軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大森林にて その一

朝から届いた任務は、いつもと違ったものだった。

隊長は険しい表情を浮かべ、ベルリー副隊長は眉尻を下げて困惑している。

いったい、どんな任務内容なのか。戦々恐々としてしまう。

「今回の任務は──シエル・アイスコレッタ殿を交えて行うように言われた」

「え!?」

騎士隊に所属していないシエル様も一緒に行くとは、いったいどんな任務なのだろうか。

隊長は一度頭を掻きむしり、どうしてこうなったのだと言わんばかりの苦悶の表情となる。

そして、騎士隊から届けられた命令書を私達に向けながら言った。

「今回命じられたのは──我が国の南西部にあるらしい、『大森林』の『世界樹』の様子を見に行く任務だ」

「だい、しんりんのせかいじゅ……?」

思わず、復唱してしまう。

大森林というのはアレだ。絵本で見たことがある。

精霊や妖精、幻獣にエルフ、ドワーフ、獣人などが棲む、夢のように美しくも残酷な森。

その中に、世界の礎となる世界樹が生えていると書かれていたような。

「隊長、大森林って、創作上のものですよね!?」

「お前がそれを言うな。エルフも、創作上の生き物だと思っていたぞ」

「そ、そうだったんですね」

この任務は、シエル様が国王に報告した「世界樹から発する魔力の流れに異変を感じる」という発言がきっかけだったらしい。

「深夜、アイスコレッタ閣下が国王陛下の枕元に突然現れて、報告したらしい」

深夜に全身鎧のシエル様が現れるとか、かなりホラーなできごとだろう。

思わず、同情してしまう。

しかし、それだけ緊急を要するものだったのかもしれない。

「アイスコレッタ閣下は一人で向かうと言っていたが、国王は待ったをかけた」

自国領で起こっているものなので、シエル様だけを行かせるわけにはいかないのだろう。

「そこで、俺達第二遠征部隊に声がかかったのだが──」

ここで隊長は言葉を切り、苦虫を嚙み潰したような表情となった。

「大森林と呼ばれる森は、強力な魔物が出現し、冒険者の中では『帰らずの森』と呼ばれている」

つまり、一度入ったら二度と出てくることができないことを暗に言っているのだろう。

今までにないくらい、危険な遠征先なのだろう。

隊長とベルリー副隊長が険しい表情を浮かべていた理由が判明する。

「ただ、今回はアイスコレッタ閣下が同行する。閣下は、転移魔法を使えるので、帰れないということはないだろう」

しかし、いくらシエル様がいても、命を脅かすほどの危険な森であることに変りはない。

「急で悪いが、昼過ぎには出発する。食料などは、騎士隊が用意したので、それを持って行くように」

騎士隊の美味しくない携帯食ではなく、日持ちする食料を用意してくれたようだ。

無限大の収納能力がある妖精ニクスがいることを知っているので、いろいろと配慮してくれたらしい。

「総員、準備を整え、正午に集合してくれ」

皆、了解と敬礼し、解散する。

まず私は、幻獣アメリア、ステラ、エスメラルダの三姉妹に確認する。

「このあと任務に出かけますが、どうしますか?」

危険な場所なので、無理についてこなくてもいいだろう。

『クエクエ!』

『クウ!』

アメリアとステラは、同行すると言っている。私を守りたいと。

「あ、ありがとうございます。とても、心強いです」

一方、エスメラルダは耳をぴょこぴょこ動かしながら言った。

『キュ、キュキュウ』

遠征に行っても、手伝えることは何もないし、忘れ去られたら困るので待っていると。

「あ、でも、食事は……?」

エスメラルダは基本、私が作った物しか食べない。

『キュ、キュウ』

「あ、そうですか。わかりました」

曰く、果物は誰かが剥いてくれたら食べなくもない、と。

なんというお嬢様!

でも、他の人が剥いた果物でも食べてくれるという。幻獣保護局の人達が、喜んで剥いてくれるだろう。

エスメラルダも変わろうとしてくれているようだ。

「わかりました。では、エスメラルダはいい子にしていてくださいね」

『キュッ!』

アメリアとステラは遠征に持って行く果物を選びに行った。

エスメラルダは天鵞絨が敷かれた籠に入り、丸くなる。

その籠は、果物を持ってきた幻獣保護局の方に託された。

何やらキュウキュウ文句を言っているけれど、上手くやってほしい。

『フンフンフンフ~~ン♪』

鼻歌を歌いながら、唐草模様の布に木の実やクッキー、飴などを包んでいるのは、アルブムだった。

「あれ、アルブム。今回はついて来るのですか?」

『ウン。大森林ハ、オイシイ食材ノ宝庫ダカラネ!』

「詳しいのですか?」

『マア、チョットダケネ』

食べ物目的であることは置いておいて、大森林を知っているのならば心強い。

「大森林はいつもの遠征先とは違います。食べ物ばかりに気を取られていたら、大変なことになりますからね」

『パンケーキノ娘モネ!』

「まあ……そうですね」

アルブムの言う通り、私も食材に気を取られていろいろ失敗している。

しっかり警戒して、進まなければならない。

その後、着替えなどを用意し、騎士隊が用意した食材をニクスの中に詰めなければならない。

用意されていたのは──。

「な、生ハム!?」

豪勢に、原木ごと置いてあった。それから、ベーコンの塊に、魚の燻製、半生の干し肉、魚卵の塩漬け、ふわふわの白パンと、ハードな黒パンと、普段はお目にかかれないような高級食材がこれでもかと置かれていた。

「これは国王が命じて用意させたものらしい」

「!?」

高級食材を前に呆然としていたら、背後から隊長が声をかけてくる。

なんと、これらの食材は国王陛下から提供された物のようだ。

「アイスコレッタ閣下がいるからだろう。下手なものを食べさせるわけにはいかないと」

「な、なるほど」

そんな国の最重要人物に、その辺に自生している葉っぱを食べさせていた私はいったい……。

震える手で、高級食材をニクスに詰めていった。

そして正午すぎ──シエル様が転移魔法で現れた。

「待たせたな!」

肩にコメルヴを乗せ、アリタに跨った全身鎧姿のシエル様は、肖像画に描かれるような勇ましい英雄みたいに見えた。

いや、本当の大英雄なんだけれど。