軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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風呂から上がり部屋に戻ると、すでにナクルがいた。蔦絵がいないので聞いてみると、もうすぐ風呂から上がってくるだろうとのこと。

するとナクルが持っているスマホが鳴ったと思ったら、友人からの着信だったようで、楽しそうにやり取りし始めた。こちらをチラチラとナクルが見てくる。

もしかしたら女子同士の話を聞かれるのが恥ずかしいのかと察し、ちょうどトキナに聞きたいことがあったので、少しの間だけ彼女を探しに出かけることにした。

(まあすぐに帰ってきたらいいか。それにさっきの話の続きも気になるし)

日ノ部家と籠屋家の繋がりがもっと知りたくなったのだ。特に没落したはずの籠屋家がどうやって今まで生き残ってきて、それでどのようにして日ノ部家と縁を結んだのか。これも中途半端に大悟が話を終えたから好奇心が疼いて仕方ない。

籠屋家当主らしいトキナならば、もっと詳しいことを聞くことができるかもしれない。

(なーんか、子供に戻ってから好奇心が強くなった気がするんだよなぁ)

これも子供ゆえのものか、はたまた沖長自身にそもそも備わっていたものなのか。前世ではあまり他人に対して興味を抱くなんてことはなかった。そんなことをしてもメリットがあると思えなかったからだ。

しかしよく考えれば、それはただ他人に気を回せるほどの余裕ある生活ができていなかったとも言えるかもしれない。目標も夢もないただ平坦な毎日を作業のようにこなしていたから。

だが嬉しいことに、今世では日々充実した生活を送れていると思う。授業は退屈ではあるものの、他人とのコミュニケーションを励んだり、目一杯身体を動かせることも心を豊かにする一助になっている。

そして一番はやはりナクルとの出会いだろう。彼女と一緒にいることで本当に毎日が楽しくて新鮮だ。それまで知らなかったことをどんどん知ることができ、それのお蔭でもっと多くのことを知りたいという欲求が育ったのかもしれない。

(う~ん、女将さんいないなぁ。厨房の方に行ってみるか)

玄関辺りにはいなかったので、食事を作っている可能性が高いと踏んで厨房の方へ向かうことにしたが、その時、ポケットの中から振動を感じる。

つい一年ほど前に父に与えてもらったスマホだ。今の時代、小学生一年生でも所持しているが、沖長もようやく一年前に買ってもらえたのである。

「ん? 羽竹からメッセージ?」

メッセージアプリに長門から連絡が入っていた。彼とはいつでも連絡が取れるようにしている。ただ友人というわけでもないので頻繁にやり取りをしているわけではない。そのほとんどは原作についての話だ。たまに長門が推しのリリミアについて長々と語ってくることがあるが、あれは本当に止めて欲しい。

メッセージに目を通すと、そこにはこう書かれていた。

『そろそろ原作におけるファーストイベントが起きる頃合いだが、そっちはどうだい?』

ナクルには興味が無いと言いつつも、どうやら彼も原作の始まりに関しては無視することはできないらしい。

今はまだ何も起きていないと返事をしようとした矢先のことだ。

――パキ……。

ほんの僅かな音ではあったが、乾いた音を捉えたような気がした。てっきり気のせいかと思ったが、それと同時に一気に気温が下がったみたいに寒気が走る。

――パキ……パキキ……。

「また変な音が……」

それはまるで凍った水溜まりの上を歩いているかのような……。

そしてどんどんその音が大きくなっていき、沖長も何となくだが嫌な予感がしたせいか、自然とその足はナクルがいるであろう部屋へと向かっていた。

「――ナクル!」

部屋に入ると同時に叫ぶ沖長だったが、目の前の光景を見て息を呑む。

何故ならそこにいたはずのナクルや蔦絵の姿はなく、その代わりに――。

「この亀裂は……っ!?」

部屋の中央付近。その空間を破るようにして大きな亀裂が走っていて、亀裂のその奥には禍々しささえ感じる黒紫色の空間が見えた。

「そっか、これが羽竹の言ってた……! じゃあもうナクルが中に!?」

この亀裂こそ、長門から聞かされていた原作の始まり。

(良かった、俺の身体は〝ココ〟でも動いてくれるみたいだ! ――よし、行くか!)

決断した後の沖長の行動は早かった。一切の躊躇をせずに、亀裂から覗く謎の空間へと飛び込んだのである。

そして意識下において数秒後、目の前に広がった光景にまたも絶句してしまう。

そこはおよそ人間が住む世界とは思えないほどの空間が存在していたからだ。

大地は赤黒く焼けたような色をしており、空全体は夕焼けよりもなお赤く、月のごとくこちらを見下ろす形で真っ黒な球体が浮かんでいる。

また周囲には大小様々な岩が点在しており、まさしく荒野といった感じだ。

ただ驚きに気を取られているわけにはいかない。原作通りならば、ここにはナクルがいるはずなのだから。

そして恐らくあの人も――。

「おーい、ナクルーッ!」

沖長は走り回りながら彼女の名を全力で叫ぶ。すると岩の向こうに影を確認することができた。ナクルかと思いホッとしながら近づこうとする――が、そこに現れたのはナクルではなかった。

「!? コ、コイツは……っ!?」

全身が紫色で染め上がり、体長は一メートルほどの蜘蛛のような全体像。それに比べてバランスが悪いと思えるほどの巨大で細長い頭部を持つ不気味な存在。生物かすら分からないその姿を見て、沖長はハッとしつつも身構える。

「この見た目、コイツが――〝妖魔〟ってやつか」

これも長門から聞いていた説明と一致する。

その名を妖魔と呼び、〝この世界〟に蔓延る存在である。

それでも初めて見る相手のその奇妙さに、覚悟はしていたものの若干気圧されてしまう。

それもそのはずだ。こういう存在が今後目の前に現れると聞かされていたとはいえ、実際にファンタジーにしか存在し得ない生物が目前に出現したら誰だって引いてしまうだろう。普通なら腰を抜かすか逃げ出すか、その選択をする者が多いはず。

しかしここで逃げ出すわけには当然いかない。沖長には守りたいものがあるのだから。

すると妖魔が、沖長に向かって飛びついてきた。合計で十本ある鋭い足のうち一本を鎌のように振ってくる。

もちろんそのまま攻撃を受けるようなことはせずに、後ろへ飛んで距離を取ると同時に、懐から取り出した千本を投げつけた。

――グサッ!

「キィアァァァッ!?」

耳障りにも思える甲高い鳴き声を上げ、今度は地面を這うようにして突っ込んでくる。その動きはどことなくゴキブリに見えて物凄く不快だが、こちらの攻撃もまた通った事実に心強さを感じた。

(けど致命傷には程遠いか)

そもそも千本は一撃の威力は低い。それこそ急所でも突かないと軽傷から抜け出すことはできないだろう。

それに刺さったといってもそれほど深くもないようだ。これが修一郎や蔦絵なら、貫通させることもできるかもしれないが、今の沖長ではこれが精一杯。