軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

謎の遺跡 その四

遺跡は冷える。そのため、アルブムを首に巻いておいた。スラちゃんは、首からさげておく。

立ち上がり、部屋の外へ繋がる扉の前に立っただけで、ドッドッドッと鼓動が速くなる。

落ち着け、落ち着けと念じた。

姿消しと気配消しの魔法をアルブムが施してくれたので、きっと大丈夫。

「大丈夫……大丈夫……」

呪文のように「大丈夫」と呟いていたら、アルブムより助言を受けてしまった。

『ア、魔法デ声ハ消セナイカラ、魔物ノ前デハ、話ヲシナイホウガイイカモ』

「わ、分かりました」

誰もいないのに声をあげたら、魔物は不審がるだろう。

それにしても、恐ろしい事態になったものだ。魔物がはびこる遺跡に、隊員の誰もいない状態で進むなんて。

しかし、ここでぼんやりしているわけにもいかないだろう。

「行きましょう」

勇気を振り絞って、私達は一歩を踏み出した。

スラちゃん灯が、通路を明るく照らす。

「──わっ!」

声を出しかけて、口を押さえる。

魔物の気配はないので大丈夫なのだが、念のため声を出さない訓練をしたい。

それにしても、驚いた。扉の向こうは通路になっているのだが、一面真っ白だ。

地面も壁も天井も、白い煉瓦を敷き詰めたようになっている。

『ワア……、パンケーキノ娘ェ、コレ、 甘大蟻(スイーツ・アント) の巣ダヨォ』

「甘大蟻、ですか」

初めて聞く。

甘大蟻とは、地上の草花から砂糖や蜜、バターを作る夢のような妖精族らしい。

『甘大蟻ノ作ル物ハ自然素材で、毒性ハナク、トッテモ、オイシインダッテ!』

「へえ、そうなのですね」

さすが食いしん坊のアルブム。食べ物に関する知識が豊富だ。

『ココニアル白イノ、全部、砂糖ナンダヨ』

「そ、そうなのですね」

言われてみたら、煉瓦と思っていた物体は表面がジョリジョリしている。

舐めてみたら、確かに甘い。

「っていうか美味しい、この砂糖!」

なんだこれ。しつこくなくて、コクのある甘さだ。こんな砂糖、初めてだ。

『甘大蟻ハ、神経質ナ性格デ、砂糖ハ綺麗ナ長方形ヲ作ッテ、コンナフウニ、隙間ナク詰メルンダ』

「へえ~」

ちなみに、警戒心も強いようで、生態についても多くは謎に包まれているらしい。

また、甘大蟻の砂糖、蜜、バターは幻とも呼ばれ、高値で取引されているのだとか。

「そうなのですね。侯爵様の、お土産に一つ持って帰りましょう」

壁にナイフを入れて、甘大蟻の砂糖を引っこ抜く。

けっこう、ずっしりと重い。手巾に包んで、ニクスの中に詰め込んだ。

空いた穴には、お手製のキャラメルと飴を入れておく。

「これでよしっと」

『……』

「何です?」

アルブムが不思議そうな顔で、私を見上げていた。

「あ、アルブムの分も、欲しいってことですか?」

『イヤ、ソウジャナクッテ。ア、アルブムチャンモ、欲シイケレド』

「そうじゃないとは?」

『パンケーキノ娘ッテ、欲ガ、ナイナト』

「欲だらけですよ」

だって、休みの日はゴロゴロしたいし、お店に行ったらほしいものがたくさんある。

給料だって使いきれないほど欲しいし、美味しい物はめいっぱい食べたい。

『アノネ、普通、価値ノアル物ヲ見ツケタラ、商売シヨウトカ、独リ占メシヨウトカ、ソウイウコトヲ、考エルンダヨ』

「あ、確かに、そうですね」

ここにある砂糖を売ったら、巨万の富を得ることができるだろう。

「でも、これは甘大蟻が一生懸命集めた砂糖ですし、たくさん持って帰るのはよくないことですよ」

『ウン、ソウダネ。パンケーキノ娘ハ、偉イ!』

「普通ですよ」

そんなことを話していると、遠くからひたひたという足音と、何かの気配が聞こえた。

やってきたのは、体長二メトルほどの大きな白い蟻。口に砂糖の塊のような物を銜えている。

一見して、魔物のように思えるが、れっきとした妖精族らしい。

私は口に手を当て、息を殺した。

ドキドキと、緊張で胸が高鳴る。

前を通る瞬間は、生きた心地がしない。魔物ではないので、襲われることはないと思う。だが、すべての妖精が、アルブムのようにおまぬけで気性が穏やかなわけではないのだ。

甘大蟻はあろうことか、私達のすぐ目の前で立ち止まる。

ヒイ!! と声を上げそうになるが、必死に声を押し殺した。

首を傾げ、じっと私達を見ている──ような気がした。

もしかして、バレてる?

アルブムに聞くわけにもいかず、ただ、冷や汗をだらだら流すばかり。

ここで、甘大蟻の前足が私のほうへと伸びてくる。

すぐそばを、甘大蟻の手が通過していった。

私達のことは見えていないようだけれど、怖すぎる。

恐怖で、涙も出てきた。

甘大蟻の手は、壁に詰めたキャラメルのほうへ伸びる。器用にキャラメルを摘まむと、口元へ持っていった。

丁寧に紙の包装を剥いで、パクリと食べる。

『何これ、メッチャうまっ!!』

……喋った。甘大蟻が、喋った。

妖精は人語を話せるので不思議ではないが、魔物のような姿をしている甘大蟻が人の言葉を喋ることに違和感を覚えてしまった。

甘大蟻はもう一度、手を伸ばしてキャラメルを摘まむ。

私の頬のすぐ横を甘大蟻の手が通過していったが、想定外の問題が発生する。

『ンン、なんだ、このモフモフは?』

甘大蟻の手が、アルブムに触れてしまったようだ。

大ピンチである!