軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新しい隊員 その一

「う~~ん……うっ!」

頬に誰かの足がぐっと押し付けられて目覚める。けっこう力が強い。

誰かと瞼を開くと、エスメラルダだった。

可愛い顔をして、寝相が悪い。

左側にはアメリアが眠っていて、右側にはステラがいる。

寝台の天井から吊り下がった鳥の巣のような寝床には、アルブムがぷうぷうと寝息を立てながら眠っていた。

枕元には、妖精鞄のニクスが、蓋をパタパタと動かしながら眠っている。

足下には、ブランシュとノワールが……って、いつものことながら、人外が集まりすぎだろう。

それを可能とする王様寸法の寝台もすごいけれど。

窓の外はまだまっくら。しかし、冬なので日の出が遅いだけだろう。もう、起きなければ。

むくりと起き上がると、ステラの耳がピクンと動き、目を覚ます。

『クウ?』

「ステラ、おはようございます」

続けて、アメリアが目を覚ます。

『クエクエ』

「おはようございます、アメリア」

エスメラルダは眉間に皺を寄せ、「ちょっと静かにしてほしいんですけれど~~」みたいな迷惑そうな表情を浮かべている。

ニクスとアルブムは目覚める気配はない。

ブランシュとノワールは、目が覚めているけれど起きたくないのか、『にゃうにゃう』と寝言のようなものを口にしていた。

「よし、準備を始めますか!」

侍女さんが暖炉の火を絶やさないようにしているので、部屋は寒くない。

暖炉の前で寝間着を脱ぎ、シャツを着こむ。

脱ぎ捨てた寝間着は、アメリアとステラが籠に入れてくれる。

『クエクエ』

「あ、ありがとうございます」

ついでに、今日使う髪紐まで選んできてくれた。

洗面所で顔を洗い、歯も磨く。

貴族令嬢の礼儀指導で「化粧を毎日することも礼儀です」と習ったので、薄く化粧もしてみた。習いたてなので、まだまだ上手くできないけれど、すっぴんよりはマシだ。

三つ編みは子どもっぽいので、今日から左右の髪を編み込んで後頭部で留めるという髪型にしてみる。

少し大人っぽ過ぎるけれど、いいだろう。

アメリアとステラの身支度最終確認で合格を貰ったあとは、食堂に移動する。

食堂の前では使用人が数名いて、恭しくおじぎをしてくれる。

エヴァハルト邸は新たな持ち主──養子縁組したザラさんの持ち家となった。

けれど、引き続き幻獣保護局から派遣された使用人が働いているのは、幻獣の面倒を見るためだろう。

ザラさんは多忙で、私も急に遠征が入る時がある。エスメラルダやブランシュ、ノワールはずっと家にいるので、彼らが頼りになるのだ。

食堂の中では、ザラさんが新聞を読んでいた。

「おはようございます」

「おはよう。あら、メルちゃん、その髪型、似合っているわ。綺麗よ」

「ありがとうございます」

そんなことを言ってくれるザラさんの、親衛隊の白い制服が眩しい。

エヴァハルト家と養子縁組を結び、貴族となったザラさんは王太子様の親衛隊に所属することとなったのだ。

ザラさんが第二部隊からいなくなって寂しいけれど、今日、新しい隊員がくるというので楽しみにしている。

「いったい、どんな人がくるのでしょうか?」

「そうね。私とリーゼロッテが抜けたから、戦力が大きく減るでしょう? きっと、実力がある人を連れてくると思うの」

「そういえば、隊長が前にそんなことを言っていましたね」

「でもそれ、一ヵ月前くらいの発言でしょう? もしかしたら、別の人になっている可能性もあるわ」

「そうなんですね」

「ええ。騎士隊の人事はコロコロ変わるから」

異動してくる騎士が、急に別の部隊に行ってしまったという話は、しょっちゅうあるらしい。

「騎士隊エノクは、人手不足だからそういうふうになってしまうのよ」

「なるほど」

そのおかげで、私みたいな辺境エルフも入隊できたわけだけど。

辺境エルフといえば、元婚約者だったランスはどこの部隊に所属となったのか。

王都に私を連れ戻しに来た時は、本当に驚いた。ザラさんが助けてくれたおかげで、大ごとにはならなかったけれど。

なんとランスは、私の気を引くために婚約破棄をしたのだ。

私はずっと、器量なし、魔力なし、財産なしが原因で結婚できないのだと思い込んでいた。

ずっと、勘違いをしていたのだ。

ランスめ~~! と腹立たしく思ったけれど、彼がこういう行動をするきっかけになったのは、私が関係している。

フォレ・エルフの森での暮らしは、とにかく忙しかった。

そんな中で、ランスが話しかけようとするたびに、「またあとで」と言って相手にしていなかったのだ。

婚約破棄を言い渡したら、私がランスに縋るだろうと思っていたらしい。その考えもどうなんだという感じだけれど。

後日、私とランスはしっかり話し合い、互いに謝罪しあった。

もう二度と、私にちょっかいをかけないとも、約束してくれる。

これからは別々の人生を歩もうと話が付いたところで、衝撃の展開となった。

ランスも王都で騎士をするというのだ。

彼が騎士隊で上手くやれているかは──謎である。

「ランスめ……!」

「メルちゃん、どうかしたの?」

「あ、いいえ。なんでも」

のんびりしている時間はない。朝食を食べなければ。

本日の品目は──焼きたてふかふかの白いパンに、半熟ゆで卵、野菜スープ、厚切りベーコンに、サラダ、それからミルクたっぷりの紅茶が用意されている。

パンを二つに割ると、湯気が漂う。小麦の良い香りを目一杯吸い込んだ。

バターを落とすと、パンの熱でじわりじわりと溶けていく。完全に溶けきらないうちに食べるのが、私の好みだ。

パンの皮はカリカリと香ばしく、中は溶けたバターがパンにしみ込んで濃厚な味わいとなる。

はあ……焼きたてのパンがある生活ってかなり幸せ!

朝食を食べ終えると、窓の外の光景に目を奪われる。

「あ、ザラさん、雪が降っています」

「あら、本当」

窓際に駆け寄り、外の様子を見る。

はらはらと、雪が降っていた。

秋は終わり、冬が訪れようとしているのだろう。

落葉した木々に、白い花が咲きつつある。

ザラさんと二人で、雪が降るエヴァハルト邸の庭を眺めた。

「──あ」

「ザラさん、どうかしました?」

「いえ、アイスコレッタ卿を発見してしまって」

「本当ですね。アリタとコメルヴもいます」

雪が降って嬉しいのか、アイスコレッタ卿ことシエル様とアリタが小躍りしているように見えた。

コメルヴだけ「あ~寒い」みたいな感じでいる。

「シエル様、寒くないのでしょうか?」

「寒くないのでしょうね」

無邪気なシエル様を見ていたら、なんだかほっこりしてしまう。

そんな感じで、新しい朝が始まった。