作品タイトル不明
最終決戦! その十五
『パンケーキー! パンケーキー! 一日十五枚パンケーキー!』
作詞・作曲アルブムのパンケーキの歌を聞きながら、みんなのもとに戻る。
一日十五枚って多くないか?
もしや、朝五枚、昼五枚、夜五枚食べる気なのか?
という突っ込みを、しようかどうか迷う。
それにしても、驚いた。いつもシエル様が被っている冑が、森林大亀の背中に転がっていたなんて。
ちなみに、周辺にシエル様の気配はなかったらしい。
今、シエル様はどこにいるのか。
「隊長ー!」
「おう、戻ったか!」
「水晶岩塩、アルブムに採ってきてもらいました」
「アルブムを使った作戦は、無事成功したようだな」
いや、そんなハキハキと、作戦とか言わなくても。
アルブムはパンケーキのことで頭がいっぱいなので、作戦のために駆り出されたと気付いていないけれど。
「さっき、森鳥を仕留めたんだ。水晶岩塩をつかってみるぞ」
森鳥は飛べない鳥で、二足歩行で森の中をスタスタ歩いている。
そのため、他の鳥類より獲りやすい。
水晶岩塩をぱっぱと振って、丸焼きにしようとしているのだとか。
「リスリスはザラとウルガスの手伝いに行け」
「はい。と、その前に、この冑を、アルブムが森林大亀の背中で発見したのですが」
「これは、アイスコレッタ卿の冑じゃないか!」
「そうなんです。でも、肝心のシエル様はいなかったようで」
「そうか……」
「まあ、いい。とりあえず、腹ごしらえするぞ」
出発してからそう時間は経っていないが、なんだかお腹が空いていた。無理矢理転移されてやってきた弊害なのか。よくわからない。
すぐ近くで、残りのメンバーが森鳥を捌いたり、焚き火の用意をしていたりした。
リーゼロッテとガルさん、ベルリー副隊長が焚き火係で、ウルガスとザラさんが森鳥を捌いていた。
「あ、リスリス衛生兵、お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
ウルガスが捌いた森鳥を見せてくれた。
「この森の森鳥、すっごく大きくて」
「ですね」
通常の森鳥は、私の顔くらいの大きさだ。しかし、ウルガスが仕留めた森鳥は、半メトルくらいある。それを四羽、仕留めたようだ。
「一羽は俺が、もう二羽はアートさんが、最後の一羽はガルさんが仕留めました」
「すごい成果ですね!」
「ええ」
すごいのは、獲った鳥の数だけではない。
羽根を毟り、きちんと血抜きして、内臓も取り除いていた。
「きれいに捌けていますね」
「リスリス衛生兵のお手伝いをしているうちに、だいたい覚えてしまいました。初めて一人でやったので、わからないところは、アートさんが教えてくれたんですけれど」
「こう言っているけれど、ジュンは、ほとんど一人でできていたのよ」
ザラさんに褒められたウルガスは、「でへへ」と笑いながら照れていた。
「なんだか、リスリス衛生兵と最初に行った遠征を思い出します」
ウルガスと共に、苦笑いしてしまう。
一年半前の話なのに、随分昔の出来事のように思えてならない。
「え? 何かあったの?」
「あ、そっか。アートさんはいなかったんですね」
「初めての遠征で、大変だったんです。兵糧食が不味くて」
「たしかに、騎士隊の兵糧食は不味かったわね」
「ただの不味い兵糧食ではなかったんですよ」
「どういうことなの?」
「ウルガスお手製の、兵糧食だったんです」
「えっ?」
隊長が前の衛生兵と喧嘩し、ウルガスが衛生兵を務めることとなった。
そのため、一時期、ウルガスは兵糧食をせっせと作っていたのだ。
「どうして、ジュンがお手製の兵糧食を作ることになったの? ふつうに、予算と引き換えに、支給品を貰いに行けばよかったのに」
「前の衛生兵が、兵糧食は手作りしたほうが安くてうまいとかいって、勝手に自作していたんです。それで、第二部隊は予算はたくさんいらないな、みたいに思われてしまって、減らされてしまったようで」
「それで、騎士隊の兵糧食を引き換えるお金がなかったと?」
「はい」
「バカね。上に事情を話してかけあったら、予算を元に戻してもらえたかもしれないのに。それに、食料庫を空にするって、規律違反じゃない」
「そうですよね。あのときの俺ら、変な意地を張っていたみたいで」
「その結果、メルちゃんに、不味い兵糧食を食べさせてしまったと」
「ええ」
酸っぱいパンに、石のような干し肉……思い出しただけでも、身の毛がよだつ。
遠征中に獲った鳥や兎だって、捌き方を知らず、血抜きや内臓を抜かずに丸焼きにしていたらしい。不味くても、我慢して食べていたのだとか。
「リスリス衛生兵が、不味い兵糧食を使っておいしいスープを作ってくれたときは、感激しました。この一年半、毎回おいしい料理を作ってくれて、本当にありがとうございました」
「ウルガス……!」
なんだろうか。息子が無事に独り立ちしたような気にさせてくれるのは。
ウルガスは一つ年下なのだけれど。
「アートさん、リスリス衛生兵がきたあとに入隊して、よかったですね」
「まあ、私はメルちゃんがいたから、再入隊したんだけれど」
「あ、そうでした」
こんな部隊にやってきてくれたザラさんに、感謝だ。
「なんだか、この感じ、懐かしいですね」
山賊がいて、ベルリー副隊長がいて、ガルさんとザラさん、それから、リーゼロッテがいて。
「今回の任務が終わったら、またアートさんやリヒテンベルガーさんはいなくなるんですよね。なんだか、寂しいです」
「ですね」
ウルガスの言葉を聞いて、しんみりしてしまった。