん?」

「……あれはなんだったと……思う?」

「さてな――もしかすると、あれがダンジョンのラスボスなのかもしれないが……」

「あれが……」

「ほ、本当にそうなら、人が敵うようなものでは……」

俺もカオルコの意見に賛成だ。

いったいどこまでレベルアップすれば、あれに対抗できると言うのだろう。

レベル99か? そこがMAXなのか?

震えている姫が俺の首に手を回してきた。

俺も彼女の背中を抱く。

「すまない……」

彼女の謝罪は、においのことだろう。

今の緊張でまた彼女のにおいが増している。

「大丈夫大丈夫、俺は姫のにおいが好きだから」

彼女の腋に鼻を突っ込んで、くんかくんかする。

「ちょ、ちょっと……」

俺がにおいを嗅いでいるので、くすぐったいのかもしれない。

サクラコと抱き合っていると、カオルコが俺の胴体に抱きついてきた。

モテモテだな――と、素直に喜べない。

あんな目に遭ったあとじゃな。

俺だって、正直ここから逃げ出したい気分だ。

ここじゃ逃げる場所もないんだけどな。

俺も彼女たちがいてくれて、ありがたいと思う。

この極限状況で、2人が心の支えになっている。

しばらくそのままだったのだが、そろそろどうだろうか?

「落ち着いた?」

「……うん」

「……」

姫は持ち前の気丈さでなんとかなっているようだが、カオルコはまだつらそうだ。

こんなときに魔物に襲われでもしたらまずい。

「お~い! ハーピー!」

返事がない。

あの恐怖に、魔物たちも当てられたのだろうか?

もしそうだとすると、しばらくは魔物たちも大人しいかもしれない。

彼女たちも完調ではないが、少しでも移動することにした。

とりあえず、ハーピーが飛んでいた方向に進む。

多分、逃げるときにもそっちに進んでいたはず。

一心不乱だったので、ちょっと怪しいのだが……。

まぁ、そのうち、ハーピーも戻ってくるだろう。

ちょっと一休み――座り込むと砂糖を入れたミルクを飲む。

こういうときには、甘いものが一番。

皆でミルクを飲んでいると、近くで小さな声が聞こえた。

上ではなく、地面の近くだ。

「ギャ」

「ハーピーか? お~い!」

ひたひたと近づいてくる音がすると、彼女が現れた。

「ギャ」

「お前もさっきのやつに当てられて、飛べなくなったのか?」

バサバサと小さく飛んできて、俺の肩に止まったのだが――なんだか縮こまっている気がする。

やっぱり、さっきの恐怖の渦みたいなやつの影響があったのかもしれない。

皆で抱き合ってひとかたまりになる。

これは動物の本能みたいなものだろう。

身を寄せ合って、恐怖に耐えているのだ。

ちょっと仲が悪かった姫とハーピーも、争っている場合ではない。

共通の恐ろしい敵がいるのだ。

そのまま数時間、俺たちは固まったままだった。

「すまない――もう大丈夫だ」

まずは、姫が離れた。

「カオルコは?」

「……大丈夫です……多分」

「ハーピー?」

「ギャ!」

彼女も肩から降りると、地面で助走をつけて飛び立った。

大丈夫そうだ。

3人と1匹が寄り添い、また移動が始まった。

闇が支配する静寂の中、我々は空を舞う案内人の先導に従い進んでいく。

足元に注意を払いながら、まるで目隠しをされたように前に。

カオルコが出してくれたわずかな魔法の明かりだけが足元を照らす。

そこから先は暗闇が視界を遮っているが、案内人の確かな声が我々を導いてくれる。

一歩一歩、慎重に足を運ぶ。

冷たい空気が肌を刺し、足元から響くかすかな音が緊張感をさらに高める。

彼女の小さな鳴き声だけが、わずかに我々の進む道を照らしてくれた。

「ギャ!」とハーピーが静かに囁く。

途中、足元には小石や岩が転がっており、注意深く歩く。

闇は深く、重い。

暗闇の中、我々は案内人の存在を頼りに、まるで見えない糸に引かれるように進んでいった。

「なんじゃこりゃ……」

行く先の俺たちの前に現れたのは、断崖絶壁。

「ギャ!」

その上から、ハーピーの声が聞こえる。

多分、上で休んでいるのだろう。

そりゃ、空を飛ぶ彼女なら、なんの苦にもならないだろうが、俺たちは違う。

「まいったなぁ……」

下から見上げるが、どのぐらいの高さがあるだろうか。

「どうする、ダーリン?」

俺たちは、崖を登る作戦を練り始めた。

多分、ここが上の階層への境目になっているはず。

冒険者たちがここに到達するときには、坂が作られたり階段が作られたりするはずだが、今はない。

なんとかして上に登らねばならない。

「さて……」

「登るしかないだろう」

彼女の言う通りだが……。

「ここはカオルコを担いで登るわけにはいかないぞ?」

まぁできないこともない。

身体を縛り付けるとかな。

「私1人だけなら、なんとかなりそうだが――ロープはないか?」

「アイテムBOXの中に入っているが、10mぐらいだな」

黄色と黒のロープがある。

「なるほど、ちょっと足りないか……」

「う~ん――あれを使うか」

俺はアイテムBOXから、処理水タンクを取り出した。

「このタンクを踏み台にするのか?」

「こいつは高さ4mなので、3つ重ねると12mになる、4つだと16mだ」

「なるほど」

「高く積み重ねると、結局登らないと駄目だからな」

とりあえず、3つ重ねて、その上にハシゴを出した。

ハシゴは伸ばすと8mだから、これで20m。

「よし、最初は私が登ってみよう」

「上に到達できるかもしれないから、ロープを持っていってくれ」

「ロープでカオルコを引っ張り上げるわけだな」

「俺は下でハシゴを押さえているよ」

「お世話をおかけいたします」

まずは、アイテムBOXから黄色と黒のロープを出して、姫に持たせた。

それを受け取った彼女は、タスキ掛けにすると、ハシゴを飛ぶように登っていった。

下から見るといい眺めである。

お尻が可愛いし。

「とぅ!」

上から声が聞こえる。

「姫~! どう?」

「上に到着した! 大丈夫そうだ」

「ここが階層の境目だとすると、安全地帯ってことになるからなぁ」

「そのとおりだ――カオルコ、登ってこい!」

「ひえぇ……」

「下を押さえてるから」

「は、はい……」

ちょっとビビっているカオルコだが、ハシゴを登り始めた。

「ゆっくりでいいからね」

「あ、あの、上を見ないでください」

「丈が長いから見えないよ」

「そうじゃなくて……」

「カオルコ!」

上から急かす声が聞こえるので、彼女が慌てて上り始めた。

カオルコは見るなと言うが、安全のためにも見て、確認しなければならない。

やらしい視点ではないぞ。

これはあくまで安全のためだが、デカい彼女の尻は迫力がある。

「サクラコ様!」

「ハシゴの上まで来たか? ロープを下ろすから身体に巻きつけろ」

「は、はい」

「大丈夫そうか?!」

一応確認をするのだが、俺はハシゴを押さえていなけりゃならない。

「大丈夫だ!」

姫は高レベル冒険者だ、カオルコの体重が100kgあっても持ち上げられるだろう。

「きゃあぁぁ!」

カオルコの悲鳴が聞こえてくる。

多分、宙ぶらりんになっているから怖いのだろう。

「大丈夫か?!」

「だ、大丈夫……れす」

相当動揺しているように思える。

しばらくすると姫から返答があった。

「カオルコが登ったぞ、ダーリン!」

「了解!」

さて、彼女が登っていたが、ハシゴが不安定になることはなかった。

このまま登っても平気だろう。

俺もハシゴを登り始めた。

一段一段脚をかけて、一番上に到着する。

下を見ると確かに高い――これは怖いかもしれない。

「姫! ロープを降ろしてくれ!」

「ダーリンなら、ロープなしでも平気では?」

「いや、ハシゴを回収したい」

「なるほど! 承知した!」

ロープがするすると降りてきたので、ハシゴにしっかりと結んだ。

タンクは回収できないから、ここに投棄してしまおう。

背に腹は代えられない。

先々でまた使うかもしれないが、そのときはそのときだし、アイテムBOXの中にはまだタンクの在庫がある。

普通の攻略と違って、進むほど簡単になるわけだし。

ジャンプと岩肌の掴みを併用して、崖を登りきった。

まったく、こんな軽業師みたいなことが簡単にできるようになるとはな。

まさに万能――超人だ。

全知全能と勘違いするやつがでてもおかしくない。

「よっと!」

姫からロープを受け取るとハシゴを引き上げた。

銀色のハシゴが、崖にぶつかりながら上がってくる。

「タンクは、そのままですか?」

カオルコが下を見ている。

「ちょっとココからじゃアイテムBOXに収納できないな」

無理すれば回収できないこともないが――まぁ、無理することもない。

まだ、処理水を捨てる仕事が残っているのだが、晴山さんに事情を話せば解ってくれるはず。

とりあえず崖はクリアしたし、ここが階層間の通路に相当するなら安全地帯っぽい。

腹が減ったし、本格的に腹ごしらえをするか。

魔法の明かりが消えそうなので、再度出してもらう。

「腹減ったな? カレー食う?」

「食べます!」

真っ先に答えたのは、カオルコだった。

当然、姫も食べるようだ。

「俺が作った芋カレーだぞ?」

「芋カレー?」

「ご飯の代わりに芋にカレーをかけて食う」

「なぜ、そんなカレーに?」

ウチの芋畑で芋を作っているからという説明をまたする羽目になった。

芋カレーでも食べるようなので、出してやる。

みんなで食うのだが、やっぱり明かりがあると、食事らしくなるな。

色もつくと、美味く感じるし。

「他の作物は作らないのですか」

「連作すると障害が出るから、ローテーションで作っているよ」

「へ~、食べ物には困らなそうですね」

「そうだなぁ、故郷は元から食料自給率が100%超えてたからな」

「ギャ! ギャッ!」

食い物のにおいを嗅ぎつけたのか、ハーピーがやってきた。

トコトコと歩いてくると、俺の膝の上に乗ってカレーをねだっている。

「おいおい――こいつは、辛いんだよ?」

「ギャ!」

いいから、くれ! みたいな感じだ。

まぁ、一度食わせてみて、懲りたらねだらなくなるだろうから、食わせてみた。

「はぐはぐ!」

美味そうに食っていたのだが、様子がおかしい。

脚を使って、口を掻いている。

要は、辛いのだろう。

「ほら、見たことか」

アイテムBOXからミルクを出すと、使い捨ての紙皿に少しやった。

「ペロペロペロペロ……」

必死に舐めている。

「もう止めとけよ」

「ギャ! ギャ!」

ミルクを舐め終わると、また俺のカレーを食いたがっている。

「人間みたいな頭だから、脳みそ詰まっているかと思ったら、ダチョウなのか?」

ダチョウは脳みそ小さすぎて、瞬時にものごとを忘れるらしい。

鶏は3歩歩いたら忘れるというが、そんな感じなのだろうか?

「ギャ!」

またカレーを食いたがるから、食わせるが――徐々に慣れてきて普通に食っている。

最初のは驚いただけなのか?

「む~!」

なにを思ったか、姫が突然体当たりをしてきて、俺の膝を奪った。

「ギャ! ギャ!」

驚いたハーピーが飛び立つ。

「む~!」

「あ~はいはい――俺がハーピーと仲良くしてたので、ヤキモチ焼いたんだな?」

「そんなものは焼いてない!」

「それじゃ、なぁに?」

姫の頭をなでなでしてあげる。

「ダーリンは、私とあの畜生とどっちが大事なんだ?!」

「ええ~? 魔物と比べること?」

「サクラコ様って面倒くさい女だったんですね」

カオルコが少々呆れている。

付き合いが長い彼女でも、知らないことが色々とあるようだ。

「面倒くさいって言うな!」

「どっちって――そりゃ、姫に決まっているじゃないか。ほら、カレー食べる? あ~ん」

アイテムBOXから出したスプーンに換えた。

「……」

「あ~ん」

再度促すと、彼女が口を開ける。

「……あ~ん」

ひな鳥のように口を開けた姫に、カレーを食べさせてやる。

「はい、いい子だね~よしよし」

「……もぐもぐ」

彼女の頭でなでなでしながら、カレーを食べさせる。

「ダイスケさんと一緒だと、姫の知らない側面が見られて、大変興味深いですね」

カオルコがこちらをじ~っと見ている。

本当に好奇心で見ているようだ。

姫の顔が真っ赤なのだが、否定するわけでもなく、もくもくとカレーを食べている。

危機的状況だというのに、余裕が出てきたのか。

まぁ、一段上層に来たので、多少は楽になると思われる。

姫にカレーを食わせつつ、俺も腹いっぱいになった。

戦闘などをすると、またすぐに腹が減るのが困ったところだが。

本当に、アイテムBOXなどをもってないと、ダンジョン攻略などできないのではなかろうか?

それとも、各階層の安全地帯に保存食品を備蓄して、準備を入念にしてからのアタック――。

最高峰に向かう登山みたいな感じだが、そんなことをしても相手は強敵。

命の危険もあるのに、報酬は多くない。

まぁ、ドラゴンなどを仕留めれば、それなりの金になるだろうが、とても危険度に見合うとは思えない。

それこそ、ダンジョン内の映像を中継できれば、攻略の様子を流して収益化する手もあるだろうが……。

それも無理だからなぁ。

俺はできるが。

そう考えると、俺って改めてチートだな。

食事の後片付けをすると、彼女たちに提案した。

「真っ暗で時間が解らないが、今日はここで一泊しないか?」

今までダンジョンでキャンプをすることがなかったからな。

備えがまったくない。

俺の言葉に、カオルコが袋からなにか取り出した。

「あ、本当に外は夜の時間ですね~」

彼女が見ているのは、懐中時計らしい。

ダンジョン内でも使えるってことは、機械式だろう。

「中と外の時間の進みは違うっぽいが、体感じゃそろそろ休んでもいい時間だ」

「ふう――そうだな。ダーリンの言うとおりだ」

「休むなら装備を外したいところだが、いくら安全地帯とはいえ、それはちょっと無謀か」

「まだここが本当に安地か、証明されていないしな」

姫の言うとおりだ。

俺が勝手にそう思っているだけかも知れないし。

俺はアイテムBOXからエアマットを出した。

こいつは予備に買っておいたものだ。

ダンジョンの中じゃなにがあるか解らないからな。

備えあれば憂いなし、こんなこともあろうかと――ってやつだ。

俺が泊まる準備をしていると、逃げたハーピーが戻ってきた。

「ギャ!」

「今日はここで泊まるからな。明日、また頼むな」

「ギャ」

「本当に会話しているみたいですね」

カオルコがそう言うのだが――ハーピーは、俺たちの言葉をそれなりに理解しているのではなかろうか。

ハーピーがバサバサと翼を広げると、俺の肩にジャンプしてきた。

アーマーを着ているから平気だが、普通の服でやられたら、爪が食い込んでかなり痛いかもな。

彼女を肩に乗せながら、エアマットの準備をする。

女性たちは化粧を落としているのだが、そのための道具などは、カオルコのアイテムBOXに入っているようだ。

「ギャ、ギャ」

ハーピーがエアマットの上に降りると、マットの妙な感触のせいか変な歩きかたになっている。

「爪を立てて、破らないでくれよ」

マットは、ちょっと大きめのものを購入しておいたので、3人でなんとか寝られるだろう。

そこに姫がダイブした。

「ギャー!」

マットが弾けてハーピーが飛ばされると、地面でひっくり返った。

「ダーリンのアイテムBOXは、本当にチートだな」

「ははは、俺もそう思うよ。こいつがあればどこにだって行ける気がする。異世界でもOKだぞ、ははは」

「「……」」

俺の言葉に、2人が黙ってしまった。

「どうした?」

「ダーリンが現れる前――いや、そのクソ鳥が現れるまで、私たちはもしかして、異世界に飛ばされてしまったんじゃないかと思ってて……」

「ああ、たしかになぁ。人間を何処かに飛ばす――なんて魔法があれば、別の世界に飛ばされてしまってもおかしくはない」

「それで、カオルコと一緒に、内心震えていたんだ」

「そうなんですよ! 2人で、これから本当にどうしようかと悩んでました」

「それじゃ、いいところに俺とハーピーが来たんだな」

「ああ」「はい」

2人が神妙な顔をしている。

「それなら、クソ鳥なんて言わずに、ハーピーをもうちょっと可愛がってあげなさいよ」

「いいや、そいつはクソ鳥で十分」

「ギャーッ! ギャ!」

「なんだ?! やるか?! 前は不意を突かれたが、もうあんな攻撃は食わんぞ!」

「もう、止めなさいっての」

「……」

睨み合っていた姫とハーピーがプイとそっぽを向いた。

「うふふ、実はすごく仲がいいみたいですね」

「そんなわけないだろ!」「ギャ!」

笑っているカオルコの言葉を双方が否定した。

俺も疲れているので、エアマットに横になったのだが、そこに姫が乗ってきた。

「上に戻ったら、アーマーなしで一緒に寝たいな」

「うん……」

そこに、カオルコも寄り添ってきた。

「カオルコもか?」

「わ、私だって心細いんですよ」

「すまんすまん、いくらでも抱きついていいよ」

「じ~っ」

姫が無言の牽制をしている。

「こんな場所で寝るんだから、仲間はずれにするのは可哀想だろ?」

「そ、それはそうだが……」

「……」

カオルコも黙って俺に抱きついてきた。

まぁ、やっぱり怖いし、心細いんだろうな。

上を見ると天井が見える。

一段上の階層に来たが、天井の高さはそのままで、地面が高くなった感じだろうか。

結果、天井が低くなったってわけだ。

「姫、ちょっと聞きたいことがあるんだが……」

抱き合ったまま、彼女に質問をしてみた。

「なんだ?」

「言いたくなかったら、答えなくてもいいんだが――なんで、冒険者をやっているんだ? いいところのお嬢さんなんだろ?」

「それは――自分探しというか、ダンジョンという人智を超えたなにかにも興味があったし……」

なんか取ってつけたような理由だな。

「ほら、姫の理想の男性って覚えてます?」

横からクスクスというカオルコの声が聞こえてくる。

「ああ、自分より強い男ってやつ?」

「そうです。ここならてっとり早く、それが見つかりそうでしょ?」

「それじゃ、本当にダーリン探しなの?」

「そうなんです」

「ち、違うぞ! カオルコ! 私はだなぁ――ここは男女の区別なく、魔物を倒した数で優劣が決まる!」

「それで、男女の隔てなく、自分の能力を示すことができるんじゃなかろうかと」

「そのとおり!」

「ゴメンな~こんなオッサンで。もっと若くて格好いい男のほうがよかったろ?」

「そ、そんなことはないぞ! ほら、意外と胸板もあって、結構たくましかったりするし……」

彼女が俺の胸の当たりをナデナデしている。

「なるほど……自分よりさらに強い、圧倒的な強さを持つ男にナデナデしてもらいたかったんだな」

「そうなんです。いつもそう話してました」

「カオルコ! そういうのは2人の秘密だったろ?!」

「本当に伴侶にすることを考えておられるなら、サクラコ様のすべてを知っていただかないと」

「そ、それはそうだが……」

この際だから、俺の考えを話しておこうかと思う。

本当に俺と一緒になることを考えているなら、カオルコの言うとおりだと思うし。

「結婚式では、『永遠の愛やら』『死が二人を分かつまで』とか、綺麗なことしか言わないじゃない?」

「ふ、普通はそうだろう?」

「俺の結婚観ってのは、『相手の 下(しも) の世話ができるか?』なんだよね? ちなみに、俺は姫の 下(しも) の世話はできるつもりだけど、姫はどう?」

「う?! ううう……」

彼女が言葉に詰まってしまった。

「もちろん、元気なときにはそんなことはしないだろうが、急な病気とか、大怪我とか、いずれは2人とも老人になって、そういう場面がやって来るかもしれない」

「……なるほど……」

「俺と一緒になるというなら、キラキラした結婚式とかよりも、そういうことを考えてほしい」

「……承知した」

「そうですよねぇ。夫婦になるってことは、いいところも駄目なところも全部を知り合えないと」

カオルコは理解してくれたようだ。

「もちろん、最初に全部おっぴろげろ――とか、そういう意味じゃないよ? 親しき仲にも礼儀ありってこともあるし。夫婦にだってルールはある」

「わかってます」

――寝ながら3人でそんな話をした、次の日。

いつでも真っ暗なので、本当に次の日になったのか解らないが――朝食を食べたあと、姫とカオルコが化粧をしている。

キララの言ったことは、女性冒険者なら当たり前のことなのだろうか?

彼女たちの準備が終わると俺たちは暗闇の中に出発した。

「ギョェェェェ!」

移動を始めると、早速巨大な魔物とエンカウントした。

敵は、デカい鳥の身体にヘビの尻尾。

「え~! こいつはなんだっけ? バジリスク? コカトリス?!」

俺の言葉に姫が答えた。

「どっちか解らんが、完全に捕捉されてしまった! やるぞ!」

「しょうがねぇ! よっしゃこい!」

「魔法いきます!」

俺たちは、ダンジョンの暗闇の中で戦闘態勢に入った。