軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リスリス、ザラの実家へ行く! その十六

ソリを停め、山猫の赤ちゃんを抱いて外に出る。

レインディアは森小屋の隣にある家畜小屋で休ませるらしい。ザラさんはソリからレインディアを放し、家畜小屋へと連れて行く。

「メルちゃんは先に、森小屋の中に入っていて」

「了解です」

雪は完全に吹雪いていた。降っているのは雪というよりも、小粒の氷である。顔に当たる度に、悲鳴を上げていた。

風がゴウゴウと音を鳴らしている。小走りで森小屋へと飛び込んだ。

扉の向こうには大きな暖炉があって、体をこれでもかと温めてくれた。

「いらっしゃい」

奥から出てきたのは、白髪頭の老夫婦だった。

「おや、この辺の 娘(こ) ではないねえ」

「こんな時期に、旅行かい?」

「あ、えっと、はい」

ザラさんの家族にご挨拶だなんて、恥ずかしくて言えない。カーッと、顔が熱くなっていくのを感じた。

そんなことはいいとして。

「あの、母親とはぐれた、山猫の赤ちゃんを拾ったんです。ミルクを、いただけますか?」

「ああ、そうだったのかい。大変だったねえ」

「山猫の子には、レインディアのお乳がいいけれど、今の時季はないからねえ」

レインディアの子育てシーズンは、春から秋まで。その間にしか、お乳はでないようだ。

「だったら、代わりに 長毛牛(ボース) のミルクを搾ってこようか」

お爺さんが、木のバケツを持って外へと飛び出した。

「ぼーす?」

「この辺で品種改良された、毛足の長い牛なんだよ」

「そうなんですね」

乳牛用の家畜なので、お乳は一年中出るらしい。

お婆さんが椅子を勧めながら、長毛牛について教えてくれた。

もっふもふの毛並みで、夏に刈り取った毛は外套を作ったり、絨毯を編んだりするようだ。驚くほど、温かいらしい。

「どれ、山猫の赤ちゃんは?」

「先ほど、蜂蜜水を与えたので、今は落ち着いています」

「そうかい、そうかい」

毛布を少しだけ開いてみると、山猫の赤ちゃんはアルブムにぴったりくっついて眠っていた。

それだけではなく、アルブムの耳をしゃぶっている。

アルブムは虚無の表情でいた。

「あらあら、イタチの子は、山猫の子のお母さんみたいだねえ」

「イタチはオスですけれどね……」

お婆さんと山猫の赤ちゃんの様子を見ていたら、ザラさんが入ってきた。

「あら、あんたは、アートさんところの娘さんじゃないかい!」

「いえ、末のザラです」

「あらあらあら! そうだったのかい! 立派になって!」

どうやら、ここの老夫婦はザラさんとザラさんのご家族が懇意にしている人達だったようだ。

一年前に開いた森小屋だったようで、ザラさんもご夫婦がやっていると知らないでやってきたらしい。

「帰ってくるのは、ずいぶんと久しぶりだねえ」

「ええ」

「お姉さん達は、もう二度と帰ってこないのではと、言っていたから、驚いたねえ」

ここで、お婆さんがハッとなって私を見る。

「あ、もしかして、結婚の、報告を!?」

「ええ、まあ。できたらいいなと、思っています」

「あらあらあらあら!! おめでとう!!」

ザラさんが顔を真っ赤にして照れているので、私も同じように顔が熱くなる。きっと、真っ赤になっていることだろう。

ここで、お爺さんが戻ってきた。

「ほれ、持ってきたぞ!」

「ありがとうございます」

お婆さんはすぐにお爺さんに駆け寄り、ザラさんについて教える。

「これはたまげた。アートの息子か!」

「はい。お久しぶりです」

「こいつは立派になって――いいや、それよりも、山猫の赤ちゃんのミルクを用意しなければいけないな!」

「あとは、私がします。山猫の世話は、慣れておりますので」

「そういえば、契約していたな。では、任せたぞ」

「はい」

ザラさんは台所で鍋と砂糖の入った瓶、それから漉し器を持ってきた。

「煮沸消毒、ですか?」

「ええ」

長毛牛のミルクを加熱し、砂糖を加えて飲ませるようだ。その状態が、山猫の乳の成分に似ていると。

「メルちゃん、漉し器を鍋の上で持っていてくれる?」

「了解です」

ザラさんは長毛牛のミルクを漉し、砂糖をサラサラ加えていた。これを、暖炉の火で加熱する。

熱伝導のいい鍋だからか、すぐにふつふつと沸騰し始めた。

混ぜているうちに、ミルクはトロトロになる。甘く、優しい匂いがただよってきた。

匂いに気づいたのか、山猫の赤ちゃんが『みゅう、みゃう!』とミルクを要求するように鳴いた。

「ちょっと待っていてね」

ザラさんは鍋のミルクをカップに注ぎ、外で冷やしてくると言って出て行った。

その間、山猫の赤ちゃんはアルブムのお腹を猛烈にふみふみしている。

『ウウ……。サッキ食ベタモノガ、口カラ、出テキソウ』

さすがに可哀想になったので、山猫の赤ちゃんは私の膝に乗せて、お腹をふみふみさせていた。

三分くらいあとに、戻ってくる。

「お待たせ!!」

ザラさんは冷めたミルクを指先に浸し、山猫の赤ちゃんの口元へと持っていた。

すると、夢中になってちゅぱちゅぱ音を鳴らしながら飲んでいる。

あっという間に飲み干し、背中をぽんぽん叩いたら『けふー』と息をはいていた。

お腹はぽっこり膨れている。

「大丈夫そうですね」

「ええ、よかったわ」

山猫の赤ちゃんの危機は脱したようだ。

ザラさんと二人、ホッと胸をなで下ろす。