軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

マーカスからの手紙

::::::::::::マーカスの手紙:::::::::::::::

『 ++ 一通目の手紙 ++ 』

はじめまして。マリア・クルス嬢。

私はベルシアの前国王を務めていたマーカスという老人だ。

なぜ私が君あての手紙を書いているのか不思議に思うだろう。

そこから説明しよう。

四十年前、私と君の祖母エリスは愛し合い、結婚の約束をして、私は国に戻った。

ところがその帰途で事故に会い、全てを忘れてしまった。思い出したのはついこの間の事だ。

取り返しの付かない話だね。

そしてもう一つ取り返しのつかない事を重ねてしまった。

結婚の約束をした時に、代々王家で引き継いでいた石をエリスに預けていた。

それは事故で失われたと思われていたが、エリスのもとにあることを話してしまった。

残念なことに、私には怖い性格の妻と愚かな息子がいる。この二人が君にどんな接触をするか、全く不安しかない。

それで、考えた。

エリスへのお詫びを兼ねて、君に私の私有地を贈ろうと思う。

領地の経営は、信頼できる領主に任せてある。君は領地から上がる利益を受け取り、必要に応じて指示を出すだけでいい。領内には、私に忠実な者を集めておく。

私の妻は王太后で、息子は王だ。ある程度の資産と地位を持たなくては、いいようにされてしまうだろう。

君の安全のためにも、ぜひ受け取ってもらいたい。

詳しい事は長く私の従者を務めたニックに聞いてくれ。

信頼できる男だ。

【 ++ 二通目の手紙 ++ 】

この手紙を読んでいるなら、私の信頼する従者ニコラスが、君の人となりを見て、踏み込んでも大丈夫と判断したことになる。

さすがエリスの孫だ。彼女の善良さと強さを引き継いでいるのだろう。

これは君次第なのだが、考えてほしいことがある。

我がベルシア王家は、ある物を代々引き継いでいる。

とりあえず、猫と表現しよう。

この猫は、大きな力を持つという。

初代ベルシア王は、この猫の力で王国を築いた。だが力のあまりの大きさを恐れた。

それほど強力だったらしい。

らしいと表現したのは、それ以降の二百年間で一度も、そんな大きな力を現わしていないからだ。

初代王は猫に願った。

「悪しき事を願う者を、主としないで欲しい。欲に走る者も、欲によって他者を傷つける者も」

そうやって、猫に願い続けた。

王の息子は凡庸だが、大きな野心は無く、この猫と願いとを引き継いだ。

こうやって王家は代々猫を引き継いできた。

継承者は猫が決める。

代々の願いに反する者を、猫は拒否してきた。

子の代で引き継げる者がいなければ、孫世代で探す。そうやってうまく繋いできたのだが、今の代で継げる者は一人もいない。

つまり猫はベルシア王家から離れていくことになる。

そのまま放っておけば、猫は自分で主を選ぶだろう。多分二百年分の祈りが、悪しき者を退けてくれると思う。

そう考えたところで、私はふと思ったのだ。

マリア嬢に対して、危険な振る舞いを仕掛けるかもしれない、我が妃と息子。

しかも大きな権力を持つ者たちから、君を守れるのではないかと。

猫は主を暗殺から守ってくれる。

そして願い事を叶えてくれる。

もし、私の身内が迷惑をかけるような事をしても、それをはじき返すだろう。

もう一つは私の身勝手な願望だよ。

もしエリスと結婚していたら、猫は出ていかなくても済んだだろう。

誰とも分からない人物に渡るよりは、エリスの子孫に猫を引き継ぎたいと思ってしまったのだ。

ところで願い事といっても、実は大したことはできないのだ。

口伝で残る話をいくつか上げておく。以下のは叶った願いだ。

一面の菜の花畑が見たい。

毛が良く抜ける毛抜きが欲しい。

無くした帽子を見つけたい。

戦いに出た夫が無事か教えて欲しい。

恋人の愛を伝えてほしい。これは私が願ったことだ。そのおかげで、ずっと幸せに暮らせたようだ。

害のない個人的な願いが多いのだよ。

逆に叶わなかった願いの方が多い。

金銀財宝を出して欲しい。

恋しい相手の気持ちを、自分に向けて欲しい。

無理を言ってくる隣国に、制裁を加えて欲しい。

病気を治して欲しい。

愛する者を生き返らせて欲しい。

つまり、病や死、人の気持ちを操作することは出来ない。

富と権力に関しても使えないわけだ。

強大な力とは、一体どんなものだったのだろう。それはわがベルシア王家が、ずっと抱き続けた謎なのだ。

君がこの不可思議な猫を受け継げるかどうかは、猫に祈りを捧げてみないとわからない。

不確実なことばかりで申し訳ないが、ものは試しでやってみてはどうだろう。

私はずっとエリスの愛の想いを受け取ってきたせいか、君が自分の孫のように思える。不思議だが、君をとても良く知っているような気がするのだ。

エリスのことだから、君のことも色々と話してくれていたのだろう。

私が忘れていた四十年もの長い間、エリスは私を愛してくれていた。頭が下がるよ。

エリスは強い。

私はエリスを愛した。多分忘れている間もエリスを愛していた。

そして今、彼女のしてくれたことを知って、優に十倍は彼女を愛している。

だから君に幸せになって欲しい。

君には迷惑な話だろう。

こんなことに巻き込んですまない。

あっちに行ったら、エリスに叱られるだろうな。