作品タイトル不明
第079話 嫌ですー、最悪ですー
周囲の薬草を採取し終えると、イレーネが立ち上がった。
「ふう……腰にくるわね」
俺もちょっと痛い。
「あとで回復魔法をかけましょう。それよりこれからどうしますか? 結構、奥に来てますけど」
リーエがそう言うと、イレーネが懐中時計を見る。
「うーん……2時半ね。微妙な時間。それに……」
イレーネが空を見上げたので俺とリーエも見上げる。
午前中は快晴だったのだが、今は曇っている。
しかも、ちょっと厚い雲であり、森の中がちょっと暗くなっていた。
「雨雲か?」
「っぽいわね。オークを倒せたし、成果としては十分よ。ちょっと早いけど、引き上げた方が良さそう」
「そうするか」
「では、戻りましょう」
俺達は引き返すことにし、魔物を避けながら来た道を引き返していく。
そして、リーエが魔力を込めた石が落ちている街道まで戻ってきたのだが、雲がさらに厚くなり、周囲はかなり暗くなっていた。
「気圧が下がっている気がするな」
「これは降るわね」
「あっ……」
空を見上げていると、ぽつりと頬に水滴が当たった。
「降ってきたな」
「外套です」
リーエが外套を取り出し、渡してくれる。
急いで羽織ったのだが、雨が本格的に降り出してきた。
「急ぎましょう」
俺達は小走りで町に引き返す。
すると、森を出た時にはかなり強い雨になっており、前方にあるはずの町が見えないくらいになっていた。
「ひえー……水は嫌いですー。ホムンクルスは水がNGなんですー」
聞いたことねーよ。
「溺れることはないから安心しろ」
「どちらにせよ、嫌よ」
俺達は走るスピードを速め、町に戻った。
町はあれだけ人がいたのに道を歩く人はほぼいない。
よく見ると、店の中には大勢の人がおり、皆、避難しているようだった。
「ギルドに急ぎましょう」
「明日で良いじゃないですかー」
リーエって水のことになると、急に精神年齢が下がるんだよな。
「明日は出るでしょ。魔石は別のところに売るでも良いけど、頼まれていた薬草は納品しないと」
「じゃあ、急ぎましょう。泣きそうです」
そんなに嫌なのかなと思ったが、俺も嫌なので走って、ギルドに向かった。
そして、ギルドにやってくると、屋根のある入口の前で外套を脱ぎ、水を払う。
「すごい雨ね」
「こんなに降るものなのか?」
スコールみたいだ。
「いや、雨自体は降るし、豪雨になることもあるけど……この時期は珍しいわね」
「そんなことより、早く中に入りましょうよ。べちゃべちゃで最悪です。宿屋に戻って、シャワーを浴びたいです」
水嫌いでもシャワーや風呂は別なんだろうな。
「そうだな」
俺達が中に入ると、大勢の濡れた冒険者達がいた。
「あー、そりゃそうよね」
俺達がそうであるように他の冒険者も帰ってきたんだ。
当然、奥にいた俺達が後だ。
「ミスディレクションはかけてあります。早くしましょう」
リーエが俺とイレーネの尻を押してきたので列に並ぶ。
皆、雨のことや濡れたことを愚痴っているようで絡まれることもなく、俺達の順番になった。
「おかえり。散々だったね」
昨日のおばちゃん受付嬢が苦笑いを浮かべる。
「すごい雨だったな。ウチの子が泣きそうだから早く帰りたい。精算を頼む」
そう言うと、リーエが魔石と薬草を出していく。
「結構な数だね」
「奥に行ったんだ」
「そりゃすごい。それに薬草もかなりの数だ。しかも、ちゃんと処理がしてある」
処理は完璧だ。
俺は見ているだけだったが、イレーネは手先が器用でその辺はばっちり。
「すごかろう?」
「ああ。ちょっと待ってね」
受付嬢が魔石と薬草を持って、奥に向かった。
「雨、止むかしら?」
「どうだろ……」
外は変わらず、ザー、ザーだ。
そのまま待っていると、受付嬢がトレイを持って戻ってくる。
「お待たせ」
明細を見てみると、ゴブリンの魔石が7つで7000ソル、コボルトの魔石が5つで1万500ソル、ウルフの魔石が7つで2万1000ソル、ゾンビが5万6000ソル、オークが5万ソル、そして、薬草が8500ソルだった。
合計16万2500ソルだ。
「確かに」
「明日もやるのかい? 晴れればだけど……」
「いや、明日にはここを出る予定だ……大丈夫だろうか?」
皆が外を見る。
雨の勢いはまだ落ちていない。
「多少の雨ならキャラバンも行くんだろうけどね……こればっかりはわからない」
ダリアと相談してみるか。
「わかった。ちょっと予定はわからないし、今日は帰るわ」
「ああ。薬草、ありがとうね」
俺達は後ろにも列ができていたので早々にギルドを出た。
「雨だな」
「本当に大丈夫かしら?」
「わからん。リーエ、帰るぞ」
「ええ。さっさと帰りましょう」
俺達は外套を羽織ると、走って宿屋に戻る。
「ふう……」
「ひどい目に遭ったわね」
「ホントですよ」
外套を脱ぎ、水を払うと中に入った。
「おかえり。大変だったね」
受付にいる女将さんが苦笑いを浮かべる。
「すごい雨だな」
「こんな雨、雨季でも降らないよ。お疲れさん」
「ああ。ダリアは帰っているだろうか?」
「帰ってるよ。あの子も慌てて帰ってきた」
皆、そうだろうな。
「ちょっと明日のことで相談がしたいんだが、呼んでくれるか?」
「明日、出発だっけ? この雨は微妙だねー……ちょっと待ってな」
女将さんが立ち上がり、奥の通路に向かった。
「リーエ、先に部屋に戻って、シャワーを浴びて良いぞ。ついでに暖炉に火をつけておいてくれ」
「わかりました」
リーエは頷くと、さっさと2階に上がっていった。
「あの子、なんであんなに水が嫌いなのかしら? 最初の時も池に落ちて騒いでいたわよね?」
転移してきた時な。
イレーネの屋敷の庭にある池に落ちたのだ。
「泳げないということが影響しているんだろうが……わからん」
そもそも内陸部だから泳ぐという発想もない。
「変な子」
それはそう。