軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四話 フィリア

魔物の襲撃が無事に片付き、馬車はまた魔法都市マナラークを目指して出発した。

「すいません……なんだか、全部ポメラさんに投げているみたいになってしまって」

俺は馬車の中でポメラへと頭を下げた。

「それはいいのですけれど……いえ、いいのかどうかはわかりませんけれど…………」

ポメラが複雑そうな表情を浮かべた。

……ポメラはここ数日で、街の人達を治療しつつノーツの結界を退けた都市アーロブルクの英雄になり、強大な竜の精霊を使役する召喚術師になってしまったのだ。

色々と思うところはあるだろう。

というか、どちらも俺が流れで押し付けてしまった称号なのだが。

「その……フィリアちゃんは、いったい何者なんですか……?」

ポメラが、不安そうにフィリアを見る。

さすがにポメラにこれ以上黙っているわけにはいかなさそうだ。

どの道、一緒に行動している以上、誤魔化し続けることも不可能だったのだ。

俺は確認の意思を込めて、フィリアへと目で合図を送った。

一応、ポメラに話す前にフィリアより了承を得ておきたかったのだ。

フィリアは相変わらず椅子から身を乗り出し、帳を捲っては外を眺めて喜んでいた。

俺の目線を受け、フィリアが振り返る。

彼女は俺と目が合うと、にこっと笑みを浮かべた。

可愛いけど、そうじゃない。

「フィリアちゃん……ポメラさんにフィリアちゃんのことを話しておきたいんだけど、大丈夫かな?」

俺が尋ねると、フィリアが笑みを消し、無表情になった。

どうやら、答えあぐねているようだ。

五千年前のことや、恐怖神ゾロフィリアであった頃の記憶がどれだけ残っているのかはわからないが、壮絶な過去であったはずだ。

人伝手に軽々しく話されることを良く思っていないに決まっている。

フィリアがまた笑顔を浮かべて、長椅子の上を這って俺の膝の上へと座った。

「フィリアちゃん?」

フィリアが首を伸ばし、俺の顔を振り返る。

「フィリア、難しいことわからないから、フィリアのことは全部カナタに任せる!」

満面の笑顔でそう言いきられてしまった。

……さっき考え込んでいたのは、自分のことがよくわからなかったからなのかもしれない。

ノーツの先祖はそれなりに強力な呪いをフィリアに植え付けていたようであったし、封印の期間もあまりに長すぎた。

自分が何者なのか、よくわかっていないのだろうか。

いや、もしかしたら単に、覚えていないことにしたのかもしれない。

思い出すのも辛い記憶ばかりだろう。

それに、フィリアの特殊な状況を思えば、彼女に関する判断を誤れば、保護している俺の立場がどうなるかもわからない。

フィリアは、俺達に気を遣って『判断を全て任せる』とそう言ってくれたのかもしれない。

「フィリアちゃん……」

俺が声を掛けると、体重を預けるように倒れて来た。

目が閉じており、心地良さげに吐息を漏らしている。

燥ぎ疲れて眠くなったらしい。

……やっぱり、俺の考えすぎだったのかもしれない。

「彼女は、ノーツが封印を解いた、大昔の人間なんですよ」

「ふぇ……?」

ポメラが目を丸くする。

「ノーツは、フィリアちゃんを使って王国転覆を目論んでいたみたいですね。フィリアちゃんにそこまでの力があるとは思いませんでしたけど……戦っていて、俺もちょっと冷やっとしました」

まさか、四人の自分に襲われることになるとは思わなかった。

「…………」

ポメラは黙ったまま口をぱくぱくさせていた。

「ポメラさん?」

「カナタさんを少しでも追い込むなんて、化け物じゃないですか……」

「ポメラさん、俺のことなんだと思ってるんですか?」

ポメラがはっと気がついたように手で口を塞ぐ。

「勿論、今のフィリアちゃんに戦闘の意志はありません。ノーツの遠い先祖が、フィリアちゃんを制御するために呪いで縛っていたみたいでしたが、それはもう解いてありますから」

「い、いえ……で、でも…………ほ、本当に、大丈夫なんですか……?」

ポメラが落ち着かない様子で俺へと尋ねて来る。

ポメラが脅える理由もわかる。

俺もフィリアをどうするべきなのかはかなり悩んだが、しかし今の彼女の様子を見ていると、殺すことも置き去りにしていくことも、選択肢として有り得なかった。

だったらいくら考えても、連れていく以外に道はなかったのだ。

「ひゅう」

そのとき、フィリアが寝言を漏らしながら、俺の膝で顔を横に倒した。

心地よさそうに眠りながら笑顔を浮かべていた。

さっきまで脅えていたポメラの表情が緩み、フィリアに釣られるように笑顔になる。

「不安な気持ちはわかりますが……フィリアちゃんを見捨てるわけにはいかなかったので」

「そう……ですね」

ポメラが小さく頷いた。

馬車での移動は、以降は特に魔物の襲撃やらの大きな問題が生じることはなかった。

出発から五日が経ったところで、大きな壁に囲われた都市が見えて来た。

壁を越え、高いとんがり屋根が少し覗いている。

「あれが、魔法都市マナラークですか」

「みたいですね。アーロブルクからそこまで大きく離れているわけではありませんが……ポメラも、来たのは初めてです。王国内で、魔導書の書庫や錬金魔法の研究施設などが一番充実しているところだと、よく耳にします」

「なるほど……ルナエールさんも、ここに来たら喜ぶかな……」

俺はつい、そんなことを呟いていた。

ルナエールには冥府の穢れがあるので現実的ではないだろうが……現代の魔導書や研究成果などには、彼女もきっと関心はあるだろう。

街の壁越しに見える屋根からして、街並みの景観も凄そうだ。

できれば、彼女と一緒にこの都市を訪れてみたかったものだ。

「カナタさん……?」

ポメラの声で、ふと俺は我に返った。

「っと、ちょっと考えごとをしていました。すいません、聞き流してしまいましたか?」

「いえ……その、ルナエールさんって、カナタさんの魔法の師なんですよね?」

ポメラは訝しむ様に声を掛けて来た。

「ええ。魔法というか……魔法を含めた戦いの技術は、ルナエールさんから教わったものです」

ポメラは、ルナエールを妙に気に掛けているようだった。

俺の法螺話とでも思っているのだろうか。

「それが、どうかしましたか?」

「いえ、ルナエールさんの話をするカナタさん……その……いつも、妙に熱が入っているといいますか……」

「あの人は俺の命の恩人でもありますからね」

ポメラは一体、何がそんなに引っ掛かっているのだろうか。

「名前からして、女の人だと思うのですが……その、ルナエールさんは何歳くらいの方なのですか?」

「せ……」

思わず、千歳ちょっとのはずだと答えそうになってしまった。

俺は慌てて口を噤む。

ルナエールがリッチであることがわかってしまう。

ポメラを信用していないわけではないが、敢えて言いふらすようなことではないだろう。

人間の寿命の範囲まで下げておいた方が良さそうだ。

「八十歳くらいだったと思います」

「なんだ……ルナエールさん、年配の方だったのですね……」

ポメラがほっとしたように息を吐いた。

妙な勘違いが生まれた気がするが……まあ、ルナエールとポメラが顔を合わせるようなことにはならないので大丈夫だろう。

「それがどうかしたんですか?」

「い、いえ! 別にっ、その、だからなんだというわけではないのですけども……!」

ポメラが顔を赤くして首を振った。

……よくはわからないが、ポメラが納得してくれたようで何よりだ。