軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五話 《精霊樹の雫》

「これで、よしと……」

俺の腕に狼を模した青い紋章が浮かび、溶けるように消えていった。

精霊が認めてくれて、本契約が完了した証だ。

紋章は見えなくはなったが、俺の身体の内の魔力には焼き付いている。

ウルゾットルはこの紋章を辿り、俺の許へと来ることができる。

要するに、次から好きなときにウルゾットルの力を借りることができるということだ。

ウルゾットルとの本契約が終わったところで、俺は早速ウルゾットルと交渉してみることにした。

《神の血エーテル》の材料である《精霊樹の雫》を得るのが元々の目的であったのだ。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

【精霊樹の雫】《価値:A級》

精霊の世界に聳え立つ巨大樹、ユグドラシルの雫。

あらゆる精霊の源であるともいわれている。

高い癒しの効果があり、錬金魔法においても重宝される。

精霊王よりユグドラシルに住まうことを許されている高位の精霊と契約を結び、彼らとの交渉を経て手に入れることができる。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

《精霊樹の雫》は高位精霊であれば入手できるはずのものだ。

元々A級なので極端に入手ハードルの高いアイテムではない。

頑張れば現地のA級冒険者でも手に入る代物であるはずだ。

であれば、レベル2000越えのウルゾットルであれば手に入れることは容易いだろう。

「ハッハッ!」

ウルゾットルは丁寧に座った姿勢のまま、二又の尾をブンブンと振るっている。

知性はそれなりに高いはずだが、言葉は通じるのだろうか……?

「カ、カナタさん、無理はしないでくださいね? ポメラみたいに、魂を持っていかれますよ」

ポメラは俺からやや離れたところで、俺とウルゾットルを見守っている。

「いえ、ポメラさんもちょっと魔力を抜かれただけだと思うのですが……」

ポメラが舐められた後、ウルゾットルに舐められると最悪魂を持っていかれるらしいと教えたのだが、あれですっかり脅えてしまったらしい。

黙っておいた方がよかったかもしれない。

……いや、ウルゾットルは危険なことには間違いないのだし、さすがに黙っておくわけにはいかないか。

「き、牙、あんなにおっきい……怖い……」

フィリアもフィリアで、どうにも犬が駄目らしく、依然ポメラの背にしがみついて震えている。

そもそもゾロフィリアとして俺と戦ったときのように、《夢の砂》を使って四人の俺に化けて叩けば、間違いなくフィリアの方が強いはずなのだが……。

「フゥ……」

ウルゾットルが残念そうに彼女達を眺め、尾を垂らした。

寂しがりやらしいので、彼女達とも仲良くしたいと思っていたのだろう。

「あの、ウルゾットルさん、お願い事があるのですが」

ウルゾットルは俺へと目線を戻した後、瞼を閉じてぷいっと横を向いた。

あ、あれ……?

「ウルゾットルさん?」

目を瞑ったまま露骨に欠伸をして、座っていた姿勢を崩して床に寝そべった。

な、なんで……?

「えっと、ウルゾットルさん……」

ぱたんと三角の耳が閉じた。

俺の言葉を聞くつもりがないと、あからさまにそういうポーズだった。

「何か、失敗したでしょうか?」

俺はポメラへと向いて相談した。

ポメラが恐々と俺へと近づこうとして、フィリアにぐいぐいと裾を引かれていた。

ポメラは眉根を寄せ、困った表情を浮かべる。

ひとまず機嫌を取ってみよう。

俺はウルゾットルの頭を撫でてみた。

「フゥ……」

ウルゾットルは声を漏らすが、すぐに口を閉じる。

尾が地面を這うようにそろりそろりと揺れていたが、目を向けるとピタリと動きを止めた。

何か気に食わないことがあって、わざと拗ねているようにも思える。

俺が額に手を当てて考えていると、ポメラが「あっ!」と声を出した。

「あっあの、もしかしたら、呼び方じゃないですか?」

「呼び方……?」

確かにウルゾットルさんと呼んでから、露骨に不機嫌になった気がする。

ウルゾットルはただの種族名だ。

そのまま呼ぶのはあまりよくなかったか。

それに……見かけに寄らず、人懐っこい性質のようだ。

余所余所しいのはあまり好きではないのかもしれない。

「ウル、お願い事があるのですが……」

ウルゾットルは俺へと首を上げると口を開き、また激しく尾を振り始めた。

随分と嬉しそうだ。

「フッ、フッ!」

……ウルゾットルの外観は怖いが、思った以上に中身は犬だった。

「ユグドラシルから、《精霊樹の雫》をもらってきてほしいのですが、できますか?」

「クゥ」

ウルゾットルは座った姿勢になり、こくこくと頷いた。

おお、動きに迷いがなかった。

やはりウルゾットルであれば、《精霊樹の雫》を手に入れることは難しくないのだ。

よかった、これで《神の血エーテル》の素材が集まる。

「では、ウルにお願いしたいのですが……」

俺が言うと、ウルゾットルはじっと物欲しそうな目で俺を見つめる。

……やはり、ただというわけにはいかないのだ。

《アカシアの記憶書》にも『彼らとの交渉を経て手に入れることができる』と記載されている。

《精霊樹の雫》は精霊界でもそれなりに貴重なアイテムなのだ。

持ってきてもらうには、何らかの対価を払わなければならないのだろう。

お金、じゃ駄目だよな……。

やはり無難なのは食糧か。

何にせよ一度街に戻って調べ直した方がよさそうだ。

ガネットは《精霊樹の雫》を持ってはいなかったが、きっと見たことくらいであればあるはずだ。

直接の知識がなくとも、詳しい人物くらいならば教えてくれるかもしれない。

ルナエールなら絶対知っているはずなのだが、次会えるのがいつになることやらわかったものではない。

俺はマザーの躯の前で顔を合わせたときのことを思い出し、はあと息を吐いた。

次こそは、どうにか逃げられないようにしなくては……。

しかし、ようやく最後の必須素材が見つかるかと思ったが、もう少し時間が掛かりそうだ。

「……ん?」

ウルゾットルはごろんと横になり、お腹を俺へと晒した。

それからチラッ、チラッと俺へと目をやる。

俺は屈んで、ウルゾットルの青白いお腹を撫で回してやった。

「クゥン、クン! クゥン!」

ウルゾットルが心地良さそうな声を上げる。

二十分ほどそうしてじゃれ合っていただろうか。

ウルゾットルが急にしゃきっと立ち上がると、光に包まれてその姿を消したのだ。

少し時間を置いてから再度召喚すると、口に大きな袋を引き摺って姿を現した。

俺を見ると袋を口から落とし、ブンブンと尾を振るう。

一応《アカシアの記憶書》で調べてみたが、確かにこれが《精霊樹の雫》のようだった。

対価、お腹を撫でることでいいのか……?

つ、次は、肉なり何なり用意しておいてあげよう……。