軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エスメラルダの怒り その九(終)

やっとのことで、旧エヴァハルト邸に戻ってきた。

私達を照らす夕陽が眩しい。

ザラさんは武器の手入れをすると言って、物置小屋のほうへと向かった。アリタはシエル様を探しに行く。

ステラは迎えに来てくれた侍女さんと共に、お風呂に入るという。

私はなんとなく、庭のほうへと足を運んだ。

『ア、パンケーキノ娘ジャン!』

手足が泥だらけなアルブムが、ニンジンを両脇に抱えた姿でやってくる。

『氷凍果、アッタ?』

「ええ、見つかりましたよ」

『ヨカッタネ!』

「まあ、そうですね」

同行してくれたみんなに多大な迷惑をかけてしまったけれど、なんとか氷凍果を手に入れることができた。

「アルブムは何をしているのですか?」

『鎧ノオジイチャンノ、オ手伝イダヨ。今晩、 野外料理(バーベキュー) ヲスルンダッテ!』

「へえ、楽しそうですね」

普段の遠征で食べる料理と何が違うのかと聞かれたら困るけれど。

何はともあれ、外で食べる食事は美味しいのだ。

『クエクエ~~!』

アメリアもやってくる。前足で掴んだ籠の中に、果物がたくさん入っていた。

『クエクエ、クエクエ!』

「へえ、そうなんですね!」

今日はみんなが揃っているので、エスメラルダとアリタの歓迎会をしようという話になっているのだとか。

噴水広場のほうで、何やら煙がもくもく立ち上っていた。あそこが会場らしい。

「じゃあ、私はエスメラルダを呼んできますね」

『クエ!』

『ウン!』

ここで、アメリア、アルブムと別れた。

エスメラルダは果たして、素直に参加してくれるのか。ドキドキだ。

部屋に戻ると、エスメラルダは朝とまったく同じ場所で丸まっていた。

「エスメラルダ、ただいま帰りました」

『キュ……』

一応、返事はしてくれた。もしかしたら、向こうも許すタイミングを探っている状況なのかもしれない。

そろそろと近寄り、エスメラルダの前に座る。

「エスメラルダ、ごめんなさい。あなたを忘れるなんて、最低最悪なことでした。もう二度と、忘れないので……どうか、私を許してください」

『キュウ……』

「反省しています」

『……』

頭を下げると、エスメラルダは私の手の甲をペロリと舐める。許してくれたのか。

『キュキュ、キュウ!』

「あ、ありがとうございます」

エスメラルダは「しようがないから、ゆるしてあげるわ!」と言ってくれた。

怒りは収まったようで、ホッ。

エスメラルダを抱き上げ、膝の上に置く。

美しい毛並みを撫でさせてくれた。

「今日、エスメラルダのために、果物を採ってきたんです」

妖精鞄ニクスの中から、氷凍果を取り出す。

「幻の果物、氷凍果です」

虹色に輝く果物は、甘~い匂いを漂わせていた。

その匂いにつられ、エスメラルダは振り返る。

氷凍果を差し出すと、くんくんとかいでいた。

ペロリと舐めると、目が宝石のようにキラキラと輝く。相当、美味しいようだ。

しかし、噛みつこうとしたが、固くて歯が立たなかったようだ。

『キュッフ!!』

「そのまま齧るのは、難しいみたいですね」

アリタが言っていたように、ナイフで削ぎながら食べるしかないのか。

ここで、扉が叩かれる。

「メル、歓迎会の支度が整ったそうよ」

「あ、は~い!」

いつの間にか帰宅していたリーゼロッテが、歓迎会の開始を知らせてくれた。

「エスメラルダ、あなたとアリタの歓迎会ですよ」

『キュウ!』

参加してくれるようだ。機嫌は完全に直ったようで、心からホッとする。

◇◇◇

「皆の者、果物も菓子も肉も、無限にある!! どんどん食べるがよい!!」

全身鎧姿に三角巾、割烹着を纏ったシエル様が叫ぶ。

噴水広場には、ごちそうが用意されていた。

山のように盛り付けられた果物に、侍女さんが野外で焼く巨大パンケーキ、串に刺さった肉もどんどん焼かれている。

エスメラルダとアリタのために、シエル様が中心になって準備してくれたようだ。

『パンケーキ、ウマ~~!!』

アルブムは幸せそうに、パンケーキを頬張っていた。

『パンケーキ、オイシ~~!!』

アリタも同様に、パンケーキを食べている。

並んで食べる姿は、とても幸せそうだ。

ステラは今日一日のできごとを、アメリアに語りながら果物を食べている。

その傍らで、リーゼロッテは嬉しそうに話を聞いていた。

「メルちゃん、これ」

ザラさんがお肉の串焼きを持ってきてくれた。脂がぽたぽたと滴っていて、とってもおいしそうだ。

「あ、ありがとうございます。と、その前に──エスメラルダ、今から氷凍果を削りますね」

『キュキュウ』

「え!?」

驚いた。なんと、エスメラルダは私が食事を食べ終えてからでいいという。

「なんて、いい子なのでしょう!」

『キュ、キュウ~~』

抱きしめたら、「苦しいから!」と前足で押し返されてしまう。

まだツンツンな面もあるようだ。

「リスリスよ、その果物が氷凍果か?」

「はい。これ、氷のように硬いんです」

「なるほどな。貸してみよ」

シエル様は氷凍果を皿の中に入れた。

氷凍果を指差して、いったい何をするのかと思いきや──。

「ふん!!!!」

シエル様が気合いのかけ声をかけた瞬間、氷凍果は粉々になった。

「わっ、すごっ……」

皿の中で、氷凍果はかき氷のような状態になっている。

虹色なのは変わらず、一粒一粒がダイヤモンドのようにキラキラと輝いていた。

アリタ曰く、シロップをかけずとも、美味しくいただけるらしい。

それにしても、綺麗に砕けている。さすが、シエル様だ。

「シエル様、これはどうやって粉々にしたのですか?」

「軽く、衝撃波を与えたのだ」

「そ、そうだったのですね。ありがとうございます」

砕いた氷凍果を、エスメラルダに与えた。

「どうぞ、エスメラルダ」

『キュウ』

エスメラルダは恐る恐る近づき、くんくんと匂いをかいでいる。

噛んだ時硬かったからか、警戒しているようだ。

『魔石獣、アルブムチャンガ、味見シテアゲヨウカ?』

『キュッフ!!』

アルブムに横取りされると思ったのか、エスメラルダは氷凍果のかき氷を食べ始めた。

『キュッフ~~~!!』

エスメラルダの毛がぶわりと膨らみ、長い耳がピンと立った。

『キュ、キュウ……!』

「メルちゃん、エスメラルダはなんて言っているの?」

「世界一、美味しい果物だと」

「本当? 良かったわね」

「はい」

全部で十個採ったので、全員分ある。

シエル様にお願いして、みんなで氷凍果を食べることにした。

「ふん! ふん! ふん! ふん! ふうん!」

シエル様は衝撃波で、氷凍果を一気にかき氷状にしてくれた。

私はみんなに配って回る。

「では、いただきましょうか!」

幻の果物氷凍果。いったいどんな味がするのか──いただきます。

匙で掬って、パクリと食べる。

「むむっ!?」

一口目は甘い! 二口目は甘酸っぱい!

三口目は甘くてシュワシュワ炭酸のように弾ける。

一口一口、味が変わる不思議な果物だ。

「これ、すっごく美味しいです!」

「いろいろな果物の味がするのね。驚いたわ」

シエル様は砕かずに、そのままバリボリ齧っていた。なんというか、強い。

『イタチ君、美味しいねえ』

『ウン、オイシイ!』

アルブムとアリタ、いつの間にか仲良くなっている。

妖精同士、気が合うのかもしれない。

「こんな果物、食べたことないわ」

お嬢様のリーゼロッテでも、初めての味だったようだ。

『クウクウ!』

『クエ~!』

果物が大好物なステラとアメリアにも好評のようだ。

氷凍果はみんなを笑顔にしてくれる、素敵な果物だった。