軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

65.アシュリーの願いごと

私の体が弱っていったのはルーチェが嫁いでしばらく経った頃でした。

無事にウィリアムの第一子が誕生し、そのお祝いをしたりと張り切り過ぎたせいかと思っていましたが、次第に疲れやすくなり、床に臥すことが増えていったのです。

「駄目ね、もう年みたい」

「こら。君よりも年寄りな私に対する嫌味かな?」

「貴方はいくつになっても格好良いわ」

「君もいくつになっても綺麗だよ」

サラサラと落ちる砂時計のように、命がこぼれ落ちていくのを感じる。

それでも、1日1日を大切に生きようと決めました。

ジェフも私の命が長くないことを悟ったのでしょう。ある日、突然仕事を辞めてきたというからさすがに驚きました。

「アシュリー、海を見に行こうか」

それはきっとあの頃過ごした海辺の別荘のことでしょう。

「ふふ、昔に戻ったみたいね」

「やっと二人だけの時間を過ごせるようになったからな」

ジェフの優しさが嬉しかった。病を嘆かず、ただ寄り添ってくれることに本当に感謝しました。

それから二人であの頃過ごした別荘に向かいました。

体調のいい日はのんびりと散歩をし、あの頃の思い出を辿ったりと幸せな日々を過ごしました。

私はもっと早くにこの人生が終わる予定でした。

でも、ジェフに出会って運命が変わった。

貴方がいなければきっとここまで辿り着くことはできなかったでしょう。

私はなんて恵まれているのかしら。

「どうした、アシュリー」

私の最愛が問い掛ける。どうした、と聞かれると、少し困ってしまいます。ただ呆けていただけのような、思い出を見つめていたような。

「大好きよ、ジェフ」

なんだか、どれも今の気持ちには当てはまらないような気がして、夫への愛を囁いてみました。

「私の方が愛していると思うがな」

そんなことを言いながら私を抱きしめてくれる夫は、世界で一番素敵な人だと思います。

もう恋や愛を語る年では無いような気もするのに、こうしてジェフを見ていると、愛おしいなあと抱きしめたくなってしまう。

「今日のアシュリーは甘えただな?」

そう?そうかもしれません。

貴方に出会うまで、甘えるだなんて考えたこともなかった。

私は長女で、お姉ちゃんで、年上の妻で。

「…貴方の側は一等落ち着くの」

「それは嬉しいな」

優しく微笑みながら私の髪を撫でてくれるから、つい、うとうとと瞼が落ちそうになってしまいます。

まだもっと貴方への愛を伝えたいのに。

「愛してるよ、アシュリー」

ちゅっ、と優しく口付けが落ちる。

「……しあわせね」

「ああ。だって君が願ってくれたから」

私の願い?……そうね。確かにいつも願っているわ。

「…ジェフが…これからも幸せでありますように」

「私はもうずっと幸せだよ」

「そう?それならよかった」

だって、私もずっと幸せだから。

辛いことも、悲しいこともたくさんあったけど、こうして目を閉じれば、幸せだった思い出ばかりが溢れ出すもの。

「……眠い?」

「…ん……ごめんなさい、……あなたの腕の中は……あたたかくて……」

ここよりも安心できる場所なんてない。

「いいよ、眠っても。ずっとこうして抱きしめているから」

いいのかな。でも、もっとあなたと語らいたいと思うのに。

「大丈夫。ずっと側にいる。たとえ離れても、すぐに探しに行くから。だから……待っていてくれ」

「…迷子になったら、その場を動かないのが鉄則よ」

「ははっ、それなら君をすぐに見つけられそうだ」

「……本当に見つけてくれる?」

「当然だ。そうしたらまた一緒に散歩をしよう。小さな幸せを探しながら、二人でのんびりと」

「…うん、待ってる。あなた達の幸せを願いながら待ってるね」

なんだか酷く安心してしまいました。

「……少しだけ眠ってもいい?」

「ああ。おやすみアシュリー、良い夢を」

額にやさしい口付けと、愛していると囁く声はまるで子守唄のようで。私はジェフの体温を感じながら、優しい眠りに 誘(いざな) われました。

幸せな思い出を胸に。

愛する人達の幸せを願いながら。

【end】