軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一話 《神の見えざる手》

カナタ達のいる大陸の北部には、どこの国も領有していない、広大な土地があった。

強大な魔物が蔓延っており、人がまともに侵入できる地ではないのだ。

こういった土地は、ロークロアの世界には多く存在する。

ロークロアは基本的に、常に魔物が人間よりも優勢であるように調整されている。

この世界で人間が滅ばずにいられるのは、この世界を玩具にしている上位神達が、紙一重で人類が存続できるように制御しているからに他ならない。

こういった人間のまともに侵入できない、広大な土地が纏めてダンジョンと化している未開の領域を、人間は魔物領と呼んで恐れていた。

この大陸北部、魔物領の奥地に、巨大建造物が建っている。

《神の腕》と、この塔の所有者である男は、ここをそう呼んでいた。

「ふむ、百年振りになるか……我ら《神の見えざる手》の《五本指》が、こうして一堂に揃うなどとな」

《神の腕》の内部にて、王座に座る男がそう口にした。

男は顔を円形の仮面で隠しており、頭には王冠を被り、荘厳な衣装を纏っていた。

手には黄金の輝きを帯びた、巨大な杖がある。

《神の見えざる手》、それは上次元の存在である神に認められた者達五人によって構成される組織であり、このロークロアの世界における真の支配者達であった。

彼ら《神の見えざる手》は決して表には出ない。

それは上次元の存在の意向でもあった。

しかし、彼ら一人一人が、その気になれば世界の行く末を左右できる力の持ち主である。

この世界を上次元の存在の望む姿へ修正するための、強制力そのもののような組織であった。

「《世界王ヴェランタ》よ、他の雑魚共を集めるのは結構。だが、この儂までわざわざ呼ぶとは、いったいどういうことじゃ? 相応の理由があるのだろうな? もし、くだらぬ用事であれば、ここでヌシを斬り殺すぞ」

王座の男、ヴェランタへとそう言ったのは、三メートル近い巨体の男であった。

前髪を後ろに撫で付け、髷を結った特徴的な髪型をしていた。

派手な甲冑を纏っており、三本の巨大な刀を背負っている。

顔は鬼のように醜悪な凶相であり、特にその真っ赤な眼光は、人外の気迫があった。

「百年前も、そなたは来なかったか。《第六天魔王ノブナガ》よ。あまり勝手が過ぎれば、我々がそなたを消すことになるのだぞ。世界の流れ……上位存在の御前では、いかにそなたとて抗えはせんのだ。それはそなたが、一番理解しているはずだ。かつて世界を統一しようと本気で志し……夢半ばに我らに敗れた、ヤマトの王よ」

「チッ、一対一であれば、ヌシら如き儂の敵ではないというのに」

「ふむ、だがノブナガ、我の見立てでは、そなたはこの五人の中で、せいぜい二番目といったところか」

「ヌシの方が上だと? 戯けたことを」

ノブナガは一層とその凶悪な相貌を歪め、不快感を露にする。

「それは、どうだろうな」

ヴェランタは、ちらりと別の人物へ目を向ける。

全身に魔術式の刻まれた黒い大きな布を被っており、一切素肌を外に晒していない。

《沈黙の虚無》の二つ名を持ち、ゼロと呼ばれている。

こうした集会の場でも全く自己主張を行わない。

ゼロはノブナガよりも古くからおり、ノブナガはゼロのルーツを全く知らなかった。

声も聞いたことがないのだ。

「あんな奴が、この儂より上じゃと……?」

老人の姿なのか子供の姿なのか、黒い布に覆われたゼロの姿は小柄であった。

武人のものではない。

ゼロはヴェランタとノブナガのやり取りを前に、微動だにしない。

全く関心がない、というふうであった。

「とっとと話を進めてもらえないかしら? 私、誰が強いだとか、そんなガキ臭い争いに興味はないのよ。ヴェランタ、大事な用事があったんでしょ? 神託?」

長い耳を持つ、軽装の女が口を挟む。

《世界の記録者ソピア》の二つ名を持つ、長寿のハイエルフであった。

ロークロア誕生より一万年以上の年月を生き、この世界で起こった全ての歴史を頭に正確に覚えている。

正に世界の記録とでもいうべき存在であった。

「神託が下った。魔法都市マナラーク……そこにいる、カナタ・カンバラという名の転移者を殺せ、とのことだ。手段は一切、問わないとな」

「何……? 神託が、そんなに具体的に、一個人を示しているじゃと? どういうことじゃ、ヴェランタ。儂らが直接は転移者に関与しない、それが上次元より押し付けられた、絶対の規則ではなかったのか」

「我にもさっぱりだ。いつもはもっと遠回しなのだがな。だが、一つわかることがある。手段は一切問わない……我々が直接手を下しても、構わないということだ。何をしでかしたかはわからないが、こいつは明確に上次元の存在を敵に回したのだな。そしてここまで言うということは、我々がそこまでせねばならん相手ということだ」

ヴェランタの言葉に、ノブナガは悪鬼の笑みを浮かべる。

「面白い、興が乗ったわい。儂にやらせろ」

「いや、ノブナガ、そなたは壊し過ぎる。そなたがムキになれば、大陸一つ、焦土になりかねん」

「この儂を呼びつけておいて、よくぞそんなふざけたことを申せたものじゃな。ならば、呼ばねばよかったじゃろうて」

「偵察を兼ねて、まずは《空界の支配者》に向かわせる。相手の情報が少なすぎるのでな」

ヴェランタはそう言って、上方を見上げる。

黒い輝きを放つ鱗に、二又の尾。

巨大なドラゴンが浮かんでいた。

このドラゴンもまた《五本指》の一角であった。

『お任せを、親愛なる《世界王ヴェランタ》よ。キヒヒ……だけど、そう身構える必要があるかな? 今……露払いの下僕として、二体のドラゴンを飼っている。あの子らだけで、マナラークごと焼き殺してやろうじゃないか』

ドラゴンより、思念波が放たれる。

「それは心強い。今回は転移者相手だ。念のため、例のクリスタルを持っていくといい。我が開発したものを渡そう」

『ふうん? そんなのが必要になる事態が来るとは思わないけど』

「そなたには百年前の失態もある。それを返上できる働きを期待している。上次元の存在からの評価では、そなたが一番下かもしれん。ここで取り返しておかねば、入れ替え候補になるかもしれない」

『随分と言ってくれるものだね。ドラゴンの、王の中の王に。気を遣って手柄を譲ったつもりなら、見下されてるみたいで気に入らないな。ま……仕事はしっかりやってみせるさ。そう難しいものだとは思えないしね』

その思念波を聞き、ノブナガが鼻で笑った。

「フン、確かに、《空界の支配者》如きでどうにかなる相手であれば、儂の出る幕はなかろうて。だが、ヴェランタよ。もしそこの蜥蜴でどうにもならぬ相手であれば、次は儂がゆくぞ」