軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

若鳥の岩塩焼き、薄焼きパンに包んで

心臓がバクバクと鳴っている。なぜ、どうしてと、村の医術師の先生に心の中で問いかける。

「ザラさん、どうしましょう、私……」

「大丈夫。大丈夫だから」

ザラさんは再度私を抱きしめて、赤子をあやすように背中を撫でてくれる。

ちょっともう、悔しさなのか、怒りなのか。よくわからない感情が、涙となって溢れてくる。

私の人生とはなんだったのか。空しくなる。

でも、良かった。ザラさんは、私がどうだろうと、態度を変えることはない。それが、魔力があるとわかって、唯一嬉しいことだった。

泣いたらすっきりした。

再度居間に移動して、長椅子に座るように言われる。

長居するのは申し訳なかったけれど、ザラさんにそうしてほしいとお願いされた。

牛乳と砂糖たっぷりの紅茶を淹れてもらった。温かい物を口にすれば、ホッと安堵の息が出る。

まずは、いまだ混乱している頭の中を整理しようと思った。

「それにしても、医術師の先生は誤診をしたのでしょうか」

「違うと思うわ。きっと、魔力がないと言ったほうが良いと、その場で判断したのよ」

ザラさんは語る。魔力を持つ者の悲惨な人生を。

「その昔、雨風による災害や、深い雪、日照りによる干害など、自然災害が発生すると、神様や精霊に生け贄が捧げられたの」

選ばれるのは決まって、魔力を持つ子どもだったと。

神々や精霊は、生け贄の持つ多大な魔力と引き換えに、祝福を返したのだ。

「私の村では、そういう慣わしがあったわ。今は廃れていると願いたいけれど……」

それは、どこの地域にもある古い因習で、閉鎖的な場所ほど盲目的に信じられていると云う。

「メルちゃんは医術師の先生にいろいろ習ったようだけど、村を出て行く時に引き止めなかったでしょう?」

「はい。達者で暮らせとしか言われませんでした」

ちなみに、医術師の先生の診断書があったので、入隊時に行われる魔力検査は免除されていた。

「やっぱり、村には何かあったのよ」

「そう、なんでしょうね」

医術師の先生はきっと、今までいろいろなものを見てきたのだろう。

そのおかげで今の生活があるから、文句などはない。

村で、魔力の有無や量を気にするのも、そういう儀式が絡んでいる可能性があった。

昔話を祖母から聞いたことがある。

百年以上も前に、フォレ・エルフの村の森が枯れかけたことがあったと。今は緑が豊かで、信じられない話だった。どういう風に枯れかけた森を再生させたのか、祖母は語らなかった。ただ、森の神様に毎日感謝をするように、言われたことは覚えている。

「魔力を重要視する婚姻は、森の神様に捧げる、魔力量が豊富な生贄を絶やさぬためなのでしょうか?」

「……どうかしら。でも、魔力量は親から子への遺伝も大きいという研究結果もあったような気がするわ」

「う〜〜ん」

うだうだ考えても仕方がない。

魔力量のあれこれについては、医術師の先生に手紙で聞いてみようと思う。

両手で頬を打ち、気分を入れ替える。

「ザラさん、ありがとうございました」

「いえ、私は何も。不安材料を作るきっかけになったみたいで、逆に申し訳ないわ」

「そんなことないですよ。私、自分のことを知ることができて、良かったです」

ずっと魔力がないことに対し、劣等感を抱いていたのだ。何をするにも自信がなくて、それを魔力がないせいだと決めつけていた。

「でも、私にも魔力はあったんです。馬鹿みたいですよね。上手くいかないことの理由にしたり、自分はダメだと決めつけたり、うじうじと悩んだりして」

魔力があっても、なくても、私は私なのだ。それが今日、わかった。大きな収穫だろう。

「なので、ザラさんには感謝をしています」

「メルちゃん……」

なんだか、心のモヤモヤが全部晴れたような気がする。

小難しいことは、あとで考えることにした。今日は帰ってゆっくり休もう。

「寮まで送るわ」

「はい、ありがとうございます」

せっかくの申し出なので、甘えることにした。

今までなんだか悪いからと、他人の好意までも遠慮ばかりしていたことに気付く。

誰かに何かをしたいという優しさを突き返していたなんて、失礼にもほどがあるだろう。

これまではこういうことに気付く余裕すら、なかったのかもしれない。

寮までの道を、ほとんど会話もなく歩いていく。

ザラさんとは「また明日」と挨拶を交わし、門で別れた。

◇◇◇

夕刻を知らせる鐘が鳴り響く。

アメリアに食事を与えたあと、私も食堂へ足を運ぶ。

アメリアは少しの時間ならば、お留守番ができるようになった。大勢の騎士がいる食堂を苦手に思っていることも理由の一つだけれど。

お引越しで食堂の場所が近くなった。今使っている部屋は、幹部用らしい。恐れ多くて震える。早く引越しをせねば。

そんなことを考えているうちに、食堂に到着。

本日は食堂のおばちゃんオススメの、若鳥の岩塩焼きに決めた。

「普通のパンと薄焼きパン、どちらにするかい?」

なんと、今日はパンが二種類あるらしい。薄焼きパンは、具をくるくると巻いて食べるみたいだ。なんか、前に山賊兄弟に似たような料理を作ったなと、思い出してしまった。

彼らは元気だろうか。騎士隊に連行されていたようだが。

いや、どうでもいいか。

せっかくなので、薄焼きパンに決めた。サラダとチーズ、野菜スープもセットに含まれていた。

まだ早い時間だからか、ほとんど人がいない中での食事となった。

神に祈りを捧げて食事を戴く。

「それ、野菜とかチーズとか、一緒に巻いたら美味しいのよ」

斜め前に座っていた騎士のお姉さんが教えてくれた。なるほど。

「そこの壺の中に入っているのがタレ。甘辛いの」

「ありがとうございます」

教えてもらった通り、薄焼きパンにナイフで切り分けた若鳥とサラダの野菜、チーズを入れ、上から甘辛タレをかけて巻いた。

大きな口を開けて食べる。

薄焼きパンはしっとり柔らか。ほんのり甘い生地だ。

若鳥の岩塩焼きはふっくら柔らかく焼かれており、塩気はちょうどいい感じ。野菜のシャキシャキ感とも相性抜群だ。甘辛いタレともよく合う。

あっという間に二枚分、食べてしまった。

斜め前の騎士のお姉さんは六枚も食べたとか。たくさん食べられることはいいことだ。私ももっと食べられるようになりたい。

お風呂に入ってから、部屋に戻る。

『クエクエ~~』

「ただいま戻りました」

帰って来るなり、アメリアが私の匂いをクンクンと嗅ぐ。

『クエ~~』

目付きが鋭くなる。「お風呂に入ってきましたね」と、尋問しているのだろう。「はい」としか答えようがない。

「アメリアは寮のお風呂は無理ですよ。お引越ししてからです」

『クエ〜』

「我、入浴できぬとは、遺憾なり」と言いたいのか。尻尾を鞭のようにしならせ、床に叩きつけている。

「う〜ん、そうですねえ」

大きな桶を買って、暖炉を焚いた暖かい部屋ならば、可能だろう。一人では難しいので、誰かの手も必要だ。

「そうだ! アメリア、石鹸を作りましょう」

『クエ?』

果物の皮の活用法を思いついた。

まず、乾燥させていた柑橘類の皮を乳鉢で擦り、粉末状にする。暖炉に鍋を吊るし、粉末の柑橘類を煮込んだ。鮮やかな橙色になった。

それを濾して、粉石鹸の中に入れて練る。完成した石鹸は、お菓子用に買っていた長方形の型に流し込んだ。

多分、一週間くらい放置したら、綺麗に固まると思う。

石鹸の香りを嗅いで、尻尾を振るアメリア。気に入ってくれたようだ。

柑橘の皮は殺菌作用などがあったはず。食べれば綺麗になる果物とも呼ばれていた。

「これはアメリアの石鹸なので、お引越ししたら使いましょうね」

『クエ~~』

どうやらこれで納得してくれたようだ。それまで、体を拭くだけで我慢をしてほしい。