軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最終決戦! その五

竜馬車の台所は、私の実家のものよりも広く、設備が整っていた。

「お姉ちゃん、火力は魔石みたいだから、調整は私がやるね」

「ありがとう」

『アルブムチャンハ、調理ヲ手伝ウヨ!』

先ほどまでニクスの中でギャーギャー騒いでいたアルブムが、いつの間にか出てきていた。

「メルちゃん、私も手伝うわ」

「ありがとうございます」

ザラさんも手伝ってくれるようだ。

「何を作るの?」

「そうですね。まずは、この未知の食材がどんなものか、把握しないとですね」

銀色の鱗を持つ魚は、いったいどのような肉質なのか。

リオンさんは鳥肉に似ていると言っていたけれど。

まずは、鱗を取らなければ。ナイフで取ろうとしたが――。

「うっ、硬い!!」

「本当、すごく硬いわ。これ、どんな構造になっているのかしら?」

銀色の鱗は美しいが、魚のようにナイフでこそぎ落とすことはできない。ザラさんの力でも、難しいようだ。

力自慢のアルブムが鱗を一枚手に取って引っ張ったが、抜けなかった。

『それは、お湯に浸けたら取れるぞ』

リオンさんが助言してくれる。

「お湯で、ですか?」

『ああ。面白いくらいポロポロ取れるから、やってみるといい。皮が分厚いから、湯に浸けたくらいでは中の身に火が通ることはないから安心しろ』

「わかりました」

言われたとおり、お湯を沸かして魚を浸してみた。

すると、面白いくらい鱗がポロポロ取れていく。

「わー、すごい! 面白い!」

ミルは飛び跳ねて面白がっている。ザラさんは興味津々とばかりに、鍋を覗き込んでいた。

「天空を泳ぐ魚、不思議ね」

お湯に浸けた天空魚の鱗は、淡く白濁していった。真珠のような照りが出てくる。

一枚一枚、硬貨のように分厚くて、しっかりしていた。

『天空魚の鱗は、貴婦人の装飾品に加工されるんだ。宝飾店に持って行ったら、耳飾りや首飾りを作ってもらえるぞ』

「へー、そうなんですね」

『防具にも加工されるが、弱点は熱だな。雪山に行くのには、いいかもしれんが』

「なるほど」

これだけ強度があったら、すばらしい防具となるだろう。 弱点がわかっているので、使いどころがはっきりしていていい。

すくい取った鱗は、大事に保存しておく。

と、鱗に気を取られている場合ではない。調理に取りかからなければ。

まず、皮を剝かなければ。熱を通さない皮は、人が食べて消化できるものではないだろう。

「では、入刀」

まずは尾に切り込みを入れて皮を剝ごうと思ったが、ナイフが入らない。

「ぐぬぬ、ぐぬぬぬ!」

「これ、皮も刃を通さないわ」

「皮も、防具になりそうだね~」

リオンさんに助けを求める。

「すみません、これ、まったく刃が通らないのですが」

『ん、そうか? 鱗が取れたあとは、刃で切れるのだが。ちょっと待て。そちらへ行く』

もしかして、台所まで来てくれるというのか?

『では、エルフの青年。しばし、手綱を頼んだぞ』

『は!? バカか!? 竜の操縦なんて、したことないぞ!?』

『大丈夫だ。馬の操縦より難しくない』

『おいおい、待て待て、おい!!』

ランスの叫びは途中でブツンと切れた。そして、リオンさんが台所へとやってくる。

「すまんな。そういえば、このナイフでしか切ることができないことを失念していた」

そう言って、リオンさんは腰ベルトから引き抜いたのは、黒いナイフだった。

「それは?」

「溶岩魔石のナイフだ。強度は世界一で、切れないものはないと言われている」

「おー……」

世界一の強度のナイフでないと、天空魚は食べることができないようだ。

リオンさんはぐつぐつ煮えたぎる鍋の中に、ナイフを入れていた。

「煮沸消毒までしてくださって、ありがとうございます」

「ん? あ、これは、ナイフの強度を最大限にまで高めているだけなんだ」

熱で温めることで、ナイフの強度が増すらしい。

世の中には、いろいろな武器があるものだと感心した。

「そもそも、長年天空魚は食べられない魚と言われていたんだ」

「それは、皮をナイフで断つことができないからですか?」

「そうだ。しかし、数代前のアイスコレッタ家の当主が、空を泳ぐ魚をどうしても食べたくなり、なんでも切ることができるナイフを作ろうと、火竜がいる火山へ行ったのだ。火竜のブレスを浴びながらも、溶岩魔石を手に入れたらしい。できたナイフがこれだ」

湯からナイフが取り出される。ホカホカと湯気が立っていた。

「もしかして、家宝のナイフなのですか?」

「そうだ。天空魚も切れるが、武器としても優秀だから、お祖父様に譲ってもらった」

「な、なるほど」

天空魚を食べたいがために、命をかけて溶岩魔石を採りに行ったアイスコレッタ家のご先祖様とはいったい……。

アイスコレッタ家の方々は、個性的な人が多すぎる。

「では、さばくぞ」

「はい!」

リオンさんは豪快な手つきで、天空魚にナイフを入れる。

ナイフを持った手を高く振り上げ、勢いよく下ろした。

ダン! と、音がなる。調理台にいたアルブムは、尋常じゃないくらい震えていた。

可哀想なので、抱き上げて首に巻いておく。

「あ、まな板まで割れちゃった」

ミルの呟きを聞いて、リオンさんの手元を覗き込む。

切れたのは天空魚だけでなく、まな板も割れていた。さすが、なんでも切れるナイフ。

調理台まで割れなかったのは、不幸中の幸いと言えばいいのか。

「力加減を間違った」

「はは……よく、切れますね」

「ふむ。いつもは外でさばいていたからな」

天空魚をさばくのは、ザラさんにしてもらうことにした。

ここでようやく、肉質を確認する。

きれいな白身で、魚臭さはまったくない。

「肉に弾力があって、たしかに鳥っぽいですね」

どう調理しようか。未知の食材を前に、わくわくしてしまった。