軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十九話 怒りのアルフレッド

職員は二つの大型ラーニョの瞳を見て、顔を蒼褪めさせていた。

「す、少し、お待ちください。私だけでは、これについては判断できませんので! それにラーニョの大型種が、何体も魔法都市の周辺に出没しているとなると……これは、本当にとんでもないことが起きようとしているのかもしれません」

「やっぱり、結構マズいんですか?」

これだけ大量のラーニョが発生している時点で、既存の魔法都市の戦力では対抗しきれるか怪しい段階まで来ているように思う。

ルナエールも、この世界では魔物の災害であっさりと大国が滅ぶようなことが歴史上度々あったと、そう口にしていた。

「私には詳しくはわかりませんが……ギルド長様が、もしラーニョの上位種が続々と出没するようになれば、この都市が滅ぶ前兆になるかもしれないと……」

職員が額を押さえ、小声でそう漏らした。

そこまで具体的に予期していた人がいたのか。

……だとすれば、かなり信憑性の高い話なのかもしれない。

「おっと……すいません。無為に不安を煽るべきではありませんでした。今のことは忘れてください。とにかくこの件は、少しでも早く上に伝えておかないと……。大型ラーニョについては、情報としての価値もあるので、満足いただける額を用意できるはずです」

職員は俺に頭を下げると、慌ただしく奥へと引っ込んで行った。

そのとき、背後から声を掛けられた。

「お、おい、アンタら、一体何者だ? この都市の冒険者じゃないな。アンタらみたいな奴がいたら、これまで目立っていなかったわけがない。アルフレッドと同じ、流れ者か?」

俺達の様子を眺めていた冒険者の一人であった。

「えっと、はい、俺達はアーロブルクから来た冒険者で……」

俺がそう口にしたとき、一人の男が前に出てきた。

黒い尖がり帽子を被った、やや隈のある三白眼の男であった。

どこかで見覚えがあると思えば、この都市へ馬車で向かう道中にポメラに声を掛けて来た男であった。

男は帽子を手で傾け、息を吐いた。

「アーロブルクで、《人魔竜》の一人である《邪神官ノーツ》が暴れた事件は耳にしているな? この聖女ポメラはたった一人でアーロブルク中の被害者を治癒し、《邪神官ノーツ》のいた館ごと吹き飛ばして奴を討ったのだ」

「え……?」

ポメラの目が点になっていた。

冒険者ギルド中からどよめきが上がる。

そんな馬鹿な、有り得ないと、皆が口々に言っていた。

「加えて、彼女は大型のドラゴンの精霊を自在に使役することができる。それは俺がこの目で見たので間違いない。あんな強大な精霊は、初めて目にした……。治癒や攻撃の魔法だけではなく、召喚魔法も尋常ではない……」

フィリアがぱちぱちと瞬きをしてから、自身を指で示しながらポメラの方を見た。

「……もしかして、フィリアのせい?」

「ついでに彼女が《邪神官ノーツ》の被害者を治癒して回っていた際に、五十年以上盲目だった老人が目に光を取り戻したとも、噂で耳にしている……」

俺は思わずポメラを見た。

ポメラは凄い勢いで首を振った。

どうやらその噂は完全にデマであったらしい。

「ばっ、馬鹿な!」

「そんなことがあり得るわけがない!」

ギルド内に暴言が飛び交う。

「そうです! そんな話、全部出鱈目です! 勝手なことばっかり吹聴しないでください!」

ポメラも顔を真っ赤にして男にそう言っていた。

「……退け、邪魔だ」

よく通る声が聞こえて来た。

俺が目を向ければ、野次馬達が左右に分かれて道ができていた。

その道をつかつかと歩いて向かって来るのは、アルフレッドであった。

眉間に険しい皺を寄せて、俺達を睨みつけている。

ちょっと緊張してしまう。

俺は少し背筋を伸ばした。

アルフレッドのレベルやラーニョの討伐数にはちょっとがっかりしたが、アルフレッドはこの世界で命懸けで戦い、正攻法で生きて来た本物の冒険者だ。

アルフレッドには、時間を掛けて苦労してきた者の風格がある。

彼の佇まい、振る舞いには、俺も男として憧れるものがある。

「おい、貴様」

「な、なんでしょうか」

俺が答えると、アルフレッドが声を荒げた。

「貴様ではない! そこの女だ! 腰巾着の雑魚などどうでもよい! 下がっていろ!」

「す、すいません」

思わず気迫に圧されて謝ってしまった。

俺ではなく、ポメラの方に声を掛けていたらしい。

しかし、これまでアルフレッドにあった余裕が全く感じられない。

「なんてことを言うのですか! カナタさんに謝ってください!」

ポメラがむっとした顔で杖を握り締め、アルフレッドへと一歩近づいた。

「そんなことなど、どうでもよい! 問題は、貴様が虚栄を張り、ありもしない荒唐無稽な話を広めようとしていることだ。同じ冒険者として、その見苦しさが目に余る」

「それはポメラ達が言い始めたことではありません! 文句があるのなら、そっちの男の人に言ってください!」

「何がノーツを倒した、だ! そのラーニョの目玉はどこで買い集めた? よくもこの俺の横でこれ見よがしに取り出して、大恥を掻かせてくれたな!」

アルフレッドが顔を真っ赤にして吠えた。

「結局最後のところが気に食わなかっただけではないですか! それに関してはポメラ達に落ち度はありません! そもそも、貴方が得意気に見せびらかしていたから恥を掻いただけではありませんか! 勝手に自爆して、突っかかって来て騒ぎ立てないでください! それに、カナタさんは腰巾着ではありません! ポメラが無理を言ってカナタさんの旅に付き添わせていただいているだけです! 謝ってください!」

「お、落ち着いてくださいポメラさん。俺はその……ぶっちゃけ、どうでもいいですから」

俺はポメラの腕を引き、彼女を止めようとした。

「貴様、言ってくれたな! この大法螺吹き共め!」

アルフレッドが興奮で鼻の穴を広げ、歯茎を晒して怒鳴った。

アルフレッドの後ろから、短髪の女剣士が現れた。

確か、彼女はアルフレッドの仲間だ。セーラと呼ばれていたはずだ。

セーラは何をするのかと思えば、アルフレッドの身体に抱き着き、彼を背後へと退かせようとし始めた。

「や、やめてくださいアルフレッド様! 人前ですから! すいません、この人はたまに発作を起こすんです!」

「放せセーラ! 俺に恥を掻かせるつもりか!」

な、なんだこの人……。

「それは貴方です! お願いですからここは下がりましょう! 下がってください!」

「黙れ! 俺が放せと言ったのがわからないのか!」

アルフレッドは腕を大きく振るい、セーラを突き飛ばした。

「きゃあっ!」

セーラは転倒し、床に叩きつけられた。

アルフレッドは彼女をちらりと一瞥すると、すぐにポメラへと目線を戻した。