軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十一話 後日談

《赤き権杖》騒動が終わり、その二日後。

俺はポメラ、フィリアと共にマナラークを歩き、ガネットへ会いに《 魔銀(ミスリル) の杖》の本部へと向かっていた。

「なんでポメラばっかり、いつもこんなことになるんでしょう……」

ポメラが肩を落とし、そう口にした。

ここ二日間で、またマナラークでポメラを英雄視する声が大きくなっていた。

マナラーク中を回って怪我人を治療していたことは勿論、《黒の死神ロヴィス》を追い返し、破壊された建物を白魔法で治癒して再生し、果てには《人魔竜》の一角であった《屍人形のアリス》を杖の一撃で殴り殺したことになっていた。

「ポメラ、かっこいい! すごい!」

フィリアがきゃっきゃと嬉しそうに燥ぐ。

「ありがとうございます、フィリアちゃん。でもポメラは、あんまり嬉しくありません……」

「ポメラさん、建物を再生したんですか?」

「そんなわけないじゃありませんか、カナタさん……。それは……」

ポメラはそこまで言って言葉を止め、怪しむように目を細めた。

「どうしたんですか、ポメラさん?」

「いえ、あの……カナタさん、お知り合いに、すっごい美人な方がいらっしゃいますよね? その方のこと、ポメラに隠していませんか?」

「え……?」

突然聞かれて混乱した。

地上に出てから、俺が真っ先に会ったのはポメラだ。

コトネやロズモンドも美形に入る部類だと思うが、彼女達のことは当然ポメラも知っている。

まさか、ロヴィスの仲間にいた女の人のことだろうか?

「どうして誤魔化そうとするんですか、カナタさん?」

ポメラがずいと、俺に顔を近づけてくる。

「い、いえ、誤魔化すも何も……」

「ポメラ、こわーい!」

何故かフィリアが嬉しそうにきゃっきゃと燥いでいた。

「白髪の人ですよ。毛の先が少し赤くなってる、オッドアイの……」

「あっ、ルナエールさんですよ! よかった……あの人、まだマナラークにいたんですね」

前回、蜘蛛の魔王を倒した際に会った後、もしかしたら《 地獄の穴(コキュートス) 》に帰ってしまったのではないかと思っていたのだ。

しかし、どうやらまだこの都市に残っていたらしい。

ポメラがルナエールと接触しているとは思わなかった。

「ルナエール……って、カナタさんの魔法の師匠で、命の恩人の方でしたよね?」

「ええ、少し前にポメラさんにも話しましたよね。そうですか、ルナエールさんに会ったんですか。何を話したんですか?」

俺がそう尋ねると、ポメラの表情が一気に曇った。

俺は何か間違えただろうかと首を傾げた。

「……カナタさん、以前、ルナエールさんのこと、八十歳のお婆さんだって言っていましたよね?」

「えっ、いえ、そんなことは……」

ふと、記憶が蘇ってきた。

確かに言った。千歳と言い掛けて、リッチであることを明かすべきではないと思い、八十歳に修正したのだ。

「言いました……」

「ほら、言ったじゃないですか! 言ってるんじゃないですか! どうしてポメラにそんな嘘吐いたんですか! 白状してください!」

「す、すいません、それは少し説明し辛いのですが、理由があって……。で、でも、別にそんなに怒らなくてもいいじゃないですか」

「怒ってません! 聞いているだけです! しっかり説明してください!」

「そ、それは、今は……」

「何でですか! 何を誤魔化そうとしていたんですか!」

や、やっぱり怒っている。

俺は助けを求めて、フィリアを見た。

フィリアは俺とポメラの様子を楽しげに眺めていた。

「カナタ殿にポメラ殿、フィリア殿よ。よく来られましたな。姿が見えたので、お出迎えに」

ガネットが俺達に声を掛けてきた。

ポメラは顔を赤らめ、恥ずかしそうに俺から身を引いた。

「す、すいません、カナタさん……。ちょっと、興奮していました」

俺はお礼の意味を込め、ガネットに小さく頭を下げた。

ガネットは小さく親指を立て、笑みを浮かべた。

やはりポメラの様子を見て、俺が困っていると見て飛び込んできてくれたらしい。

「以前に頼まれていた代物、揃っております。こちらは後で、宿の方に送らせましょうか?」

「お気遣いありがとうございます。ただ、時空魔法で収納できますので、そのままいただきます」

ついに以前頼んでいた、《神の血エーテル》の細かい素材が集まったらしい。

これで《神の血エーテル》の量産に入り、ポメラの《歪界の呪鏡》を使ったレベル上げができるようになるはずだ。

「それから《精霊樹の雫》ですが……こちらも品質確認できました。量が量なので全てを一気に売ろうとすれば値崩れしてしまうのですが、ちょっと時間を掛ければ前回の分で二億ゴールドにはなるかと」

ガネットが声を潜めて口にする。

「にっ、二億ゴールドですか!?」

周囲の通りすがりの人達がぎょっとしたように俺達を見る。

俺は慌てて声を潜めた。

「す、すいません、つい……」

それなら金銭面の問題は大体解決してしまう。

本当にウルゾットルには感謝しなければならない。

……今度、高級肉でも用意して呼んであげよう。

「それから、カナタ殿に協力していただいたコトネ殿の漫画についても、既にマナラークの市場に回しておるのですよ」

「も、もうですか!?」

「ええ、まだ試験的にではありますが、既に二作とも出回っているはずです。関係者間での評判もよく、これはブームになるかもしれませんな。カナタ殿の協力がなければ難しかったはずです。こちらの謝礼もまた払わせていただきます」

ガネットの行動は本当に早い。

暗いマナラークに明るい話題を用意したいので急ぐとは言っていたが、まさかこんなすぐに形にして流通にも乗せてしまうとは思わなかった。

「俺の協力なんて微々たるものですよ。コトネさんの夢を形にしてくださって、ありがとうございます」

「いえいえ、コトネ殿も、きっと喜んでくださることでしょう」

ガネットは本当に嬉しそうに笑った。

俺も協力してよかったと、そう思った。

「……ん? 二作? いえ、一作だけでは?」

「ほら、ちょっとした短い、少年の友情……というのは些か歪に思えましたが、そういうものを取り扱ったものがあったでしょう。なんだかちぐはぐで未完成品にも思えたのですが、妙に一部の《 魔銀(ミスリル) の杖》の職員から評判がよく、ぜひ表に出すべきだと言われましてな。カナタ殿より聞いた話を元に、形にしてこっちも市場に流すことにしたのです」

俺は顔を手で覆った。

コトネも、あれは自分で楽しむためのものであって、絶対に表には出したくなかったはずだ。

そもそもこの世界にはない漫画の二次創作なのだから。

「い、いけなかったですかな?」

「……どちらかといえば、よろしくはないかなと」

そのとき、遠くで地面を蹴るような音が響いた。

目を向けて、俺は呆気に取られた。

綺麗な黒髪に、華奢な体躯、特徴的な金属の籠手。

見間違えようがなくコトネであった。

ただ、普段はクールな彼女の顔は真っ赤になり、瞳には涙が溜まっていた。

「コトネさん、目を覚ましたんですね!」

俺も、自然と涙が溢れてきた。

コトネが目を覚ますことは、もうないかもしれないと、正直そう考えていた。

コトネはガネットを睨み付け、籠手を纏った腕を大きく引いた。

俺は血の気が引くのを感じた。

S級冒険者のコトネが本気で殴り掛かれば、ガネットはひとたまりもない。

間に入り、コトネの手首を掴んだ。

「お、落ち着いてくださいコトネさん! どうしたんですか! まさか、《 人形劇(パペットコフィン) 》の影響がまだ……!」

コトネの逆の手が、俺の首を絞め上げた。

「カッ、カカ、カナタも! カナタも! 私が外に出す決心をするまで、隠してくれるって言っていたのに! よりによって、なんでアレまで!? アレがどういうものなのか、見たならきっとわかってたはずなのに!」

やっぱり漫画のことだった。

せめて、もう少し外に出すのは遅らせるべきだった。

いや、ボーイズラブ漫画だけでも、もっと強く俺が止めておくべきだったのだ。

「すいません、コトネさん……本当にすいません!」

「謝られたって、謝られたって、もう、どうにもならない……! 誰にも知られたくなかったのに! 貴方達を殺して私も死ぬ!」

「本当にすいませんコトネさん!」

コトネはボロボロと目から涙を流し、俺の首に掛ける握力を強める。

「おっ、お止めくださいコトネ殿! 儂が、儂がいけないのです! カナタ殿はお許しを!」

「止めてくださいコトネさん! カナタさんを放してあげてください! よ、よく事態はわかっていないですけど、話し合いしましょう、話し合い!」

ガネットとポメラが、必死にコトネにしがみついて俺から引き剥がしてくれた。

どうやらコトネの他の二人、ガランとバロットも目を覚ましていたそうであった。

三人共、突然起きたとのことで、彼らの治療に当たっていた魔術師も首を捻っていた。

理由は全くわからなかったが、とにかく俺は、コトネが無事であったことが嬉しかった。

……後日、コトネのボーイズラブ漫画は回収され、メインであった方の漫画はマナラーク内で大きな流行となったのだが、コトネが素直に喜んでいるかはわからなかった。

俺とガネットがどれだけ会いに行っても、一週間程部屋に引き籠り、出てきてくれることはなかった。