軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六話 お節介な先輩

ウルゾットルから無事に《精霊樹の雫》を入手した俺達は、魔法都市マナラークの宿へと戻っていた。

宿の部屋に入った俺は、《神の血エーテル》の最後の素材を集めるべく《歪界の呪鏡》の世界に単身で挑み、高位悪魔を数体仕留めてから外へと出た。

「カ、カナタさん! 大丈夫ですか!」

俺の姿を見て、ポメラがあわあわと手を動かす。

「ケホッ、やられました。ちょっとハズレを引きましたね」

《歪界の呪鏡》の悪魔は手強い。

本当に手強い。

たまにこれまで見たこともない変わった性質を持つ悪魔が出てきたり、これまで確認していた上限レベルを余裕でぶち抜いていくような悪魔が出てくることもある。

俺でも未だに油断は禁物である。

「では、例の素材は手に入らなかったのですか?」

俺は魔法袋より、巨大な瓶を出して手に抱えた。

中には色彩豊かな、奇妙な臓物のようなものが詰まっている。

目玉らしきものも浮かんでいる。

「脳髄を回収していたら、その隙を突いて死骸からこれが出てきたんです。いえ、本当に死ぬかと思いました」

俺は瓶の中の、黄色い螺旋状の脳髄を指で示す。

「な、なるほど……無事に倒せたみたいで、何よりです……」

ポメラが引き攣った表情で頷いた。

「わぁっ! ねぇ、カナタ、これ甘い? 甘い?」

フィリアが目を輝かせて尋ねてくる。

「う~ん、どっちかというと苦いですね」

「そっか……」

フィリアが肩を落とす。

確かに日本では食玩というか、こういう子供向けの、カラフルなグミのお菓子があったような気もする。

「材料は足りているはずですし、早速錬金実験を始めてみましょう」

《神の血エーテル》の主材料は《高位悪魔の脳髄》に《精霊樹の雫》、《アダマント鉱石》である。

錬金魔法による物質の変化を大幅に促進させる、究極の触媒である《夢王の仮面》もある。

きっと上手くいくはずだ。

「《 異次元袋(ディメンションポケット) 》」

俺は魔法陣を展開し、その中央に手を突き入れて、大釜やら、材料としてガネットに集めてもらっていたものやらを引っ張り出していく。

「い、今から作るのですか!? ここで!?」

「他に場所もありませんから。大丈夫ですよ、《アダマント鉱石》を錬金したときのように、結界魔法を使います」

「前も結構危なくなかったですか……? それに、それを使うのでしたら、前回よりもっと大変なことになる気がするのですが……」

ポメラが不安げに《高位悪魔の脳髄》の詰まった大瓶へと目を向ける。

「大丈夫ですか? それ、何かに反応して大爆発したりしませんか?」

「しませんよ。脳みそですよ?」

「いえ、しかし……悪魔のあの出鱈目加減を考えると、何が起こってもおかしくないのかなと、ポメラはそう思ってしまうのですが……」

「さすがにそういうものではありませんから。安心してください」

俺は苦笑した。

ポメラは前回、《アダマント鉱石》を錬金した際に部屋が吹っ飛びかけたのを恐れているのだろう。

あれは俺が究極の触媒《夢王の仮面》の扱いに慣れていなかったための事故だ。

予想を遥かに超える反応速度により、予期せぬ膨大な熱量が生じたのだ。

《夢王の仮面》は使い方次第で簡単に永久機関ができるのではなかろうか。

俺には無理だが、ルナエールに見せればあっさり作り上げてしまうかもしれない。

さすがはかつて世界に幾度となく戦禍を齎した、錬金術師の夢のアイテムだけはある。

何にせよ《夢王の仮面》の尋常ではない威力は確認したので、もうあんな失敗を犯しはしない。

「フィリアちゃん、仮面お願いします」

「はーい!」

「ポメラさんは音を消す精霊魔法をお願いしますね」

「……わかりました、ポメラも共犯者になります。カナタさん、牢までお供しますね」

ポメラが袖で涙を拭って口にした。

「だ、大丈夫ですよ! 別に、そう後ろ暗いことをするわけでもないのですから、そんなに覚悟を決めなくても……」

そのときドンドンと、雑なノックの音が聞こえた。

俺とポメラは背を跳ねさせ、咄嗟に口を固く閉じた。

フィリアだけが大きな瞳を瞬かせて「お客さん?」と呟いていた。

「カッ、カナタさん、どうしましょう! くっ、口封じするのですか? 見逃してあげてください!」

「お、落ち着いてくださいポメラさん! 別に後ろ暗いことをしているわけではありません。とりあえず、見られたら不味いものを片付けましょう!」

「なんだか矛盾していませんか……?」

別に悪いことをしているわけではない。

しているわけではないが、《夢王の仮面》は何度も戦争を引き起こしてきた大戦犯アイテムであるし、《アダマント鉱石》も入手ルートを訪ねられたら説明のしようがないし、《高位悪魔の脳髄》なんて言語不要の一目見てヤバイと分かる代物だ。

全部人目につかないに越したことはない。

俺は床を蹴って素早く《高位悪魔の脳髄》の詰まっている大瓶を手にした。

その瞬間、宿の扉が雑に開かれた。

山羊仮面が現れた。

重鎧の上に黒い外套を纏っている。

「いるならばいると、とっとと返事をせよ。我がわざわざ忙しい中、様子を見に来てやったのだからな」

山羊仮面をずらす。

赤い模様の描かれた素顔が露になった。

ロズモンドである。

彼女は呆れたようにそう口にした後、部屋の中を見回す。

「貴様……なんだ、そのきっしょく悪い臓物のようなものは?」

ロズモンドが、俺の手にした《高位悪魔の脳髄》に目を向ける。

「こ、これは、こういう他国のお菓子なんです」

「趣味の悪い」

ロズモンドは眉を顰めてそう口にした。

ど、どうにか誤魔化せた……。

俺は大きく息を吐いた。

その後、大釜やアイテムを全て《 異次元袋(ディメンションポケット) 》で回収した。

「きゅ、急に扉を開けないでください、ロズモンドさん」

「ならばとっとと返事をせよ。さっきも口にしたが、我も暇ではないのだ。そんな中、わざわざ貴様らに忠告するために、宿を調べて来てやったのだ。感謝されこそ、文句を口にされる覚えはない」

ロズモンドはハンッと小ばかにしたように笑う。

横暴な……と思ったが、ロズモンド、本当に忙しい中、わざわざ俺達の宿まで調べて、何か忠告するためだけに来てくれたのか。

口振りが悪いのでつい反感を持ってしまったが、この人結構お人好しなのではなかろうか。

「……それは、すいません。もてなしの準備もなくて申し訳ないです」

俺は頭を下げる。

「調子が狂う……」

ロズモンドが息を吐きながら額を押さえる。

「それで、忠告というのは……?」

「魔王騒動は片付いた。だが、今、このマナラークには不穏な風が再び吹き始めておる」

「不穏な風?」

「ああ、そうだ。そしてそれとは別に、貴様ら、何かやらかしたか?」

俺は顎に手を当てる。

何か、不味いことをしただろうか。

ウルゾットルとの契約は関係ないはずだ。

あまりに嗅ぎつけてくるのが早すぎる。

「《 軍神の手(アレスハンド) 》だ。奴は異常に無口で、他者とほとんど関りを持たん。都市の危機にもあまり関心を示さぬ。多くの富を抱えているはずだが、平時奴がどこで何をしているのかは謎が多い。表向きは狸爺に従っているが、信用ならん人物だ。魔王騒動には一応出てきたが、どこまで本気だったのかは怪しいと我は睨んでいる」

「なるほど……」

《 軍神の手(アレスハンド) 》……コトネ・タカナシ。

俺と同じ異世界転移者だ。

しかし、それが俺にどう関係あるというのだろうか。

「《 軍神の手(アレスハンド) 》が貴様らについて調べ回っている。奴がここまで表立って自発的に動くのは本当に稀なのだ。恨みでも買ったのではなかろうな?」