軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三話 影蜘蛛ラーニョ

「何か……来てますね」

俺は《英雄剣ギルガメッシュ》を抜き、周囲を見回す。

地面を突き破り、一体の真っ黒な蜘蛛が現れた。

犬程の大きさがあり、赤い眼が輝いていた。

俺は距離を詰め、刃の一閃で黒蜘蛛を両断した。

地面が割れ、衝撃波で土の飛沫が巻き起こる。

ぱっかりと中央に割れた黒蜘蛛が、砂となって四散する。

「そこまで、レベルは高くないか……」

黒蜘蛛の身体が崩れたのは、《英雄剣ギルガメッシュ》の持つ魔力に身体の頑丈さが耐えきれなかった際に起こる現象だ。

何か、妙な気配を感じたので変に身構えてしまった。

「カナタ、さすがっ!」

フィリアが、俺の背に掴まったまま燥ぐ。

「ど、どうしましたか、カナタさん? あの鏡以外で、剣を抜くなんて珍しい……」

ポメラが歩いて寄って来た。

「いえ……少し、まずいことになっているかもしれません」

俺は《英雄剣ギルガメッシュ》を鞘へと戻し、魔法袋からナイフを取り出した。

《英雄剣ギルガメッシュ》は大体いつもオーバーキルになるため、通常の魔物を相手取るために別の武器を用意しておいたのだ。

素手で戦うと、結局加減し辛く変に悪目立ちしてしまう。

雑貨屋で買った解体用のナイフを少し磨いただけだが、充分に武器として扱えている。

「まずいこと、ですか? 地下に潜っていた魔物がいたみたいですが……そんなに……」

「潜っていた、ではなくて、潜っている、ですね。まだ、います」

周囲から悲鳴が聞こえて来た。

さっきの蜘蛛の魔物が、集まってきていた冒険者達を囲む様にして、一斉に現れたのだ。

間隔はそれなりに空いているが、全部で五十近くはいる。

「《モンスターパレード》!? そ、そんな……」

明らかに群れとして行動することに長けている魔物だ。

この世界において、五十近い数で行動することを前提とした生態の魔物はかなりの脅威であるはずだが、ポメラも初めて見た様であった。

俺は遠くの黒蜘蛛を《ステータスチェック》する。

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種族:ラーニョ

Lv :24

HP :91/91

MP :84/84

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レベル24……だいたいD級冒険者くらいの強さだ。

今回戦力として集められた冒険者は、大半がD級冒険者程度だったはずだ。

数の差ではこちらがかなり押されている。

あまり悪目立ちすれば、今後別の転移者や《人魔竜》から目をつけられるリスクが跳ね上がる。

しかし、ここで身を隠すために他の冒険者を見殺しにする様な真似もできない。

「ちょっと本気を出して、削りに行かないとまずいかもしれませんね」

「わ、わかりました!」

ポメラが大杖を構えた。

広範囲の精霊魔法を放つつもりらしい。

威力はあまり必要ない。

なるべく地味に……されど手早く、ラーニョとやらの数を減らす必要がある。

ラーニョの群れが、二十体ほど俺達の方へと向かって来る。

尖兵がやられたことで、俺を警戒対象として見ているのかもしれない。

だとすればありがたいことだ。

「ここで一気に数を減らし、手分けして他の冒険者の援護に向かいましょう!」

俺がそう言ったとき、背負っているフィリアが大きく腕を振りあげたのが見えた。

空に虹色の光が輝き、ドラゴンが浮かび上がった。

緑色に、赤い根のような模様が広がっている。

大きな翼に、禍々しい爪。

その姿に俺は見覚えがあった。

仮面こそ被っていないが、前回俺と戦ったときにゾロフィリアが取った姿に間違いなかった。

確か、ノーツが《始祖竜ドリグヴェシャ》と呼んでいた姿だ。

ラーニョが大量に現れた時以上の悲鳴が辺りに広がった。

ポメラも大杖を構えた姿勢のままでその場に凍り付き、唐突に現れたドラゴンを見上げていた。

「フィ、フィリアちゃん、落ち着いて……! ちょっと待って! できれば一回消して!」

「始祖竜、どーん!」

フィリアが腕を振り下ろす。

ドラゴンがラーニョの溜まっている地面へと急降下した。

大地が大きく抉れ、辺り一帯に地震が起こる。

「フィリア、凄いでしょ? 褒めて! 褒めて!」

フィリアがきゃっきゃと腕を上下に振るう。

俺は顔を両手で覆ってその場に立ち尽くしていた。

……多分、フィリアは俺がポメラに呼び掛けた言葉に対し、自分もその対象に入っていると思って喜んで行動に出たのだろう。

ドラゴンの姿はすぐに薄れて消えていった。

他の場所にいたラーニョ達も、危険を察知したらしく、交戦を止めて地面へと潜って逃げて行った。

そこまではよかったが……ついでに、他の冒険者達もパニックになっていた。

「今……何が起きたんだ!?」

「ドラゴンがいたぞ! 今すぐここを逃げた方がいいんじゃないか!」

こんなところで冒険者が散り散りになったら、各方向に逃げた冒険者は勿論、残された商人や一般人達もパニックになる。

「お、落ち着きましょう! とりあえず、ドラゴンは消えたようですし……!」

俺が大声で他の冒険者に呼び掛けてはみたが、一向に落ち着く気配が見えない。

どうしたものかと思っていると、一人の高齢の冒険者の男が、俺達に向かって頭を下げた。

「まさか、貴女様の召喚精霊であったとは! 聖女ポメラ様!」

「……ふぇっ?」

大杖を掲げた姿勢で硬直していたポメラへと、周囲の視線が一斉に集中した。

都市アーロブルクでの一件と、ドラゴンが現れた際に丁度杖を構えていたせいで、どうやら彼女が呼び出したらしいと、男は勘違いしてしまったらしい。

「あ、あの、あの……ごめんなさい! ポメラにも、何が何だか……えっと、えっと……」

その場でおおっと歓声が上がり、拍手が響き渡った。

人目が集まることに慣れていないらしいポメラは、顔を真っ赤にしてあたふたとしていた。

……ポメラには本当に申し訳ないが、とりあえずこの場の混乱を抑えるためにはこの流れに便乗した方がよさそうだった。

俺は表情を殺し、内心で謝罪しながら周りに合わせてポメラへ拍手しておいた。

フィリアも事態を知ってか知らずか、俺に合わせて笑顔で楽しそうに手を叩いていた。