作品タイトル不明
表向きの理由。 裏向きの理由。
北部国軍内で、その構想は以前からあった。
「探索隊」を一隊として、完全に北部王国軍の軍制の中で独立させ、特任部隊として、公式に部隊設立すると云うものだった。 特任部隊として、人員を固定し作戦を実行する。 秘匿事項が多すぎて、部隊間の異動も、機密保持の観点から難しくなるのは、参謀達が皆口を揃えて云ったことだ。
別の理由も有った。
隊員の戦闘を含む『軍事技能』が、通常任務の兵達と比べて異常に強化されていると、そう報告されている事であった。 『探索隊』は、元騎士爵家遊撃隊の精鋭を選抜して、輪番でその任に就いていたのだが、それにしても、技巧や戦技の熟達度が他の部隊とは隔絶していると、そう認識されている。 更に言えば、最近はその輪番でさえも留め置かれ、専任化していると云う事実もあった。
射手で云えば、我が佳き人並みの狙撃能力を獲得しつつある。 『銃』の有効射程一杯での、致命部位の狙撃などと言う芸当が出来て当たり前な者達。
” ついていけません。 隊長殿、一体どのような訓練をすれば、あれ程の精度をもった狙撃能力を獲得できるのですか? 教えて頂きたい ”
遊撃部隊時代の副官が、困惑と共にそう口にする。 いや、特別な訓練などしていないのだがな? 強いて言うならば、過酷な環境に於いて常に神経をすり減らしながら自身の鍛錬を怠らなかった個々の能力向上に原因が求められるのだ。
私がそう伝えても、副官は困惑の表情と共に言葉を紡ぐ。 平均的な北部王国軍の一般兵達とは能力が隔絶していると云っても良いのだと、副官はいう。 北部王国軍の一般兵達の教導として、役立てようとしていたが、それがかえって兵達の困惑を呼んでいると言われてしまった。
「探索隊の面々は、既に『人としての限界を突破』していると…… そう云えるのです。 精兵と云う範疇では説明が付かぬのですよ、指揮官殿。 輪番での編成は既に破綻しております。 ほぼ、人員は固定状態です。 ここは、探索隊人員の固定を行わねば成りません。 規模は一個旅団規模となります。 この中に連隊編制の『探索隊』を組み込み、外部から『探索隊』の存在を韜晦します。 輜重隊を含めた補助部隊も、専任となりましょう。 補助部隊の戦闘力は、一般部隊の精鋭を超えておりますが故、彼等を通常任務に組み入れても他が追従する事が出来ません。 依ってこの処置となります。 拠点の人員も丸ごと新編の部隊に編入させます。 これは、探索隊への兵站強化の為です。 良いですね」
「戦務参謀たる君がそう言うのならば、そうなのだろうが…… そんなにか?」
「貴方を含めて、『探索隊』の面々は、異常なのですよ。 理解してくださいッ!」
「そうは言ってもな」
「総司令官閣下には、既に御許可を戴いております。 総司令次席として、北部浅層の森を掌握する事を表向きの理由としております。 新編の北部王国軍『特任旅団』としての予算承認も取り付けました。 他の参謀の方々にもご説明しております。 編制作業に於いて、実戦指揮官に総司令次席であり作戦参謀が付くなどと言う暴挙に目を瞑って頂くのにどれ程苦労したか」
「……すまない」
「それは良いのですが、そうなると、御披露目は必須となります。 建軍からさほど時が経ていない北部王国軍。その中での新編の『特任旅団』となりますので、耳目は自然と集まります。 『探索隊』の任務は秘匿事項であり、長期間の作戦行動も予測されます。 中央の王国軍首脳部から、何故総司令官次席が居ないのか…… 等と、痛くも無い腹を探られるのは、甚だ宜しくは有りませんから、総司令官殿が特任として、浅層域での長期間の作戦を命じた事に擬態します。 『特任旅団』の本拠地は、例の中層域の境の城塞化した拠点です」
一息つく様に、副官はしばしの沈黙の元、手にした分厚い書類に目を通しながら、やがて口を開いた。 有無を言わせぬ迫力が有るのだ。 黙って聴くしか無いのだ。
「浅層域北側半分の全域の安寧を掌握していると、そう公表していきます。『 北部王国軍は、領都と浅層域最奥の二方面に正規の部隊を常駐させ、「魔の森」浅層域の安寧を確保せしむ。』との公式発表となります。 各管区の指令所には、魔導通信線の他、見張り塔を設置。 腕木信号式の通信線の確保も致しました。 さらに、各種の信号弾の常備、運用に関しても、既に規定を定め運用を開始しております。 魔の森浅層域の情報に関しては、領都、及び拠点に同時共有される事が決定。 あちらの守備隊長の下で浅層域深部の情報は一元管理される事になっております。 これが、表向きの発表となります。 中央の王国軍の目を韜晦する為に必要な処置と云う事を肝に銘じて下さい」
「……わかった。 色々と苦労を掛けた。 すまない」
「指揮官殿…… それは、言葉にすべきではないのでは? 謝意は受け取りますが、堂々として下さい。 騎士爵家が三男と云う立場では無いのですよ、貴方は」
「いや…… しかしだな……」
「北部王国軍、総司令次席 兼、作戦参謀閣下ッ! 敬愛する上官殿へ、最善を尽くすは、我が本懐なりッ!」
「…………そうだな。 分かった。 若輩の私の補佐、今後とも頼む」
「御意に」
副官には色々と迷惑を押し付けている。 彼の言葉には、その苦労の端々が見えている。 私は、そんな彼の言葉に頷くしかないのだろう。 参謀本部の執務室で繰り広げられた、その様な会話は、他の参謀達の耳にも届いている。 中央では見られないような、光景だったのだろう。 皆が驚いていたのは確かだ。
私も副官も実戦指揮官だったのだから、言葉は常に真摯で直截的だ。 回りくどい言い回しなど、森の中で口にする様な余裕など無いのだからな。 即断即決は騎士爵家の漢の在り方でも有る。 よって、副官の言葉を私は受け入れ、『探索隊』は正式に北部国軍の一部隊として独立編成される事となった。
―――― ☆ ――――
再編を果たし、団結式を領都の軍施設で挙行する運びとなった。 小規模な閲兵式とも云えるのにも関わらず、北部辺境伯領にとって『大切な貴種貴顕』も招待された。 招待状を出したのは朋。 北部辺境伯の名を以ての招待だった。 未だ、建設途上の領都ではあるが、ある程度の施設群も立ち上がり、運用を始めている。 北部辺境伯閣下の行政官、政務官たちの庁舎や官舎も整備され、辺境伯が統治も軌道に乗り始めた事も有る。 二重の意味のでの『お披露目』と云う事か。
部隊の編成完了を知らしめる『閲兵式』は、仕上がりつつある領都の御披露目の ついで(・・・) と云う事だな。 理解した。
朋は、面倒事は一気に片付ける気質の持ち主だし、そういう事も有るだろう。 参加する貴種貴顕は、上級女伯家夫妻、筆頭騎士爵家当主夫妻と、先の騎士爵家夫妻を主賓に据え、『森の端』の邑を支配領域に於いていた騎士爵家、北部国軍に忠誠を捧げる従騎士爵達の生家で貴族籍を持つ家の当主家族。
見知った者達も多いが、あまり関わり成らなかった者達も、北部辺境伯家 領都の御披露目とあれば挙って参集した。 小さな閲兵式は、新編された部隊の『晴れ舞台』と云う触れ込みでの閲兵式となった。
前日の祝賀会では、城塞にある私の部屋で父上、母上、兄様方、その奥方様達をお迎えして、ささやかな茶会を開催した。 ちい兄様には、正式に私の妻を紹介する機会が無かったのも有るし、皆で集まるのも久方ぶりとなる。 報いたいと思った、家族なのだ。 私は自身が幸せ者だと示したかったのだ。
三組のご夫妻は皆仲睦まじく、私も我が佳き人と、その様な関係性を構築していきたいと思っている。 上級女伯様が、少々申し訳なさそうな顔をされていたが、我が佳き人と言葉を交わされて、安心したかの様な表情を浮かべられたのが、印象的で有った。
家族としての、強い絆を感じた一時だった。
――― ☆ ―――
そんな式典の準備に追われている中、我等「探索隊」の装備装具は一新された。
鍛冶師の親方が強く装具装備の更新を進言したのが切っ掛けだった。 身に付けている装備装具の痛みが激しく、その修理を願い出たのが原因でもあった。 かなり使い込んだ装備や装具は、至る所に不具合が生じている。
魔鉱製の装甲板でも、防ぐのがやっとの中層域の魔物魔獣の攻撃。 武技(スキルアーツ) により、強大な攻撃力を得るに至った『探索隊』では有ったが、その代償は自身の装具が著しく損耗する事。 刃毀れは当たり前、刀身に傷が入ったモノや、一部欠けている武具を使い続けている者達も居る。 猟兵の装備する武器に、その傾向が顕著だった。
「若…… ダメだ、コレは。 中心部まで傷が入っている。 こっちの装具もそうだ…… 森の奥で何と対峙しているんだ? 浅層域でこれ程の装具装備の消耗が見られる事は無いんだがな」
「強い魔物魔獣が相手なんだ。 早急に修復して欲しいのだが……」
「ダメだ。 深部から消耗している。 あと、二、三合、打ち合えば折れるし、割れる。 …………なぁ、若よ、試している事が有るんだが、そっちを使ってもいいか?」
「なんだろうか、その試していると云うモノは」
「強度を高め、魔剣や装甲の ” 持ち ” を良くして見た。 『砦』の高温炉を使って、若の魔鉱に色々と混ぜてみた。 俺の目から見ても、中々のモノだと思う」
「……親方も、試行錯誤してくれていたのだな」
「鍛冶は一生勉強なんだぜ、若。 目の前に未知の鋼が有るのなら、それを鍛え上げるのが鍛冶師の意地でも有るんだ。 どうだろう」
「分かった。 任せよう。 『探索隊』皆の装備装具の新調を願う。 対価は北部王国軍に請求して欲しい」
「コレは、俺の我儘でもあるんだ。 まぁ、装備装具の不具合での『正規備品』の更新と云う事で、対価は受け取るよ」
「済まないな、親方」
「だから…… 死ぬなよ」
「……出来る限り、親方の「祈りの言葉」に応えよう」
「若なら、そう云うと思ったぜ。 まぁ、任せろ」
「有難く」
――― ☆ ―――
仕上がったモノは、従前のモノとさして見た目の変化は無かった。見た目は北部国軍の正規装備と何ら変わりはないのだ。 だが、『工人』の技巧を持つ私の目は、その異常性に気が付いた。 別物と云っても良い。 魔法術式(ルーン) を刻まなくても、従来のモノと同じかそれ以上の耐久性や切れ味があり、使い手を選ぶ武器や武具となっている。
「これは……」
「今は、此れが精一杯だ。 部隊全員に配備する為には、これ以上は突き詰められない。 まぁ、若の武具装具だけは、若に合わせたがな」
「 専用(オーダーメイド) と云う事か。 いや、それでも、コレは……」
「自信作でも有る。 この歳になって、心が躍ったぜ。 まぁ、使うのが『探索隊』の面々だろ? あのバケモノ達が使うんだ、このくらいでなくては、耐えられんからな」
「有難う…… いや、本心から親方の心意気に感謝を捧げる」
「おう。 ありがとよ。 お前さんが、兵達の命を大切にしているのは知ってるからな。 こっちも、その心意気が伝播したんだぜ。 お前さんを含め、皆が必ず帰ってこれるように、願いを込めて打ち上げた」
「親方、貴方の献身に、神の御加護が有らん事を。 嬉しく思う」
親方の特別製に…… この 装備装具(武器武具) に 術式(ルーン) を刻み込むならば、私自身が最高のモノを刻み込まねばならない。 そう確信に至ったのは、私の本懐とも云えるのだ。 皆の生還の祈りを込めて符呪した 術式(ルーン) は……
――― 古代魔導術式。
朋との約束は、探索行でのみ使用を許可すると云う事。 ならば、兵達の装備装具もその範疇となる。 未知の魔導術式では有るが、幾つかの 術式(ルーン) は既に読み解けている。 依って従来の魔法術式の代わりに、古代魔導術式を使用した。
要求される魔力は数分の一。効果は十数倍。
使わない手は無い。 それに、これらの武器や武具は、その符呪にも耐えられる。 だから使用した。 当然の成り行きだと云える。 ただ、朋には黙っていた。 きっと、朋は反対するからな。 使えるモノは何でも使う。 今の私の信条として、それは当然の事だが、朋の気持ちの折り合いはきっとつかないだろうからな。
朋は、魔法を武力にしたく無いのだ。
魔道具とは『人を幸せにする為のモノ』だと、定義しているのだ。 だから、朋には言えない。 彼の信条を 枉(ま) げさせることは私には出来ない。 ただ、任務を遂行し兵達の安全を護るべき立場に居る私は、使えるモノは何でも使うのだ。 これだけは、断固として貫かせて貰う。
嘘ではない。 ただ、黙っているだけなのだ。
自身に折り合いを付けつつ、『探索隊』の面々の武器、武具に 術式(ルーン) を刻み込んで行った。
―――― ☆ ――――
その日は……
蒼穹は何処までも晴れ上がり、沿道の民は歓声を上げて我等を迎えてくれている。 北部王国軍、軍楽隊が奏でる『行進曲』、” 我が王国の栄光(ルール・ザ・キングダム) ” のリズムに歩を乗せて、我が特任旅団は、領都の大通りを行進していた。
集う兵達の眼光の鋭さは、精兵を以て鳴る北部王国軍の中でも随一を誇る。 剣を捧げ、来賓の方々の前を行進する時……
私は、此処まで来たのかのと、感慨深いものを感じていた。
いや、此処からなのだ。
此処からが、本当の意味での『 探索(・・) 』が始まるのだ。
二人の兄上達も、私の表情が硬く引き絞られている事を察知したのか、来賓の前を通過する時、見事な敬礼を送って下さった。
行進しながら、私は衛剣を抜き放ち、大空に掲げ号令を下す。
“ 頭ぁ右ッ! ”
掛け声とともに、脇を締め、戎衣制帽の鍔に左手を垂直に当てる王国国軍式敬礼を差し出す。そして心内で誓うのだ。
“ 私は、力の限りやり遂げます。 皆様の愛情は無二の物。その愛に報いるために、私は征きます。 我が本懐の定める事を厳守する事を誓います ”
―――― 晴れ上がった青空に掲げる、衛剣がキラリと輝いた。
第一幕
終幕
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