作品タイトル不明
第045話 奥さんですって
「イレーネ、あの世で一緒になろう」
「うん」
俺はイレーネを抱え、リーエと共に屋上から飛び降りた。
そして、フライを使い、ゆっくりと降下していく。
降下していく……降下……あれ? フライが発動しないぞ?
え?
地面が迫ってくる。
そして、はっとなった瞬間に目が覚めた。
「夢、か……」
本当にあの世に行くバカがいるか……
「おはようございます。ようやく起きられましたね」
身体を起こすと、テーブルにつくリーエがいた。
確認のために2つ隣のベッドを見ると、イレーネがすやすやと眠っていた。
「ふう……生きてるか」
「イレーネさんが死ぬ夢でも見ましたか? 縁起が悪いですよ」
「すまん。あの屋上から落ちる夢だ。俺もお前も死んでると思う」
「よりひどいですね」
まさか翌日に見ることになるとは。
「今何時だ?」
「11時です」
5時間近くは寝たか。
「まだ寝られるが、まあ、起きるか」
ベッドから降りると、テーブルにつく。
「リーエは寝られたか?」
「ええ。やっぱりお布団ですよね」
「――ふわーあ……あれ? 2人共、もう起きたんだ」
イレーネが身体を起こし、腕を伸ばす。
「俺もさっきだ」
「ふーん……まだ11時かー……」
「夜に寝られなくなるし、どうせ今日は動かないだろ」
「それもそうね」
イレーネがベッドからこちらにやってきて、席についた。
「体調は?」
疲れもだが、イレーネは魔力障害がある。
「昨日、かなり歩いたし、もう大丈夫。それにあとでまたトランプでもするわ」
スピードか。
まあ、時間もあるし、トランプをして、今日は休もう。
ここまで来たらさすがに今日明日に追手が来るとは思えないし、余裕はある。
「そろそろ昼ですね。朝食という名の昼食をもらってきましょう」
リーエが立ち上がり、部屋から出ていった。
「シャワーでも浴びるか?」
イレーネに聞く。
「今日はいいわ。外に出ないし、このままゆっくりする」
完全なオフだな。
俺とイレーネが待っていると、リーエが料理が乗ったワゴンを運んでくる。
「朝食ですよー」
「昼食だがな」
「朝食です。だから無料です」
すまんな、女将さん。
リーエが料理を並べてくれたので食べる。
メニューはトーストとサラダ、それにハムエッグとスープだ。
朝食と考えると、かなり豪勢である。
「やっぱり値段の割に良い宿屋ね。当たりを引いたわ」
イレーネがもぐもぐと食べながら頷く。
「確かにこれまでの中では一番だな。しかも、ほぼ同じ値段だ」
「たまにこういう宿屋があるのよね。そして、大抵人気なんだけど、空いててラッキーだわ。まあ、3人部屋っていうのも良かったわね。個室は絶対に空いてない」
そういうものかもしれんな。
冒険者パーティーでも男女混合はもちろんだが、同性同士でもできたら部屋を分けたいと思ってしまう。
「値段も安いしな」
「そうね。それぞれ個室だったら倍以上はすると思う」
俺達は朝食(昼食)を食べ終えると、お茶を飲みながら一息つく。
「あー、落ち着くな」
「そうですね。久しぶりにゆっくりできます」
「いや、ごめんね。色々と迷惑をかけたわ」
イレーネが頭を下げる。
「頭を下げるなっての」
「そうですよ。私への当てつけですか?」
そっちじゃない。
いや、そっちもなんだけど。
「リーエもすぐに大きくなるわよ」
「超えてやるー」
頑張れ。
「イレーネ、謝罪はいい。それよりも今後のことを考えようぜ」
大事なのはそこ。
「そうね。まあ、おおまかな道筋を言うと、ここから南下して、コスタリナ王国に入る。そこからさらに南下して、ブレイナっていう港町から船に乗る。それで良いかしら?」
俺達がわかるわけない。
「ああ。任せる」
「知らないですもんね。でも、別大陸に行くというのは賛成です」
俺とリーエが頷く。
「じゃあ、そんな感じね。まずは国境を越えることが第一。ベルクの町に行って、キャラバンを探すわ」
あの商隊か。
「あるのか?」
「行ったことがないから知らないけど、国境近くの町だからあると思っていいわ」
それもそうか。
仲の悪い国らしいが、輸出入をやっていれば、玄関となる国境沿いの町には商人が集まるし、そういうキャラバンもあるだろう。
「わかった。じゃあ、そこに行こう。そこまでは?」
「隣町だし、距離はそんなに離れてないわ。馬車で半日くらいかな? 歩きでも朝早くに出れば、その日のうちに着くと思う。まあ、お姫様抱っこフライになるかもだけど」
日が落ちて、門が閉じた後に着く可能性があるってところか。
「どっちでも良いな。馬車は楽だし、着くのが早い。歩きはトラブルのリスクを減らせる」
「追手は来ないと思われますが、早いに越したことはありません。馬車が良いと思います」
ふむ……
「じゃあ、馬車だな。イレーネ、キャラバンは?」
「どうだろ……うーん……明日の朝、南門に行ってみない? 商人なんかが出発の準備をしていると思うから声をかけてみましょう。ダメなら歩き」
それが良いか。
「わかった」
「良いと思います」
俺とリーエが再び、頷く。
「じゃあ、そんな感じで。私が捕まっちゃったから聞いてないんだけど、ヴェルナーは冒険者登録できた?」
俺達が冒険者ギルドに行った時に捕まったもんな。
「ああ。何の問題もなく登録できた。Fランクだ」
「最初はFランクだもんね。その冒険者カードがあれば国境は越えられると思う。リーフェルとコスタリナは仲が悪いとはいえ、人の行き来自体はそこまで制限されていないからね」
そこまで激しい戦争が起きているというわけではないようだ。
まあ、これまでの町もそんな空気は感じなかったしな。
「イレーネやリーエは?」
「私も持っているのが望ましいけど、やっぱり登録はリーフェル王国を出てからにする。だから私はあなたの奥さんね。リーエがいるからそんなに怪しまれることもないと思う」
当初の予定通りだな。
「ミスディレクションとの併用でいけると思う」
「じゃあ、それで」
イレーネが頷いた。