作品タイトル不明
第66話 石の価値
第二実習洞の再調査が始まった日、俺たちは洞窟ではなく資料室にいた。
あの青い鉱石が何なのか。
昨日の検証で、ただ珍しいだけの石ではないことはわかった。
なら次は、記録を当たるしかない。
机の上には、鉱物誌と魔道具素材の記録集が積まれている。
「……これだわ」
最初に声を上げたのはセレナだった。
古い工房記録の一節。
そこには、青灰色の鉱石についてこう書かれていた。
魔力の通りがよく、熱を入れた後も性能低下が少ない。
ただし個体差が大きく、加工が難しい。
「昨日の石に近いな」
俺が呟くと、今度はナディアが別の本を開いた。
「こちらも見てください。青輝石です」
記述は短い。
青輝石。
希少鉱物。
深部産出品ほど魔力反応が強い。
その一文を見た瞬間、東の石切り場が頭に浮かんだ。
違法採掘されていた青く光る石。
あれが、ただの希少石ではなかったとしたら。
「ハル領の石切り場を思い出したのね」
セレナに言われ、俺は小さく頷いた。
「無関係とは思えない」
「でも、似てるだけじゃ足りないわ」
「わかってる」
だから俺たちは、その足で工房へ向かった。
◇
工房担当の教師は、資料を見るなり棚の奥から小さな布包みを取り出した。
「学院保管の青輝石標本だ」
中に入っていたのは、青白い小さな欠片だった。
昨日の石と並べると、色味は近い。
だが、完全に同じではない。
教師は簡易測定具を使って、二つの反応を見せた。
まず標本の青輝石。
魔力を流すと灯りが点く。
強いが、わずかに揺らぎがある。
次に、昨日の青い鉱石。
同じように魔力を流した瞬間、灯りは鋭く立ち上がった。
しかも揺れが少ない。
「……近いが、こっちの方が安定してる」
教師が言った。
「青輝石と同系統と見るのが自然だろうな」
胸の奥が強く鳴った。
やはり繋がっている。
「先生、これがそんなに大きいんですか」
俺が聞くと、教師は即答した。
「大きい。反応が強いだけの石なら他にもある。だが、強くて、熱に耐えて、通りが素直なら話は別だ」
セレナが静かに頷く。
「素材の前提が変わる」
「そうだ。今の魔道具は素材に縛られてる。そこが一段上がるなら、作れるものも変わる」
明かり。
送風。
加熱。
今まで高価すぎたり不安定すぎたりしたものが、少しだけ現実に近づく。
それは工房だけの話じゃない。
生活そのものを変えるかもしれない。
けれど、同時に別のことも見えた。
「……厄介ですね」
俺が言うと、教師は少しだけ笑った。
「価値があるものほど面倒だ。騒げば人が寄る。掘れば争いも呼ぶ」
その言葉は重かった。
ハル領の未来になるかもしれない。
だが、扱いを間違えれば火種にもなる。
「もしハル領の石切り場に同じ系統の層があるなら、どうすべきですか」
教師はきっぱり答えた。
「まずは掘るな。記録と採掘跡を洗え。確信のないまま動けば、石に領地が振り回される」
その通りだった。
◇
自室に戻ったあと、俺は机に向かった。
青輝石。
深部産出品。
同系統の可能性。
そして、軽々しく動くなという警告。
見えてきたのは希望だけじゃない。
危うさも同じだけあった。
新しい紙を出し、父への文面を考える。
書くべきことは一つだけだ。
東の石切り場の記録と、違法採掘が行われた場所を静かに洗い直してほしい。
もし相手が価値を知った上で掘っていたなら、狙った場所には理由がある。
俺はゆっくりとペンを走らせた。
青い石は、ただの珍しい石じゃない。
領地の未来を変えるかもしれない石だ。
だからこそ、急ぐにしても、急ぎ方を間違えちゃいけなかった。