軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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黒幕という言葉を聞いてどんなことを思い浮かべるだろうか。

単純に黒い色の幕という意味ももちろんあるだろう。しかしもちろんここで話題にする意味はそれではない。

いわゆる表には出ない影者のこと。後ろで指示を出したり、謀略を巡らせたりなど暗躍する陰の実力者、あるいは陰に潜む王たる存在。

それはどちらかといえば敵として語られることが多いかもしれない。まあ単純にラスボスや裏ボスといった存在が、それに当てはまることが多いから自然に認識が集まりやすいという結果論ではあるが。

とにかく簡単にいうと、なんかすげーヤバそうな奴ってことだ。

そんな言葉を口にした大悟を見て、思わず「え?」と思考が止まりかけた沖長がいた。

すると大悟が、ぶふっと息を吐き出すと、

「クハハハハハ! ジョーダンだジョーダン! んなわけあるかっての!」

そう言いながら、大きな手で沖長の頭を乱暴に撫でつけてくる。

「じょ、冗談……!?」

「クク、ったりめえだろ? お前くれえのガキは、黒幕って言葉が好きだったりすんだろ? ほれ、アニメとか漫画が好きみてえだしよぉ」

なるほど。どうやらからかわれたようだ。確かに陰の実力者とか裏で糸を引いている人物の存在として語られる黒幕という存在は、どこか興奮を促すパワーワードだ。

単純にカッコイイということもあるが、やはり物語の重厚感を増す強い存在だから。それはアニメや漫画に問わず、どんなジャンルでも心惹かれることは否定できない。

「……俺、大悟さんのこと嫌いになっちゃいそうです……」

「あん? おいおい、ちょっと遊んだだけだろ? んな小せえことばっか言ってると女にモテねえぜ?」

放っといてくれと思い、自然と口を尖らせてしまう。

「ったく、そんな顔すんなっての。悪かったよ。まあ黒幕は言い過ぎたわ。けどよ、あながち完全に嘘ってわけでもねえんだわ、これが」

「…………それがまた嘘ってことは?」

「疑り深え奴だな。ま、俺のせいか」

大悟が湯から上げた右手で髪を上げる。良く見れば態度は悪いし、子供っぽいところもある人だけれど顔立ちは整っている。爽やかなイケメンである修一郎とはベクトルは違うが、間違いなく大悟も整ったルックスだ。

目つきが鋭いので怖い印象を与えるものの、それでも俺様系イケメンというジャンルがあるならば、トップクラスに位置するだろう。

「ふぅ……籠屋家が、昔から国の政治に関わってたのはマジだぜ」

「政治に?」

「今はもうお役御免にはなっちまってるけどな。昔から国のお偉いさんに仕えてきた〝占術師〟なんだよ」

「せんじゅつし?」

「ああ、難しいかぁ? 簡単に言や〝占い師〟だ」

「占い? ……ああ、占術ってそういうこと……! それじゃ、籠屋家って、占いで国を支えてきたんですか?」

「そうみてえだぜ。俺は元々籠屋家じゃねえから詳しいことは知らねえけどな。ただまあ的中率も高かったから、随分と重宝……大事にされたみてえだな」

「……占いかぁ」

「そうバカにしたもんじゃねえぜ。的中率が高いってことは、それはもう未来予知の域に達してるってこった。政治屋にとっちゃ、その力は喉から手が出るほどほしいもんだろうしなぁ」

確か授業でも、テレビなどでも見知った記憶がある。

何でも占いと政治は切っても切れない縁で結ばれてきたと。

それこそ振り返れば、あの邪馬台国の卑弥呼も利用していたというし、日本だけでなく世界中の様々な指導者たちもまた占術を活用し政治を行っていたらしい。

もし占いの結果が違っていたら、世界は今とはまた異なる形、勢力図になっていたと言われるほどに信頼されていたとのこと。

故に優秀な占術師は、国にとっても稀有な存在であり、決してその存在を他国に知られるわけにもいかなかっただろう。何せ中には占術師を拉致するために戦争を仕掛ける権力者もいたと聞いたことがある。

(まあ確かに未来が予知できるなら絶対手に入れたいし、手放したくはないだろうな)

傍にいればまさに無敵状態だ。危機が訪れても、その前に備えることができるし、敵を制圧する時でも存分にその威力を発揮してくれるだろう。

最初、大悟が黒幕と称したが、そう考えれば確かに間違いではないかもしれない。

何せ国自体が、占いに傾倒しているのだ。占術師の占い次第で国の運営が左右される。それは言うなれば占術師が国を牛耳っているということも言えるのではなかろうか。

何故ならやろうと思えば、自分の都合の良いように占いを改竄することだってできるはずだからだ。

それこそまさに裏で糸を引く黒幕そのもの。

籠屋家が、実際にそんな野望のもとに国に携わってきたのかは知らないが。ただ気になったのは、すでに国の運営に関わっていないという話だ。

「でもそんな凄い家だったのに、何で今はお役御免になってるんですか?」

「んぁ? まーアレだアレ。単純に的中率が下がった」

「的中率が下がった? それって……もしかして他家と交わって血が薄まったから、とか?」

「! ……お前、まだ小学生だろ? よくもまあそんな考えが浮かぶもんだなぁ」

確かに小学生らしい見解ではなかったかもしれない。

「まあ、合ってるけどな」

合ってんのかよ……と、思わずツッコミそうになった。

「お前の言った通り、籠屋家は他の家と契って子孫を残した。けどその結果、当然占術師としての血は薄まり力も弱まっちまう。そのせいでほぼ百発百中だった的中率もどんどん下がっていって、最終的に使い物にはならねえってことで、さよ~なら~ってなわけだ」

随分と軽い言い回しだけど、当時の籠屋家にとっては大事だっただろう。何せ国から見放されたわけだから。

「いわゆる没落貴族みてえなもんだ。国のトップだった家が、一瞬にして地に落ちちまった」

「それでよく家が残りましたね」

「まあそこは上手くやったんだろうよ。のらりくらり世の中を渡る術は持ち合わせていたってわけだ……てか、何で俺はガキにこんな話してんだ?」

そこで我に返ったかのように大悟が大げさに溜息を吐いてから立ち上がる。

「話は終わりな。のぼせる前にお前もさっさと上がれよ」

そう言うと、タオルを肩にかけてさっさと風呂場から出て行った。

一人残された沖長は、ぼ~っと天を仰ぐ。

(忍びの家系である日ノ部家。そして国を裏から支えてた籠屋家。どちらも言うなら陰の存在だよな。それでその二つの血を持って生まれたのがナクル……か)

そしてそんなナクルは、この世界でいずれ〝勇者〟になるという。

何やらどこか仕組まれたようなものを感じつつ、大悟に言われたようにのぼせる前に風呂を出た沖長だった。