軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

109話 ボンボンがボンボン

俺たちが作っている映画に、映画界から圧力がかかった。

既得権益を侵しているので、「いっちょガミさせんか、ゴラァ!」てな具合になったわけだ。

俺も来るだろうとは、思っていた。

「素人の自主制作映画なんす! フヒヒさーせん!」で、乗り切ろうとしたが、駄目。

各所に圧力がかかり始めたのだ。

仕方なく、姫の姉――カコに連絡をして、八重樫グループにスポンサーになってもらう。

表も裏も抑えているコングロマリットがスポンサーの映画の邪魔なんかしたら、とんでもないことになる。

――というわけで、各所への圧力がなくなった。

本当にわかりやすいよなぁ。

あの理事とやらは、歯ぎしりしているかもしれないが、そんなことは知らん。

暴力に訴えてきても、高レベル冒険者に暴力で敵うはずがない。

むしろ、特区にやって来てほしいところだが、さすがにそこまで愚かではないだろう。

最後の撮影が始まった。

折りたたみの椅子に座った監督さんが合図をすると、カチンコが鳴る。

「アクション!」

ダンジョンを抜けると、そこには思いもよらぬ光景が広がっていた。

薄暗い洞窟のような通路とは打って変わり、目の前には壮麗な城がそびえ立つ。

壁は黒曜石のように漆黒でありながら、美女の肌のような滑らかな光沢を帯び、わずかな光すらも反射して妖しく輝く。

まぁ、本当のダンジョンではなくて、倉庫に作られたカキワリなのだが。

奥には広大なホールが広がっており、天井は驚くほど高い。

無数の魔法の燭台が宙に浮かびながら青白い光を放ち、ホールの中央部分には、深紅の絨毯。

その端には銀糸で編まれた荘厳な紋様が織り込まれている。

視線を奥へと向けると、数段高い場所に玉座が鎮座していた。

漆黒の石で造られたその玉座は、まるでそこに座る者の威厳を象徴するかのよう。

玉座に座っているのは、禍々しい黒い装備で固めた――魔王役の姫。

鍛え上げた美しい肉体を誇示し、白い脚を組み、不敵な笑みを浮かべて玉座に腰掛けていた。

「よくぞ、ここまで来たな、愚かなる者よ!」

見下ろしているのは、黒いドレスに身を包んだ、悪魔大将軍役のカオルコ。

「おお~、やっぱりすごい迫力だな。本当に悪魔大将軍なんじゃないのか?」

「ふふふ、そうかもしれませんね~」

見学している俺の隣で笑っているのは、サナだ。

「マジで姫とカオルコが敵になったりしたら、洒落にならないぞ?」

「大丈夫ですよ。私にはダイスケさんがいますし」

魔王と悪魔大将軍に対するのは、大剣を構えて銀色の鎧に身を包んだ主役のイロハ。

いつもの自分の装備にちょっと飾りをつけたものを使っている。

その彼女の後ろには、金色の杖を構えたヒロインのエルフ。

あの杖は撮影用のイミテーションだ。

もちろん、エルフ役はエイト。

リッチ戦でゲットした、乳暖簾のドレスを装備して、スリットから脚を覗かせている。

まぁ、彼は男なので乳暖簾には見えないが。

「カット……」

このシーンの撮影を一旦終了して、次のシーンに移るために監督さんが立ち上がったのだが――。

そのとき、倉庫の天井からデカい音が聞こえてきた。

続いて、爆発音とともに天井に穴が開いて、破片が降り注いできた。

破壊された天井から斜めに入ってきた光によって、破片とホコリが輝いている。

穴から垂れ下がってきたロープを見て、俺は直感した。

「敵だ! 皆逃げろ!」

上から降りてくる銃を持った兵士たちはどう見ても敵だ。

灰色の都市迷彩の装備に防弾ジャケットらしきものを着ている。

自衛隊が天井壊して突入してくるなんてことはしないだろうし。

多分、目標は俺だろう。

まさか、こんな所を襲ってくるなんて――。

俺は皆を巻き込んでしまったことを、後悔しながらアイテムBOXから大きな岩を召喚した。

「残ってる人は、岩の陰に!」

迷いのない動きでロープを滑り降りる兵士の手には、冷たい鋼鉄の銃が握られていた。

鋭い閃光とともに銃声が炸裂する。

空気を切り裂く轟音が室内に反響し、火薬の匂いが立ち込めた。

発射された弾丸は一直線に飛び、俺を貫こうとするかのように加速してくる。

「 聖なる盾(プロテクション) !」

サナの唱えた魔法によって顕現した透明な壁が、敵の悪意を弾き返した。

「^*$$%!!」

敵もサナの魔法に驚いたようだ。

おそらく、ここで襲撃すれば、魔法が使えないと思っていたのだろう。

まったく想定外のできごとだったに違いない。

「おらぁぁ!」

俺はアイテムBOXから取り出した、石を敵に向かって投げつけた。

目に浮かぶ白い曲線に乗って、 礫(つぶて) が飛んでいく。

「^$$*!」

敵に命中すると、そのまま宙吊りになった。

死んだのか、気絶したのかわからんが、こんな所を襲ってきたテロリストだ。

死んだとしても致し方ない。

攻撃を避けつつ、投擲を繰り返す。

「ぎゃあぁぁぁぁ!」

エイトの悲鳴が聞こえてくる。

やかましい。

「どさくさ紛れに抱きつくんじゃねぇ!」

悲鳴のほうを観ると、エイトがイロハに抱きついているようだ。

「エイト! 男なら我慢しろ!」

「それって、モラハラですよ、モラハラ! 怖いものは怖いんですよ!」

「抱きつくなぁ!」

2人が隠れている岩を銃撃が襲い、岩の破片が飛び散る。

「ぎゃあぁぁ!」

エイトの悲鳴に紛れて、床に乾いた音が響くと、丸い金属の塊が転がってきた。

「!」

その正体を見た俺は、血の気が引いた。

「収納!」

慌てて、丸い金属の塊を収納したのだが――多分、手榴弾だ。

「くっそ! あぶねぇ!」

特区じゃないと、普通にこういう攻撃もある。

「こら! 離れろ!」

「嫌ですぅ! 死ぬなら、イロハさんと一緒に!」

「縁起でもねぇ!」

イロハとエイトは、まだギャアギャアしている。

姫とカオルコは、岩の陰に隠れてじっとしていた。

ここはダンジョンではない。

相手が重火器では手が出ないだろう。

それに、姫たちも撮影用の衣装だ。

ドロップアイテムの装備ではないので、防御力が低いし、危険すぎる。

敵の兵士が床に降りて、本格的に銃撃を開始したのだが――そのとき、倉庫の扉が開いた。

扉の隙間から、閃光が走る。

敵の援軍かと思いきや、どうやら自衛隊の特戦らしい。

今度は敵と自衛隊との銃撃戦になった。

「おせーぞ! 俺の護衛についているんじゃなかったのか!」

テロリストたちが、セットや荷物などに隠れて、特戦と銃撃戦を始めた。

「おりゃぁ!」

こっちからも攻撃をお見舞いする。

俺の放り投げた石が時速数百キロで敵を襲う。

頭を出している兵士に命中して、ヘルメットが吹き飛び、赤いものが飛び散る。

こっちが、なにもしないと思ったら大間違いだ。

もうちょっと近ければ、デカい岩を頭の上に落としてやるのに。

もしかしたら、俺の攻撃方法も情報収集されているのかもしれない。

やつに近づくと――こういう攻撃がやってくる。

みたいな感じで、戦いかたを共有されているのかもな。

「サナ! 攻撃魔法もぶち込んでやれ。普通の光弾でいい」

「はい! 光弾よ――!」

彼女の周りに青い光が舞い始めたのだが――。

倉庫の奥深くで、突如として鈴のような甲高い音が響いた。

澄んでいるはずなのに、どこか不吉な響きを帯びたその音は、金属が擦れ合うように空間を震わせる。

音の出どころはわからないが――その瞬間、倉庫の中の空気が一変した。

「おい! これって?! サナ! 魔法中止!」

「は、はい」

彼女が集めていた青い粒子が霧散した。

銃撃をしていた敵も、あまりに異様な雰囲気に攻撃を止めている。

人間、突然わけのわからんことに巻き込まれると、フリーズするもんだ。

まして、理解を超えた超常現象となれば、なおさら。

「ダーリン! こいつは湧きか?!」

俺の声に、岩に隠れていたイロハも反応した。

「うわぁぁ! もうだめだぁぁ!!」

エイトはまだイロハに抱きついたままだ。

重苦しい雰囲気がじわりと広がる。

まるで見えない何かがこの場所を支配しようとしているかのように、空間がゆっくりと歪み始めた。

倉庫内に作られたセットが不自然に軋み、カメラの見えないところに無造作に積まれた荷物が微かに揺れる。

照明の光は頼りなく瞬き、影が異様に長く伸びていく。

音が鳴り止まぬまま、視界の端に異変が生じた。

壁も、床も、すべてが溶けるように揺らぎ、次第に現実の輪郭が崩れていく。

その"歪み"の中心から、何かが顕現しつつあった。

空間のねじれた先から、黒い霧のようなものが滲み出し、ゆっくりと広がっていく。

その中に、巨大ななにかが現れようとしていた。

「ウォォォ!」「ウワァァ!!」

敵からも悲鳴が響く。

「くそ! なんだってんだ!」

スタッフは逃げ出していたのだが――。

なんと! 監督さんはカメラマンが放り投げたカメラを拾って撮影を続けていた。

「え?! ちょっと、監督さん!」

「私のことはいいです!」

「えええ?!」

そんなことをしている間に、暗闇の裂け目から、ダルマのような肉の塊が現れた。

「なんじゃこりゃ!?」

イロハが叫んだのだが、俺も同じことを言いそうになった。

俺も初めてみる魔物だったのだ。

『デュフフフ……』

不気味な笑い声とともに、肉塊に人の顔が現れた。

その顔だが……どこかで見たような……。

肉の塊は薄く笑みを浮かべ、まるで勝敗は最初から決まっているかのようにこちらを見下ろしていた。

赤い瞳には冷たい光が宿り、余裕と侮蔑が滲み出ている。

口元はわずかに吊り上がり、その微笑みすら挑発の一部のようだ。

こちらの反応を楽しむような視線が突き刺さり、逃げ場のない居心地の悪さを植え付けてくる。

「サクラコ様! あれは!?」

「ああ!」

カオルコと姫も、その顔に見覚えがあるようだ。

『んん~やっぱり、 香(かぐわ) しいにおい~。あの女が言うとおり、この香りを辿っていけば、君に出会えた』

化け物の舐めるような視線が、姫のほうを向く。

「あの女って――迷宮教団のあの女か?!」

「ほらぁ! ダイスケさん! 桜姫さんのにおいを辿ってきたって――聞きましたよね?!」

サナの指が姫を指した。

「ええ? いや……あの――そ、そんなことより! お前は――あのボンボン役人じゃねぇか!」

そうだ――ダンジョン鉄道の復旧工事で散々邪魔をして、行方不明になったとかいう世間知らずのお坊ちゃん。

『グギギ!』

醜い顔が歪み、歯ぎしりをする。

「人間やめて、丸いボンボンみたいな魔物になったのか!? ボンボンが、ボンボンか?!」

『う、うるさ~い!! 高貴な僕に――地べたを這いずり回る虫のオッサンが! 死ねぇぇぇぇ!!!』

魔物の口が光り、なにかが打ち出されようとした、そのとき――。

「ウワァァ!」「ヒィィ!」「$%Y**!!」

俺たちを銃撃していた兵士たちが、化け物に向かって発砲を始めた。

なにせ相手は的がデカい。

発射された銃弾のすべてが肉塊にヒットしているように見えるが……。

魔物の皮膚の穴が開き、黒い液体が飛び散る。

『いでえぇよぉぉぉ!!』

やつの口から発射されようとしていたものが、兵士たちを襲った。

「ギャアァァァ!」「^%$**ウギィィィィ!」「%^&%!!」

緑色のネバネバしたものが履き出され、それに敵の兵士が包まれると、異変が起きた。

徐々に、人間がドロドロと溶け始めたのだ。

酸――もしくは、なにか呪いのようなファンタジーな物質か。

「サナ! 見ないほうがいい!」

「私は大丈夫です!」

彼女も随分と強くなった。

今では冒険者でも有数の高レベルだし、それが自信にもなっているのだろう。

見ている間にも、銃を持っていたテロリストは銃ごとなにかの塊になっていた。

鉄まで溶けるのか?

タダの酸でも、こんな短期間で溶けたりしないだろう。

とりあえず、テロリストたちは無効化されたが、やっかいな敵が残ってしまった。

『ブヒヒヒ!』

魔物の目がいやらしく光った。

今度は俺たち――いや、俺個人への攻撃に違いない。

「皆、俺から離れろ!」

「 聖なる盾(プロテクション) !」

サナの魔法によって作り出された透明な壁が、魔物の攻撃を弾き飛ばす。

びちゃびちゃとこぼれ落ちた粘液によって、床と俺が出した岩が溶け出した。

これはヤバい。

『お前ら! ズルいぞぉぉぉ! ここじゃ、魔法は使えないはずだろぉぉぉ!』

なにか解らんが、魔物が憤慨しているようだ。

手足をジタバタしているようにも見えるのだが、短いのでよく解らん。

「お前だって、魔法を使っただろうが!」

『僕のは魔法じゃないぞぉぉぉ!』

「あ、あの! ダイスケさん、なんか臭いんですけど……」

「そういえば……」

「おえぇぇ!」

異臭にイロハが吐きそうになっていた。

「「……!!」」

姫とカオルコも、口を押さえて、一歩の所で踏みとどまっている。

「こりゃ、お前のゲロか?!」

『高貴な僕が、そんなものを出すはずがないだろぉぉぉぉ!』

やつがそう言うのだが、どう見てもゲロだ。

「ぎゃぁぁぁ! 助けてぇぇぇぇ!」

「いい加減しつけぇ!」

「ぎゃ!」

抱きついてくるエイトに業を煮やし、イロハが彼をぶん殴ったようだ。

「この! ゲロ魔物がぁぁぁぁ!」

エイトを振りほどくと、ブチ切れたイロハが、岩から飛び出した。

「おい、イロハ止めろ!」

ダンジョンなら、エイトの補助魔法があるのだが、ここじゃ彼の魔法も使えない。

俺が止める間もなく彼女が地を蹴り、一瞬で間合いを詰めた。

筋肉が張り詰め、空気が震えるほどの速度で突進する。

再びのゲロ攻撃を紙一重で回避しながら、爆発的な力で跳ね上がるように、剣を下から上へと振り抜いた。

鋼の刃が空気を裂き、魔物の腹を切り裂くと、どす黒い液体が、再び裂け目から噴き出した。

これまた、ひどいにおいだ。

こいつは生きているまま、腐っているのではなかろうか?

もしくはアンデッドになっているのか?

アンデッドなら、サナのターンアンデッドが効くだろうが……。

『ギャァァァ! い、痛いぃぃぃ!』

そこにサナの魔法が追い打ちをかけた。

「圧縮光弾! 我が敵を撃て!(マジックミサイル) 」

閃光がほとばしり、彼女の詠唱した魔法が解き放たれた。

雷鳴のような轟音とともに、灼熱のエネルギー弾が魔物へと一直線に突き進む。

そのまま魔物の巨体に直撃し、爆発的な衝撃が倉庫の壁と半壊した天井を震わせた。

魔物の肉厚な外殻は無惨に裂け、脇にはぽっかりと巨大な穴が穿たれ、どす黒い体液が四方に飛び散る。

黒い体内に隠されていた臓器や骨が無残に弾け、重力に引かれるまま地面に落ちて床に流れ落ちた。

『ギョエエエエエ! 僕の内臓がァァァ! 許さねぇぞォォォォォ!!』

大穴の開いた場所の肉が盛り上がり、みるみる修復されていく。

こいつは――以前にエンカウントした、踊る暗闇の連中がごっちゃになったキメラと同じタイプか。

それじゃ多分、体内にある魔石を破壊しないと、再生を続ける。

イロハは攻撃から戻ると、元の岩の陰に隠れた。

「なんとか、追撃できないか?!」

俺はアイテムBOXから剣を取り出した。

こいつのナムサンダーを使いたいが、ここじゃサナ以外は魔法が使えない。

いや、その前にあいつの再生能力をどうにかしないと。

どうしようかと考えている合間にも、やつの身体は不気味な音を立てて再生をしている。

一か八か――などと考えていると――。

突然、凄まじい爆発音が倉庫の中に轟いた。

衝撃波が壁を揺らし、天井の梁が軋む。

爆炎が一瞬にして闇を引き裂き、眩い閃光が周囲を焼き尽くす。

瞬く間に煙が充満し、焦げた火薬の鋭いにおいが鼻腔を突いた。

飛び散った肉片が壁や床に叩きつけられ、白い煙がピンク色の霧となって宙を舞う。

ぬらぬらとした臓物が木箱や金属の棚に絡みつき、そこからは生臭さと鉄のような血の匂いが立ち上る。

焼け焦げた肉の脂がじゅうじゅうと弾け、鼻を刺す刺激臭が混ざり合って、胃の奥からこみ上げるような嫌悪感を掻き立てる。

「な、なんだぁ!?」

多分、近代兵器だろう。

ここはダンジョンではないので、普通の重火器が使える。

「丹羽さん! 大丈夫ですか?!」

煙の向こうから声が聞こえてきた。

多分、自衛隊の特戦の連中だ。

この攻撃も、ロケット弾かなにかで、やつらがやったんだろう。

「馬鹿野郎! こっちが冒険者じゃなかったら、死んでたぞ!」

向こうも、こちらが高レベル冒険者だとわかっているから、至近距離からのロケット弾の攻撃に行ったんだろうが――無茶すぎる。

『グロゲロロロロ! いでぇよ~! いでぇよ~!!』

粉塵の向こうから、敵の断末魔が聞こえてくる。

「おい! ダーリン、やつはまだ生きているぞ?!」

煙の中からイロハの声がする。

「多分、体内の魔石をやらないと、また再生するぞ!」

「くそ! もう一度やるか?!」

「まてまて!」

充満している煙が晴れてくると、徐々に敵の様子が明らかになってきた。

肉塊には、ロケット弾による大穴が開いており、崩れている臓物の中に黒いものが見える。

「魔石だ!」

姫の声が聞こえる。

彼女は無事か。

俺は姫の声を聞いて安心すると、アイテムBOXから拳サイズの魔石を取り出した。

黒い石の中には青い光りが灯り、魔力が込められていることを表している。

俺が武器として使うために、暇を見つけては魔力を込めていたものだ。

俺は石を握りしめると、脚を垂直まで高く上げた。

「おりゃぁぁぁぁ! 大リーグボール1号!」

全身の筋肉が張り詰め、指先にまで込められた力が黒い石へと伝わる。

腕を大きく振りかぶり、渾身の力で投げ放った瞬間、空気が裂けるような唸りを上げて石が一直線に飛翔した。

ダンジョンの力を内包し、青い光を灯した黒曜石のような漆黒の塊は、敵の弱点を正確に捉え、疾風のごとく突き進む。

あまりに高速で回転しながら飛ぶ石は、鋭い曲線の軌跡を描く。

「ナチュラルシュートしたか!?」

あまりに力を込めたので、石のコースがシュートしてしまったようだ。

一瞬の後悔が俺に脳裏に浮かぶが、的が大きすぎた。

ど真ん中とはいかなかったが、魔物の魔石を直撃した。

力が一点に衝突した刹那、激しい衝撃が弾けた。

炸裂するようにまばゆい光が広がり、目を灼くような閃光があたりを包み込む。

衝撃波が空間を揺るがし、まるで時が止まったかのような静寂――。

「よし! サナ!」

「――ええっ?!」

俺は剣を構えると、彼女を後ろから抱きかかえた。

「俺と一緒に剣を握ってくれ」

「は、はい!」

ここじゃ、この剣の魔法は使えないが、サナの身体を媒体にすれば使えるんじゃないか?

魔力が剣に吸い取られるのが解る。

これはいける!

「「ナムサンダー!!!」」

2人が握る剣が震え、刃先から閃光がほとばしる。

次の瞬間、雷鳴のような轟音とともに、眩い稲妻が剣先から放たれた。

蒼白い電光は空間を裂き、空気を焼きオゾンを生みながら進むと、雷撃の余波で周囲の空間が歪む。

すでに崩れつつある魔物の皮膚に雷が触れると、凄まじい爆発音が鳴り響いた。

肉が弾け、青白い火花が四方に散る。

魔物の体を縛りつけるように雷光が絡みつき、電撃の閃光が脈打つたびに、苦悶の咆哮がこだまする。

やがて、焼け焦げた肉の臭いが漂い、魔物の身体は痙攣しながら崩れ落ちた。

突然の静寂が訪れたが、爆音のせいか、耳のキンキンが取れない。

敵は完全に沈黙している。

もう復活はしないだろう。

「皆、大丈夫か?!」

「……ああ! はぁ~助かったぜぇ……」

イロハから、安堵の声が聞こえてくる。

「姫とカオルコは?」

「……」「大丈夫です」

姫の声は聞こえてこなかったのだが、チラ見すると問題ないように見える。

周りには動いているものは……なにか動いている。

見れば、カメラを持った監督さんが腰を抜かしていた。

よく無事だったな。

それにしても、めちゃくちゃだ。

「丹羽さん!」

扉のほうをみると、半壊したシャッターから自衛隊の特戦が顔を出していた。

「大丈夫だ! 敵は倒したようだ」

「ダイスケさん!」

サナが俺に抱きついてきた。

「ふ~、今回もサナに助けられたよ……」

「ダイスケさんのためならいいんです!」

「グギギギギ!」

姫の歯ぎしりが聞こえてくる。

それはさておき――まさかこんなことになるとは……。

「どうしてこうなった?」

俺は見上げると、半壊した倉庫に頭を抱えていた。