作品タイトル不明
メル、社交界デビュー!? その八
数秒、時が止まっていたような気がする。
私が、ザラさんと結婚したいって!?
「いやいや、私みたいなちんちくりん、ザラさんとつり合わないですよ」
「え?」
「え?」
リーゼロッテとしばし見つめ合う。
「あの、リーゼロッテ、なんのえ? ですか?」
「メル、あなた、ザラ・アートにまだ結婚を申し込まれていないの?」
「え、なんでザラさんが私に結婚を申し込むんですか?」
「……」
リーゼロッテは眉間に皺を寄せ、目を凝らしながら私を見る。
「あの、リーゼロッテ、顔が、怖いです」
「怖くもなるわよ。メル、あのね、気づいていないようだから言わせてもらうけれど──ザラ・アートはあなたと結婚するために、貴族に養子入りして、王太子の親衛隊に異動を決意したのよ?」
「ええ!? まさか!!」
「わたくしが、嘘を言うと思って?」
「いいえ、思いません」
え……そんな……まさか、ザラさんが私と結婚するために行動を起こしたなんて。
信じられないような事態だが、リーゼロッテが冗談や嘘を言うわけがない。
ということは、つまり、そういうことなのだろう。
「え、ええ~~!!」
リーゼロッテは私の鈍さに、盛大な溜息を吐いていた。
今まで、まったく気づいていなかった。
「ねえ、メル。ザラ・アートは、何か、特別な言葉を言ったのではなくて?」
「特別な言葉?」
しばし、記憶を甦らせてみる。
「う~~~ん………………あ!!」
ザラさんは、私に言った。
──だったら、私の導きの星に、なってくれる?
「ありました」
「なんて言ったの?」
「導きの星に、なってほしいって」
「メルは、それを相談役か何かだと思ったと?」
「はい」
「それ、プロポーズだから」
「で、ですかね」
本当にびっくりした。
ザラさんが、私との結婚を決意してくれたなんて。
「メルがうちに養子入りしたでしょう? それで、身分が釣り合うように英断したのだと思うわ」
「気づかなかった自分が、恥ずかしいです」
なんだろう。照れと羞恥と喜びと、いろんな気持ちが錯綜している。
今度、ザラさんと話をしなければ。
それまで、心の奥底にしまっておくことにした。
◇◇◇
リヒテンベルガー侯爵家に到着する。相変わらずの豪邸だ。
今日はアメリアとステラ、エスメラルダがやってくるからか、迎えに並ぶ使用人の人数が多いような。
「──来たか」
なんと、侯爵様まで来ていた。
そういえば、エスメラルダと会わせるのは久々だ。きちんと紹介もしていなかったような。
以前、エスメラルダと顔合わせをした侯爵様は、鼻血を噴きながら気を失ったのだ。
失神してしまうほど、エスメラルダが可愛かったのだろうか。
「エスメラルダ、あそこの紳士が、幻獣保護局の局長、リヒテンベルガー侯爵ですよ」
『……』
無視だ。
お嬢様を通り越して女王様幻獣なエスメラルダに、挨拶をしろというのは難しいのかもしれない。
ちらりと侯爵様を見ると、満ち足りている表情をしていた──。どうやら、エスメラルダを見ただけで満足したようだ。
気分を害したのではないかとドキドキしていたけれど、問題ないようでホッとした。
そのまま、侯爵家の居間に案内される。
心なしか、前を歩く侯爵様の足取りは軽かった。
居間にはテーブルいっぱいのお菓子と果物が用意されていた。
貴族の家でよく出されるマカロンやメレンゲ焼きに、シュークリーム、他に、初めて見るお菓子もあった。
あつあつの紅茶も用意される。侍女さんがどれを食べるか尋ねてきたので、指差ししてお皿に取ってもらった。
「むふふ……」
「メル、よかったわね」
「はい!」
アメリアとステラにも、侍女さんが付いていて果物を手渡しで食べさせてもらっていた。
エスメラルダはお腹は空いていないようで、籠の中で丸くなって眠っている。一応、果物を食べるか聞いたが、ふるふると首を振っていた。
「メル・リスリスよ、最近、どうだ?」
「む?」
口に焼き菓子を頬張っている時に、侯爵様より質問された。
紅茶で流し込み、ゴホンと一回咳ばらいをしてから言葉を返す。
「えっと、はい。頑張っています」
「そうか。困ったことがあれば、なんでも相談するといい」
「あ、はい」
侯爵様は最強の相談役な気がする。国王とも喧嘩したくらいなので、怖いものなしなのだろう。
シエル様といい、侯爵様といい、私の周囲にいる人はすごい人物ばかりだ。
ここで、本題へと移る。幻獣パーティーについてだ。
「具体的に、どんなことをするのですか? 貴族の礼儀を知らない私が、参加してもいいのでしょうか」
「まあ、幻獣を伴って参加し、自慢話をするだけの催しだ。そこまで、気負うこともない」
「あの、鷹獅子や黒銀狼もくるのですか?」
お見合い話がどうたらと言っていたので、心の準備が必要だ。
「いや、鷹獅子も黒銀狼も、国内に契約者はいない」
「そ、そうなのですね」
「どちらも、なかなか人と心を通わすのは難しい幻獣だと言われている。鷹獅子は保護区にはいるが、契約しているわけではない」
「なるほど」
アメリアとステラは心優しい乙女だ。すぐに仲良くなれたので、私はツイているのかもしれない。
超絶希少な魔石獣であるエスメラルダは、おそらく見合いどころの話ではないだろう。
世界を探しても、番がいるかどうか。
それを思ったら、もっと優しくしてあげようと思った。いや、十分優しくしているけれど。
「ここからが相談なのだが、パーティーのホストの娘として、リーゼロッテと共に参加者に何かおもてなしをしてほしい」
「お、おもてなし、ですか」