軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20.本の虫と

放課後の学食には、1人で勉強をする人や静かに会話を楽しむ人、そして何か作業をする人達が数人いた。いずれも席は離れているので、私達の会話は聞こえないだろう。

少し辺りを見渡した後、私はユーナさんに話し始めた。

「……学園に通う少女の物語なんですが……物語は入学式から始まって、最初に3人の男性と出会いました。その男性は……」

私が入学してから思い出した物語の数々。けして多くは無いそれらをなぞる様に、たどたどしく説明するとユーナさんは頷きながら聞いてくれた。

「―――……覚えているのは…その不良生徒との会話で最後です」

「うーん、なるほど…」

覚えてる範囲の物語を話し終わる頃には、ユーナさんのノートにはびっしり書き込みがされていた。

人と話をする事自体に慣れていないので拙い説明だっただろうに、よくこれだけの情報を拾い出せたものだと感心する。

対する彼女は、そのメモを見ながら考える様に黙り込んでいたけれど、暫くして小さく頷き顔を上げた。

「…私ね、小さい頃から本が好きで沢山の本を読んできたんだ」

「え?…はい」

おもむろに始まった話はユーナさん自身の話だった。

その真意が分からないまま頷く。

「それで家の本だけじゃ物足りなくなって、王立図書館にある文芸書も粗方読んじゃったんだ」

「えっ」

他のジャンルは手が出せてないけど、と言うがそれでも十分凄い事だ。どれだけの時間が掛かったのだろうか、想像がつかない。

驚く私を置いて、ユーナさんは「でもね」とノートを閉じた。レンズの奥の緑色の目が真っ直ぐにこちらを見つめてきた。

「…本に関しての記憶には自信があるんだけど、この物語は読んだことが無いんだ。…これは一般的な本じゃないと思う」

「……………そう、……ですか…」

「戯曲に関する本も読んだ事あるけど、こういうテーマの物語はなかったかな」

「………わかりました…」

本でも戯曲でも無い。その結論に呆然とすると共に、何故か納得する自分がいた。

もしクリスの物語が本なのだとしたら、きっと預言書だ。そんな神秘の本が易々とその辺にある筈が無いし、間違っても私が読める代物では無い。

…そもそも私の人生を予言したところで誰も得をしないだろう。

ではこれは私が頭の中で描いた妄想だったのだろうか。そう考えると何とも恥ずかしい話だ。

「知ってる物語じゃなくてごめんね」

「い、いえ!そんな…っ」

ユーナさんは申し訳無さそうに謝罪するけれど、わざわざ時間を作って話を聞いてくれただけでも有り難い。一般的な本や戯曲ではないとわかっただけでも大きな進歩だ。

感謝の言葉を伝え頭を下げると、ユーナさんは席を立つため鞄を開け荷物を片付け…

「……で、ここからは別の話」

…片付けるかと思いきや鞄から数冊の本を取り出した。

ファンタジーの物語2冊と超心理学の本3冊。表紙には『転生』『生まれ変わり』等の言葉が書かれている。

もう1冊『予知』と書かれている本は「これは無いかな」と鞄に戻された。

一体何が始まるのだろうか。突然の展開についていけず呆然としていると、ユーナさんが5冊の本を私に渡してきた。

「ルカ先生に、深刻な顔をして自分と同じ名前の主人公の本を探してる令嬢がいるって聞いたから、これは何かあるなと思って参考に持ってきたの」

「さ、参考…?」

一体何の参考に…?

混乱したまま手元の本を抱えたまま固まってしまう。

先ほどよりもユーナさんの顔が輝いて見えるのは気のせいだろうか。

「クリステラ様は懐かしさから物語を探してるってわけじゃないんでしょ?」

「え…!?…な、…なんで……分かるんですか…?」

「そんなの見たら分かるよ。すごい訳ありそうだし。……私で良ければ相談のるよ?」

「………ユーナさん…」

見ただけで分かってしまうなんて、不安な気持ちが顔に表れていたようだ。

確かにこの先どう調べたらいいのか途方に暮れていた。

妄想だと割り切る事も、気のせいだと切り捨てる事も出来るだろうけれど、やはりクリスの物語の正体を私は知りたい。クリスと私の関係を知りたい。

他に相談する相手もいない私にとって、ユーナさんが協力してくれるのはとても心強い。

私はもう一度「ありがとうございます」と頭を下げると、彼女はにっこり笑って、

「まぁ私の知的好奇心を満たしたいだけなんだけどね」

……やっぱり変な人だ。