軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十話 名誉を懸けて

「どうしても貴様の功績だと言い張るのであれば、よかろう。その証拠を見せてもらおうではないか」

アルフレッドは鞘から剣を抜き、その場で軽く振るった。

周囲に緊張が走る。

「俺も恥を掻かされたまま去る気はない。表に出ろ、自称聖女のポメラ。決闘を行う。その化けの皮を剥がしてやる」

予想を遥かに超えてヤバイ人だった。

ポメラは口をへの字に曲げてアルフレッドと睨み合い、俺へと振り返った。

「……行ってきていいでしょうか、カナタさん」

よほどアルフレッドの言動が癪に障っていたのか、珍しくポメラが怒っている。

俺に確認を取ったのは、アルフレッドを倒す程度のレベルがあることを周囲に知られても大丈夫か、ということだろう。

あまり目立って同格以上の相手から目を付けられたくないとは、俺もポメラに何度も話している。

ただ、アルフレッドより少し上、くらいならば問題はないだろう。

金銭面を考えても、B級冒険者を装って行動し続けるのはあまりに歯痒い。

エーテル開発を行えなくなる。

俺はポメラに小さく手招きする。

ポメラが俺へと耳を近づけて来た。

「そういう意味なら、手を抜いてやってくれるならば別に構いません。……ただ、ここは適当に頭を下げて、やり過ごしておいた方がよくありませんか?」

「おい、聞こえているぞ」

声の方へと目を向ければ、ポメラのすぐ横に、アルフレッドの頭があった。

血走った目で俺を睨んでいる。

「う、うわっ!」

俺は思わず後ずさった。

どうやら俺がポメラに手招きしたとき、なぜか一緒に耳を近づけて来ていたようだった。

こんな露骨に聞き耳を立てに来るとは思わなかった。

アルフレッドが剣を振るった。

刃が、ギルドの床と受付のカウンターに走った。

綺麗に切断された痕からは、摩擦で煙が上がっていた。

周囲の野次馬からどよめきの声が上がる。

「手加減してやれだと? 随分とこの俺を小ばかにしてくれたものだ」

「……わかりました。ポメラが、相手になりましょう」

ポメラの言葉に、アルフレッドは口許を歪め、嫌な笑みを浮かべた。

「ですが、別にポメラはあんな出鱈目を信じてもらわなくても結構です。ラーニョについても、お金が欲しいだけだったので、別に貴方からどう思われようとも関係ありません。なので、一つ条件を呑んでもらえませんか?」

「なに、条件だと?」

「ポメラは別にどう言われようとも結構です。ですが、ポメラが勝ったら、何も知らないのにカナタさんを腰巾着呼ばわりしたことと、散々言いがかりをつけて喚きたててきたことを、カナタさんに謝ってください! カナタさんは、こんなポメラと対等にパーティーを組んでくださった、初めての人だったんです!」

「俺に勝つつもりでいるとは、滑稽だな。いいだろう、何でも条件を呑んでやる。ついてこい」

アルフレッドが外へと歩いていく。

その彼の後を、口のへの字に曲げたままのポメラがついていく。

「ポッ、ポメラさん! 俺のために怒ってくれるのは嬉しいですけど、別にもう、相手にしない方が……」

俺がポメラの後を追いかけようとしたとき、フィリアが俺を追い越してポメラへと近付いて行った。

「フィリアも! フィリアもポメラと一緒に戦いたい!」

何かの遊びと勘違いしているのか、目をキラキラ輝かせている。

俺は大慌てでフィリアを追いかけ、身体を押さえた。

「フィッ、フィリアちゃんは駄目! 手加減できないから絶対駄目!」

こんなところで《夢の砂》の力を解放されたらとんでもないことになる。

というか、勢いで殺しかねない。

冒険者ギルドの外へと移動した。

ポメラとアルフレッドが向き合って立ち、少し離れたところに野次馬が並んで彼らを見守っていた。

俺もその内の一人となっていた。

いったい、何がどうしてこうなってしまったのか。

「魔術師の間合いではないだろう。もう少し距離を置いて戦ってやる。俺が不利な条件で勝たなければ意味がない」

両者の間合いは五メートルといったところであった。

一歩踏み込めば、剣の届く位置だ。

「お気持ちありがとうございます。ですが、ポメラは結構です。ポメラだって、後で文句を言われても困ります」

「馬鹿な女め」

言い合いの延長なので当然だが、二人共険悪な様子であった。

とはいえ、ポメラとアルフレッドのレベル差は倍以上ある。

何がどうなってもポメラが負けることはないだろうが……。

「頑張ってー! ポメラ、頑張ってー!」

フィリアが楽しそうに笑顔で手を振っている。

アルフレッドの仲間であるセーラが、開始の合図役をやらさせられていた。

セーラも嫌そうな顔をしていた。

彼女はアルフレッドを慕ってはいたようだったが、今の状態を発作とまで呼んでいた。

この決闘自体も快く思っていないのだろう。

「……どちらかが負けを認めるか、自身の意思を伝えられなくなった時点で敗北です。それでは、開始を」

セーラが上げた手を降ろす。

その瞬間、アルフレッドが飛び出してポメラへの距離を詰める。

鞘に刺した剣を引き抜き、ポメラの大杖を斬り飛ばそうと迫った。

「精霊魔法第六階位《 火霊狐の炎玉(フォンズボール) 》!」

ポメラは背後に退きながら、大杖を掲げて魔法陣を浮かべた。

人の頭くらいの大きさの炎の球が、ポメラの前方に浮かび上がった。

《 火霊狐の炎玉(フォンズボール) 》は、精霊世界に住まう、狐の精霊の生み出す炎の玉を一時的に借りる魔法である。

簡単な意思を持っており、術者を補佐するように飛び回る。

不用意に本当の実力を晒せば、格上から目を付けられるリスクがある。

俺もそのため、ポメラには戦うなら手加減して欲しい、と伝えている。

レベル差のごり押しや、高位魔法の広範囲高火力ぶっぱで勝負を進める気はないのだろう。

恐らく《 火霊狐の炎玉(フォンズボール) 》でアルフレッドを牽制して近づかせず、他の魔法で倒すつもりだろう。

アルフレッドは横に飛び、《 火霊狐の炎玉(フォンズボール) 》を避けてポメラへと斬りかかろうとした。

しかし、炎の球はアルフレッドとポメラの間に割り込む様に動く。

ポメラも炎の球に隠れるように移動していた。

「面倒な魔法を……! なるほど、確かにただの雑魚ではないらしい」