作品タイトル不明
第102話 わかりやすい人です
部屋はそこまで広くもないし、ベッドとテーブルがあるだけだったが、ちゃんと浴槽もあったし、これで1万ソルなら良い値段だと思う。
「ふう……馬車も嫌いじゃないけど、振動とお風呂に入れないのが嫌よね」
お風呂は8割だと思う。
「そうだな。風呂に入るか?」
「あ、いや、それは後ね。実はこの宿屋って料理が出ないらしい。代わりに正面にあったお店の割引券をもらった。親戚らしいわよ」
そういうことね。
「じゃあ、夕食を食べてからだな。今、何時だ?」
「15時前。微妙な時間だわ」
確かに微妙だ。
出かける時間でもないし、夕食を食べる時間でもない。
「イレーネが好きなトランプでもするか」
「そうね。ヴェルナーが好きなトランプをしましょう」
俺達はトランプをしながら時間を潰していくと、16時半を過ぎたので宿屋を出て、正面の定食屋に入る。
定食屋は5つのカウンターと3つのテーブルがあり、他の客はいなかった。
「いらっしゃい。3名様ならテーブルにどうぞ」
キッチンにいる大将が笑顔で勧めてきたのでテーブルにつく。
「色々ありますね」
リーエがメニューを広げたが、本当に品数が豊富だ。
「おっ、米がある」
「ホントね。珍しいわ」
帝国では米がなかったが、この世界にはあるらしい。
「俺、野菜炒め定食にする」
久しぶりに米が食べたい。
「私はひき肉のパスタにします」
「私、揚げ魚定食。すみませーん。野菜炒め定食とひき肉のパスタと揚げ魚定食でー。あとワイン2つとぶどうジュースをおねがーい。あ、前の宿屋の客で割引券があるわー」
イレーネがキッチンにいる大将に注文した。
「あいよー」
ちょっと待っていると、奥から奥さんっぽい人が出てきて、グラスのワインとぶどうジュースを持ってきてくれたので乾杯する。
「たまには外で飲むのも良いわね」
「イレーネさんが外で飲んでいると、ナンパされそうですね」
回数無限だからな。
「リーエもされるかもよー?」
「即、警邏を呼んでください」
その前に俺が殴るわ。
俺達が待っていると、料理がやってきたので食べだす。
すると、ぽつりぽつりとお客さんがやってきた。
「美味いな」
やっぱり米だわ。
「そうね」
「んー?」
リーエがフォークを止めた。
それを見た俺も気付いた。
この魔力は……
「どうしたの?」
俺達が出入り口の方を見たのでイレーネもつられて、同じ方向を見る。
すると、扉が開き、男女の冒険者が入ってきた。
「あっ、あんたは……」
男の方が俺に気付く。
男は昨日、缶詰を分けたロビンだ。
俺とリーエはロビンがこの店に近づいてきたので感じ取っていた。
「よう。無事に着いたんだな」
「ああ。おかげさまでな。助かったよ」
「ロビン、どちら様?」
連れの女性の方が首を傾げる。
女性は軽装の冒険者服で背中には弓と矢筒を背負っていた。
長い黒髪であり、イレーネよりも背が高く、すらっとしている。
しかし、ちょっと不機嫌そうだ。
まあ、最初にちらっとイレーネの方を見たことが影響してそう。
「ほら、缶詰が腐って大変だったって話をしただろ? その時に分けてくれた人だよ」
「あー……」
女性がちょっと申し訳ない顔になった。
どうやら誤解が解けたらしい。
まあ、そもそも対応したのが俺なのでイレーネとリーエはロビンの顔を知らないし、向こうもそうだ。
「その節はロビンがお世話になりました。私はこの人とパーティーを組んでいるアイリーンです」
この人も魔力が高いな。
同じパーティーらしいし、Bランクかもしれない。
「そういえば、ロビンにも自己紹介をしてなかったな。俺はヴェルナーだ。こっちがイレーネでこの子がリーエ」
2人を紹介すると、軽く会釈をする。
「よろしくお願いします。ロビン、座りましょうよ」
「ああ。そうだな」
2人は隣のテーブル席につき、メニューを見始めた。
そして、注文をすると、こちらを振り向く。
「そういえば、見たことない顔だけど、旅人か?」
ロビンが聞いてくる。
「んー? ああ。ダニア大陸から来たんだ」
「あー、なるほど。遠征だな。王都に行くのか?」
「そんなところだ。商人の馬車を運ぶ仕事をもらった」
「へー……ランクは?」
あまり言いたくないが……
「Eランクだ」
いつかAランクだって言いたい。
「ん?」
「Eなんですか? Eランクでよくそんな仕事が回ってきましたね?」
アイリーンが驚いたような表情で振り向き、話に入ってきた。
「ギルドの厚意だと思う」
「厚意ねー……聞いたことないな」
あるよ。
多分。
「あの、御二人はご夫婦ですか?」
アイリーンが聞いてくる。
「ああ。家族で旅をしているんだ」
「そうですか」
すごい……あからさまにほっとした表情になった。
「そっちは?」
イレーネが聞き返した。
「俺達は違う。幼馴染の腐れ縁だ」
ロビンが苦笑いを浮かべる。
一方でアイリーンはちょっと不満そうな顔になった。
なんというか、わかりやすい2人だ。
恋愛漫画の教科書みたいである。
「ここの出身?」
「はい。いつもは王都にいるんですが、実家に顔を見せに来たんです。明後日には王都に帰ります」
目的地は一緒か。
「王都ってどう? 儲かる?」
「もちろんですよ。近くに湖がある大森林があるんですよ。そこが主な稼ぎ場ですし、依頼もたくさんあります」
アイリーンは感じの良い子だな。
ちょっと感情が顔に出すぎだが……
多分、ダリアのような密偵ではない。
「良いわね」
「ええ。多分、そっちが先に王都に着くと思うけど、王都で会ったらよろしく」
食べ終わったのでイレーネが立ち上がったのですでに終わっている俺とリーエも立ち上がる。
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
「あ、ヴェルナー、ここは俺が払うよ」
ロビンが手を上げる。
「良いのか?」
「ああ。礼だ。本当に助かったんだよ」
まあ、奢ってくれるって言うならありがたいことだ。
「感謝する。また王都で」
「ああ。ギルドに行けば会えると思う。世話になったよ」
俺達は会計を2人に任せると、宿屋に戻った。