軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

断章 この世界の片隅で。 ―神に導かれし者達―

「ば、馬鹿なッ!」

「なんて、強さだッ!」

零れ落ちる言葉の数々。 鬱蒼とした森の中。 女性魔導士と盾の戦士。 彼等の努力と献身により、少しの時間を稼いだ隙をついて、魔物との激戦にピリオドを打つ剣闘士は大きく息を吐きつつ、この言葉に応える。

「これ程までに強いのかッ! 辿り着けるのか、魔王の城に」

息が上がり、肩で息している三人に対し、別の場所に於いて独力で脅威を排除していた『忌み子』が言葉を紡ぐ。 当然、妥当、とでも言う様に、そして何よりも楽し気に。 背には大きな荷物を背負いながらも、手には鉄塊に近い巨大な剣を携え、肩で息をする事も無く、死闘を繰り広げていた者達の間に歩を進めていた。 まるで、幼子を見る様な目をしながら、呟く。

「いや、まぁ、こんなモノだろ? 魔王の城が有るのは『魔の森』の中央部。 魔力だって上昇するし、魔物の強さだって増すんだ。 森の中の邑じゃ、このくらいの奴等なら時々出てたんだ。 まぁ、段々と多くなってはいたがな……」

その言葉を女性魔導士が耳にした。 目を大きく見開き、驚愕と共に彼に問う。

「貴様の邑では、あんなのが時々出てただと?」

「あぁ、出てたな。 お前さん達が前線を張っている時、右後方から同程度の奴が迫ってたのは気が付いていなかったのか?」

「なに?」

「狩っといた」

「独力でか?」

「なにか、おかしいのか? 急所を知って居て、行動パターンと、その挙動が判って居れば屠るのは容易いぞ?」

「こいつ等を、それ程にまで知って居るというのか?」

「まぁ…… よく似た奴等は邑の周辺にも出没するからな。 狩らにゃ、こっちが死んじまう」

「……そ、そうか」

「先を急ぐぞ。 血の匂いで、他の奴等が遣って来る。 死骸は残して置けよ。 それを貪るのに時間が掛かるんだ。 こっちに意識が向くのを誤魔化してくれんだ」

「あ、あぁ」

「アッチの奴等にも、そう伝えてくれ。 目的は『魔王城』に到達する事。 狩りの成果を誇る事じゃねぇからな」

「分かった…… そうする」

「薬やポーションは足りているのか? 俺が背負っている荷物の中に、予備は有るんだろ?」

「た、足りている。 に、荷物持ちをして貰って、わ、悪いと思っている」

「別にいいよ。余力のあるやつが担ぐのがセオリーってもんだ。 さぁ、行くぞ」

「わ、わかった」

賢き者として、選出された時は、その誉れに体が熱くなったほど。 自身の魔法に強い自負心を持つ【魔導士】だったが、川筋から離れ、森の中を歩むうちに、その自負心は徐々に、そして確実に削れていった。 誉れと矜持は砂上の楼閣の様に、夢幻の様に揺らぎ、崩れ、こんな場所に来てしまったと云う、悔恨が身を焼く。

それは、なにも彼女だけではない。 彼女と共に選出された、【剣闘士】も【盾の戦士】も同様の感情を抱いている。 自分が立脚する『強さ』が、この深層の森に続く道で、役に立たないと、そう思い始めていたからだ。そんな中で、『忌み子』の戦士だけが、飄々とした表情を浮かべ、何も畏れる事無く歩みを進める様は、彼等にとって恐怖でしかない。

「まぁ、神様の人選だからな。 『聖者の心を持つ者』って言われちまったんだから、仕方ないだろ? お前等の戦い方を見てたら、そりゃ苦労するだろうなって思うよ」

『剣闘士』が不満げに声を荒げる。 彼が進言したように、戦闘の有った場所から出来るだけ早く逃れてはいるが、まだ、『忌み子』への偏見は抜けない。

「何がいけないと云うんだ。 俺達は強いんだ。 そんな俺たちが、死闘を繰り広げる位、この辺りの奴等は強いんだ」

「まぁ、そういう認識なら、そうなんだろうな。 でもさ、なんで、集団戦を仕掛けないんだ? もっと楽に狩れるんじゃないのか?」

「何だと?」

「いやさ、魔導士が足止めして、盾の戦士がタゲ取りしてさ、致命部に剣闘士であるオメェが一撃を入れるってのが、普通だろ? 俺は、お前等の荷物持ちなんだから、戦闘には基本加わらねぇし、別方向から奇襲に備えるってんで、後方に位置してるんだと思ってた。 違うのか?」

「そ、それは……」

「力自慢は好いんだが、これから先の森の中じゃ、個人の力で切り抜ける事は出来ねぇぞ? 魔物魔獣も強くなっていくし、悪賢くなっていく。 生存を賭けて、奴等だって頭を使っているんだし、濃い魔力下での進化がどんなモノかも、知ってるだろ? なら、こっちも頭を使わなきゃな」

「……つまり俺たちは、何も考えず突っ込んでいると?」

「端から見りゃ、その通りだぜ? なんなら、俺が前にでて、どうしたらいいか、指示出ししようか?」

「お、お前が?」

「俺の邑じゃ、若ぇのだけで、狩りする時にゃ、そうする。 俺もそうやって、地力をつけたんだ。 相手がどんな奴だって、基本的には変わらんよ。 それに、子供でもそうやって中型魔獣を狩るんだからな。 まぁ、中洲モノは、敢えて危険を冒す必要もねけどな。 どうする?」

「そこまで言うのならば、やってみろ。 ただし、おかしな命令には従わんぞ」

「あぁ、ハイハイ。 単純な事しか伝えんよ。 魔法の名前、防御、攻撃。 こんなもんか。 位置取りは、前衛に俺、中衛に魔術師と盾の戦士。 後衛 兼、反撃遊撃がお前、剣闘士。 それでいいか?」

「索敵は?」

「それは俺がやる。 まぁ、この中で、一番見えるのは俺だからな。 お前等、見えてねぇしな」

「な、何を!」

「ほら、おいでなすった。 前方、右側、距離は二十。 【隠遁】と【隠密】の強度は三。 中型。 四足。 魔導士ちゃん、【火炎】を放て。 二時方向。 盾の戦士君は、魔導士の前面に立て。 剣闘士は、左側に出て、十まで前進。 そこで待機。 横腹を見せたら、前足の付け根に、突きを喰らわせてやれ。 はじめっぞ!」

「 聖者の心を持つ者(ブレイブハート) 」達が 一党(パーティー) として臨んだ、初めての魔物戦闘。 それまでの苦戦は、なんだったのかと云う程、何の問題も無く撃破。誰一人傷付く者も無く、体力気力を大きく落とす事も無く、鎧袖一触とも云わんばかりの素早さでの撃破だった。 これには、『忌み子』以外の者達も文句のつけようも無かった。 隊列を元に戻し、森を征く『忌み子』。 その背には、 一党(パーティ) が必要とする全ての物資が背負われているにもかかわらず、足取りも軽い。

何かが、大きく違う。 そう、『忌み子』以外の者達の心に浮かぶ違和感。

そんな彼等の思惑や困惑をサラリと受け流し、先を進める「忌み子」は、周囲の状況と魔物魔獣の気配を察知しつつ先に先にと歩みを進める。 今夜の野営地を…… 少なくとも、魔物魔獣達の巣営地から離れた場所を探る為に、視線を森の中に向けて歩を進めていた。 その心内…… 誰にも明かさぬ心の中で「忌み子」は呟く。

“ 多いなぁ…… 二足、四足の魔獣が何でこんなに多いんだ? それに、巣もな…… もう、『魔王城』の城下には到達しているらしいんだが…… 邑の奥地にある『遺跡』並みの遺跡が、彼方此方に有るのは感知は出来た。 いや、待て、此れって…… おいおい、そういう事か…… ちょっと寄り道だが、この反応は確かめておかにゃならんな。 アイツ等には…… 別にいいか、説明しなくても。 アブねぇ場所だから、気を張っているし、変な事言って疑われるのは下策だしな。 まぁ、いいや。 マッピングも大体できたし、この感じは…… まぁ、都市間を繋ぐ国道か高速道路? そんでもって、右手に入る場所の先にある、妙に魔物魔獣が多い場所。 それも、巨大生物。 もし、俺の考えが間違ってなければ、あそこは…… ”

黙々と歩き、森の夕刻。「忌み子」はついに決定的なモノを見つける。 見つけてしまった。 巨木が林立する森の一角。 古代の遺跡の一部が崩壊せずに残った場所。 巨木が遺跡を飲み込んではいたが、其の外壁は確かにそそり立っていた。 封鎖されていたのか、その遺跡は魔物魔獣が巣を造ってはいなかった。 水場も近い。 野営地には持って来いと云う訳だった。 『忌み子』は、今日は此処までと、遺跡入口の封印を、強引にその巨剣で打ち破り、内部に侵入する。

そして、見つけてしまった。

大空洞とも云える、その場所の中央に聳えたつモニュメント。 明らかに何らかの魔道具だと分かったが、今は機能していない。 しかし、表面に刻み込まれた文字は、風化に耐え今も見る者に過去の情報を与え得る。古代文字…… 魔導士は辛うじて、その文字を読む事が出来た。

「なぁ、コレはなんだ? 古代の表音文字…… なんだが。」

「さぁな。 遺跡には時々こんな風に風化に耐えた物も有るんだ。 こんなのは知らんがな。 手出しはするなよ、何が起こるか分からんからな」

「そうだな…… 下手に触ったら、どうなるかもわからん。 だが…… 文字を読むくらいは、良いだろう?」

「まぁ、今夜は此処で野営する。 水場も有る、魔物の気配は薄い。 で、なんて書いてあるんだ?」

「“ ずー “ とだけ。 それが何を意味するのは分からない」

「『ズー』か。 その下にも、色々と書いてあるが?」

「残念だが、私の知識では読み解けない。 難解に過ぎる」

「そうか…… まぁ、いいや。 取り敢えず、此処は比較的安全だし、身体を休めるにはいい場所だ」

四人は野営の準備に入る。 その最中「忌み子」は心の中で呟きを重ねる。 その眼には、深い色が浮かぶ。 鬼人(オーガ) 族の者ならぬ、深い深い色を浮かべている。 想いを巡らす『忌み子』の胸中に広がる古の記憶。 この世界の者ではない、別の世界で生きた記憶の断片。 奇しくも、この世界に生まれ落ちた、真意すら含まれる言葉。 彼の胸中に去来する、生れ落ちた意味。 綯交ぜとなった、思惑は自然と彼の持つ知見が混合する。 神の恩寵か、悪魔の誘惑か。 しかし、それでも彼は前を向いていた。 『真実を見ても尚、揺れぬ者』として、真っ直ぐに。 ひたすら、真っ直ぐに。

“ まいったな…… ズー(動物園) かよ。 そりゃ、大型の珍しい奴等が多いのも当然だな。 ここらを闊歩する大型強者揃いの魔物魔獣って…… 濃い魔力で強制的に進化させられた、猛獣達だったって事った。 長い年月を越えた、猛獣達の交配だって、どうなって居るのか分からんもんな……。 異種間交配だって、有り得るんだし、キメラが多いのもそう言った環境だからか。 ……こりゃマズいなぁ。 別ルート探ろうか。 このまま突っ切ればと思ったが、こっちはダメだ。 森の強者が多すぎる。とても、無事に突破できるとは思えなくなった。 遠回りとなるが、仕方ねぇな。 明日から…… また、マッピングだな、こりゃ ”