作品タイトル不明
最終決戦! その四
天空魚に食いついたのは、ミルだった。
「え~、空を泳ぐ魚って、どんな味がするんだろう?」
『鶏肉のように淡泊だが、今の時期は脂が乗っていておいしいだろう。物置に、釣り竿と疑似餌が置いてあるから、使うといい』
「わーい!」
ミルは教えてもらった物置までタタタと走り、すぐに釣り道具を取りに行った。そして、片手に釣り竿、片手にバケツを持って戻ってくる。
「お姉ちゃーん、釣りしよう!」
「……」
元気がよすぎるミルの誘いに、思わず両手で顔を覆った。
今、私達は邪竜調査のために、フォレ・エルフの森へ向かっている。本当に竜が封印されていたとしたら、一大事だ。
私は緊張で、胸が張り裂けそうになっているのに……。
ミルはいつもと変わらないどころか、空の魚釣りに挑戦しようとしていた。
同じ姉妹でもこうも精神構造が違うのかと、驚きを隠せない。
「お姉ちゃん、早く、早くー!」
「いや、ちょっと待って。釣りって、窓を開くの?」
「開かないと、釣り糸を垂らせないじゃん」
「いや、まあ、そうだけど」
空を飛んでいる中、窓を開いた上に傍に寄るなんて絶対無理だ。
しかし、私が付き添って、ミルを監督しておかないと……。
立ち上がろうとした瞬間、竜が大きく旋回した。
「ヒ、ヒギイ!」
胃の当たりがスーッとして、気持ち悪くなる。
『今から、天空魚がたくさんいるところを通ってやるからな!』
「わーい!」
リオンさんのサービス精神は素晴らしいが、個人的にはまったく嬉しくなかった。
立ち上がらなければと思っていたが、腰が抜けてヘロヘロ状態である。
ここで、ザラさんが思わぬ助け船を出してくれた。
「ねえ、クロウ、天空魚釣りに、付き合ってあげてくれる?」
「なんで俺が小リスリスの遊びに付き合わなければいけないんだよ」
「空の釣りなんて、する機会なんてないでしょう? 奥さんに話を聞かせてあげたら、喜ぶんじゃない?」
眉をつり上げていた隊長だったが、ザラさんが「奥さん」と言った途端に表情が和らぐ。
「それに、この中で一番魚釣りが上手いのは、クロウだし」
「まあ、そうだな」
「お願いできない?」
「そこまで言うのならば、付き合ってやらなくもない」
ザラさん、すごい。ものの一分で、隊長を説得しやる気を出させてくれた。
「おい、小リスリス、危ないから、窓から顔を出すんじゃないぞ!」
「はーい」
天空魚は、雲を食べるらしい。そのため、疑似餌も雲のようにもこもこしている。
「わー、可愛い! もふもふしている」
釣り竿は普通のものと変わらないと思いきや、表面に呪文が刻まれていた。
針に疑似餌を付け、使用者の魔力を流すと、疑似餌が天空魚目がけて飛んでいくらしい。
「魔力を流すって、どうするんだ?」
『呪文に触れるだけでいい』
まずは、隊長が挑戦するようだ。
竜は再び雲の中へと入り、空へ抜ける。
「――わあ!」
そこは、たくさんの天空魚がいた。リオンさんの秘密の釣り場のようで、いつもここで天空魚を釣っているらしい。
窓を広げると、冷たい風がぴゅーっと流れてきた。
「うわっ、寒っ!」
「のどかな晴天に見えるけれど、空の上は寒いのね」
「ですねえ」
ザラさんがマントを外し、私の肩にかけてくれた。
そのとなりで、ウルガスもくしゃみをする。すると、ベルリー副隊長が、ウルガスに自分のマントをかけてあげていた。
「うう、すみません。ベルリー副隊長は、寒くないのですか?」
「平気だ。気にするな」
私はウルガスと声を合わせ、「ベルリー副隊長カッコイイ」と呟いてしまった。
「また、アンナに持って行かれてしまったわ」
「ザラ、その、すまない」
ザラさんはベルリー副隊長に何を持って行かれたのだろうか。
首を傾げている間に、隊長が魚釣りを始めていた。
「おりゃ!」
かけ声と同時に、竿が振り下ろされる。
竿に刻まれた呪文が光り、糸が光っていく。そして、針につけた雲のような疑似餌が、生き物のように動きながら飛んでいった。
天空魚の前を通過すると、パクリと噛みつく。
隊長はタイミングを見計らい、竿を引いた。
疑似餌はヒュン! と音をたてながら戻ってくる。天空魚は、疑似餌に食いついたまま。
「よし! 釣れたぞ!?」
見事、隊長は半メトルほどの立派な天空魚を釣った。
『すぐに翅をもげ。でないと、逃げるぞ』
ビチビチと跳ねる天空魚の翅を、隊長は迷わずもいだ。すると、大人しくなる。
「きれいな魚ー!」
ミルの言うとおり、天空魚は銀色の鱗に、真珠の瞳を持つ美しい魚だった。
『天空魚は、刺身が一番だな。酒と合う』
「刺身ってなんだ?」
酒という言葉に反応し、隊長がリオンさんに質問する。
『刺身は、魚を薄く切って、生で食べる料理だ。ショウユという、異国のソースを付けて食べると上手い。通は、そのまま食べるらしいがな』
「な、生で魚を食うだと!? ありえない!!」
『食ったことあるのか?』
「ないが、腹を壊しそうだ」
『生の魚くらいで、腹なんか壊さないだろう』
「頑丈なアイスコレッタ家の者と一緒にしないでほしいのだが」
『何か言ったか?』
「なんでもない」
隊長はこう見えて、繊細なのだ。未知なる異国料理なので、拒絶反応を示してしまうのは無理もない。
「わーい! お姉ちゃん、たくさん釣れたよー!」
話をしている間に、ミルは大量の天空魚を釣っていた。
「そろそろ、私の出番ですね」
そろそろお昼時だ。昼食は天空魚料理を作ることにした。