軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミル、家出をしてきた件について

「え、家出って、ちょっ……」

頭の中が真っ白になる。こんな話を聞いてしまったら、帰って料理を作るどころではないだろう。

ザラさんの以前勤めていた食堂に行って、詳しい話を聞くことになった。

あそこには個室があるので、人見知りのステラも安心だ。

「ミル、今日は外食にするから」

「え、なんで?」

「事情聴取をしなきゃいけないから」

嫌だと抵抗するミルを連行するように、食堂へと連れ込んだ。

◇◇◇

食堂名物の挽き肉パイを堪能し、食後の甘味であるバターケーキを平らげたあと、本題へと移る。

「――で、ミル、家出して来たって、どういうこと?」

「うん……」

今まで嬉しそうに料理を食べていたミルの表情が曇る。

もしも、王都に家族がやって来たら、おいしい食事を奢って、市場や商店街でお買い物をして、街案内をしたかった。

ミルも、ただ観光に来ただけなら良かったのに、そうではなかったようだ。

「お父さんとお母さんは、ここに来たって知っているの?」

コクンとミルは頷いた。私の所に行くと言ったのかと訊くと、さらに頷く。

「誰かと喧嘩をしたとか?」

「違う」

「家の仕事が嫌になった?」

「違う」

「だったら――」

なんだろう?

ミルは兄妹の中でも一番責任感が強くて、真面目な子だ。

魔法への情熱も人一倍で、祈祷祭の巫女役を務めたり、森の結界造りをしたりなどフォレ・エルフの村への功績も人一倍だったのに。いったい、何があったのか。

「村の、秘密を知ってしまったの」

「それは……」

その言葉を聞いた途端、胸がドクンと高鳴る。

以前ザラさんと話した魔力の高い者を生贄にする話を思い出してしまった。

結局、医術師の先生から話を聞けたわけではなかった。手紙の返事には曖昧な情報しか書かれていなかったのだ。

ミルはなかなか話そうとしないので、こちらから先手を打った。

「ミル、村の秘密って、もしかして、魔力が高い者を森の大精霊の生贄にするとか、そんな感じの話だったりする?」

「お姉ちゃん、なんで知っているの――あ!」

ミルは両手で口元を覆う。どうやら、正解だったらしい。

しばし、沈黙の時間を過ごす。ミルは唇を噛みしめ、俯いていた。

「まさか、ミルが生贄にされそうになったとか?」

「違う。森の奥にあった石板を見つけて、そこに古代語で書いてあったから……」

森の奥地には大精霊の祠がある。ミルはそこの掃除をしていたらしい。その際に、隠されるように置かれていた石板を発見してしまったようだ。

「石板には、たくさんの人の名前が刻まれていて――」

百年に一度、森の大精霊に生贄が捧げられていた。

村にある秘められし因習だろう。

「前に捧げられたのは五十年前。だから、私がお婆ちゃんになった時、生贄を決めなきゃいけないみたい」

生贄は二十歳に満たない、魔力の高い女性が選ばれるらしい。

もしも、自分の孫娘を捧げることになったら、どうすればいいのかと、ミルは思ったようだ。

「今まで捧げられた女性の名前が石板に刻まれていたんだけど、リスリス家の名前がいくつもあって……」

うちの家は高い魔力を受け継ぐ一族だったらしい。石板の中でもっとも多いのが、リスリスの家名だったとか。

「なんか、そういう生贄として捧げるために、高い魔力の者同士で結婚して、血を守ってって、そういうことをみんなに隠してしていることが、怖くなって……。あ、いや、生贄について公表していても嫌だけど。このまま、お父さんが決めた人と結婚しても、一族の誰かが大精霊の生贄になるって思ったら、怖くて」

両親には、私のもとで勉強したいと主張したらしい。もちろん反対されたので、家出するように出てきたんだとか。

「私、村に帰りたくない。結婚も、ルーイにできないって、言ってきたから」

ルーイというのはミルの婚約者だ。二人の仲は良好には見えなかったけれど、将来は村を盛り立ててくれるんだろうなとか、そんなことを考えていたのに。

「これから、どうするの?」

「私も騎士をしたい!」

「それはダメ」

「なんで!?」

「だって、騎士って辛いんだよ? 魔物と戦って、危険な目にたくさん遭って、死ぬかもしれないのに」

「私は回復魔法が使える。きっと、役に立つから」

たしかに、騎士隊では魔法の遣い手は引く手数多だろう。でも、第二部隊のみんなみたいに優しい人ばかりがいる部隊に配属されるとも限らない。

「一緒の部隊だったらまだしも――」

「隊長さんが推薦状を書いてくれるって」

「え?」

「あのね、回復魔法使えるよって言ったら、第二部隊に入れるように、してくれるってルードティンクの隊長さんが言っていたの」

「な、何それ?」

どうやら、騎士隊には推薦制度というものがあるらしい。

人手不足を解消するための制度で、隊長格の推薦があったら、入隊試験を受けずにそのままその部隊へ入隊することができるのだとか。

「ミル、本気?」

「本気だよ。今日、騎士隊を見学して、ここで働きたいって思ったの」

正直、大反対をしたい。騎士なんて危ないし、楽な仕事じゃない。

でも、正直に言ったら、第二部隊に回復魔法が使えるミルがいるのはありがたい話だ。

でもでも、回復魔法は私が習得すればいい話で。

でもでもでも、回復魔法はすぐに使えるわけではない。修業が必要だ。

「うう~~!」

「お姉ちゃん、私、初めて自分でしたいことを見つけたの」

「遠征って、キツイんだよ?」

「だったら、入隊試験をすればいいから」

もしも、遠征について行き、役に立ったら採用。

難しいようであったら、ミルは諦める。

「ミルは、一度決めたことは曲げないんだろうね」

「うん、たぶんそうだと思う」

頭を抱え込んだ。どうして、安易な気持ちでミルを騎士隊へ連れて行ってしまったのかと、後悔してしまう。

「そうだ。お姉ちゃんの魔力! あれ、どうしたの?」

「ああ、なんか、他の人より多いみたいで」

「嘘だあ」

突然ミルは目を窄める。何か、魔眼で視ているのだろうか?

「あ!」

「な、何!?」

ミルはガタリと立ち上がって、私をじっと覗き込む。何か分かったのだろうか。

「お姉ちゃんの魔力に、強力な結界が張って封印されている。たぶんだけど、結界があるから、魔法とか使えないと思う」

「な、なんだって!?」

いったい誰が――って、医術師の先生しかいない。

でも、どうして結界を張っていたのか。

「魔力が高すぎるから、お姉ちゃんに魔法を使わせないためか」

「な、なんで?」

「高すぎる魔力の保有者は、魔法を暴走させがちなんだよ。だから、結界を張って封じていたんじゃないかな」

「う~む」

なるほど。医術師の先生がそこまでしてくれていたなんて。

「ということは、魔法を習っても、使えないということ?」

「そうだね」

思わず「うが~~!」と叫んでしまった。

せっかく、みんなの役に立てるかと思ったのに。

「でも、見ての通り条件付き、なのかな? 幻獣の契約とかには魔力は使えるから、どんどん契約したら?」

「それは……」

アメリアとステラだけでも結構な圧迫感というか、大所帯になっているから、これ以上幻獣を増やすのはちょっと。

「小さな幻獣は? 山猫とか?」

「山猫は大型犬よりも大きいから」

「わ~、そうなんだ」

ザラさんが契約している旨を伝えたら、見たいと言い出す。

「あ、そういえば、下宿しているエヴァハルト邸にも山猫はいるよ」

「やった~」

「でも、お屋敷の奥様と契約している子だから、会えるかどうかは分からないけれど」

「そっか~」

その前に、ミルを泊める許可をくれるかどうかが……。

「って、そろそろ帰らなきゃですね」

会計を済ませ、店を出る。

王都から出たらミルはアメリアに跨り、私はステラに乗った。

帰宅後、執事さんにミルについて聞いてみたら、問題ないとのこと。奥様への話も、代わりに通してくれると言ってくれた。とりあえず、ホッ。

二人でお風呂に入り、一日の疲れと汚れを洗い流す。

大理石の浴室はその昔、伯爵家の人達が使っていた所なので広い。

ミルは獅子型の幻獣の口から湯が出るところを、飽きもせずに嬉しそうに眺めていた。

「ふ~~、幸せ~~」

湯に浸かったミルは、蕩けそうな笑顔で言う。

旅をする中で、大衆浴場などもあったが、なんとなく怖くて行けなかったらしい。

「大きなお風呂ってどんなものかと思っていたけれど、いいねえ~~」

しみじみと、呟いていた。