軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

メル、社交界デビュー!? その十八(終)

「それで、俺への説教が始まるのか?」

ランスの問いを聞いて、ハッとなる。そうだった。おいしい料理を堪能している場合ではない。彼と、話を付けるために来てもらっていたのだ。

侯爵様は眉間に皺を寄せ、唇はぎゅっと結び、腕を組んでいる。

リーゼロッテも同様に。

こういうところを見ると、親子なんだなと思った。

そんなことはさておき。

今後、ランスに絡まれないため、話をつけなければならないのだ。

今回の婚約破棄は、ランスの斜め上を行く言動がきっかけで起きた悲劇だった。

しかし、元を辿ったら、彼が一方的に悪いということではない。

私も、忙しい中でランスのことをないがしろにしていた。

なんとか時間を作って、話をすることもできたのに、私はしなかった。

だから、言うべき言葉は一つしかない。

「ランス、ごめんなさい」

「え?」

「私、あなたのことを、まったく考えていませんでした」

「……」

「忙しかったというのは、言い訳です。私はあなたを、家族となる人として、見ていなかったんです」

どうしてかはわからない。

きっと、魔力が少ないことへの劣等感があったのかもしれない。

「家柄も微妙で、容姿も優れなくて、おまけに魔法も使えない。そんな私が、優秀なランスとつり合うはずがないと、考えていたのでしょう」

「……」

「他人事だったんです。ランスとの婚約は」

ランスは、忌々しいとばかりに私を睨んでいる。はっきり言い過ぎたか。

しかしこれが私の中にある、正直な気持ちだ。

「俺には酷い対応をして、王都では金持ちのぼんぼん騎士に構っていたワケだと」

「そ、それは──」

「ちょっといい?」

ここで、リーゼロッテが口を挟む。

「メルの婚約者であるザラ・エヴァハルトは、もともとは平民なのよ。メルと結婚するために、貴族の養子になったの」

「そ、そうだったのか?」

「間違いない」

返事をしたのは、侯爵様だ。その言葉には、ランスは何も言い返さなかった。

っていうか、いつの間にか私はザラさんの婚約者になっている。侯爵様はリーゼロッテの主張に口を挟まなかったので、知っていたのか。

気になるけれど、あとでにしよう。今は、ランスとの問題を解決するのが先だ。

「私、フォレ・エルフの森にいた時は、家族のことだけを考えて、家族のために生きていたんです」

毎日家事を行い、薬草採取にでかけ、料理を作る。 妹弟(きょうだい) の世話をしたり、両親の手伝いをしたり。そんなことをしていたら、あっという間に一日が終わってしまうのだ。

自分の時間なんて、まったくなかった。

「家族との暮らしが、私のすべてでした。でも、王都の暮らしは違ったのです」

家族のために出稼ぎをしに来たことには間違いないが、ここでの暮らしは基本自分や他人のことを考える余裕があった。

「騎士隊に入って仲間ができて、騎士としての自覚と覚悟も目覚めて、それから、私を大事にしてくれる 男性(ひと) と出会った」

王都にやってきて、私の人生は大きく変わった。

フォレ・エルフの森の村が、暮らしが、考えが、どれだけ閉鎖的だったのか、知ったのだ。

「もう、フォレ・エルフの考えの中では暮らせません。フォレ・エルフの考えが根付いているランスとも、結婚はできないのですよ。だから、ごめんなさい」

深々と、頭を下げる。ランスの顔を見ることはできない。

私は──勝手だ。婚約破棄が勘違いだったとわかっても、フォレ・エルフの森に帰ろうとは思わなかったから。

今はただただ、頭を下げるしかなかった。

「おい、メル。頭を上げろ」

「……」

「上げろ。その状態で、まともに話ができると思っているのか?」

「……すみません」

頭を上げて、ランスを見る。

怒っているかと思いきや、意外と冷静そうに見えた。

「俺は、お前が婚約者と聞かされてから、特別な存在として見ていた」

「はい」

「だが、お前がどんな女なのかは、よく知らなかった。だから、声をかけ続けた」

「ええ」

けれど、私はランスと話をする時間を作れなかった。いいや、作らなかったのだろう。

「婚約破棄を言い渡したあと、お前が王都に行って、俺がどれだけ恥をかいたか、知らないんだろうな」

「すみません」

「あのあと、お前の実家から婚約破棄の申し入れを受けるという返事があって、撤回しようにもお前はいなくて……」

しばらくしたら帰って来る。そのあと、婚約破棄を撤回させるよう言い聞かせたらいいと考えていたらしい。

「しかしまあ、どれだけ待っても帰ってこねえ。だから俺は、王都にやってきた」

そして、騎士隊の門の前で騒ぎを起こしたというわけだ。

「なんか、派手な顔した自称婚約者とか出てきて、ふざけんじゃねえぞと思った。でも、今、お前の話を聞いて、考えが変わった。もう、勝手にしろよ。二度と、お前には関わらないから」

「ランス……」

「別にお前のことはなんとも思ってねえし、婚約破棄の撤回だって、俺の中にある自尊心を傷つけられたからなんだ」

ランスにかけるべき言葉が見つからない。

ずっと、高慢で嫌なやつだと思っていた。しかし、ランスは私の話に耳を傾けてくれたのだ。

すれ違いで、婚約破棄という結果になってしまったのだろう。

「で、お前が自由に生きるというのならば、俺も自由に生きる」

そう言ってランスが見せたのは、騎士隊への入隊許可証だった。

「は!? ランス、あなた、本当に騎士隊に入隊したのですか!?」

「ああ。魔法が使える奴は即戦力とかで」

「……」

私が入れたくらいなのだ。優秀な魔法使いであるランスが、入れないわけがない。

「これからは他人同士だが、廊下で会った時くらいは無視するんじゃねえぞ」

「……はあ」

どうしてこうなったのかと、天井を仰ぐ。

人生とは、本当にままならないと思った。

◇◇◇

社交期の煌びやかな催しはめくるめく過ぎていった。

初めての舞踏会は、あまりにも華やかで目がくらみそうだった。

リーゼロッテはモテモテで、私は侯爵様の背後に隠れていたので声をかけられることもなく。

ザラさんは謹慎期間中だったので、参加できなかったようだ。親衛隊の正装姿、見たかったのにな。まあ、来年の楽しみが一つ増えたということで。

翌日、出勤するとみんなが居た堪れないような視線を私に向けていた。

「あれ、みなさん、どうかしたのですか?」

「よう、リスリス衛生兵!」

「んん?」

第二部隊では聞きなれない声がしたので、恐る恐る振り返る。

そこにいたのは銀色の髪を一つにまとめ、尖った耳に整った顔立ちを持つ青年──騎士隊の制服に身を包んだランスだった。

ザラさんとリーゼロッテが抜けたあとの新しい人員は、魔法兵であるランスだったのだ。

私は反射的に叫んでしまった。

「どうしてこうなった!!」

私の嘆きに、アメリアが『クエ~~~~……』と間の抜けた鳴き声を返してくれた。