軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第66話 石の価値

第二実習洞の再調査が始まった日、俺たちは洞窟ではなく資料室にいた。

あの青い鉱石が何なのか。

昨日の検証で、ただ珍しいだけの石ではないことはわかった。

なら次は、記録を当たるしかない。

机の上には、鉱物誌と魔道具素材の記録集が積まれている。

「……これだわ」

最初に声を上げたのはセレナだった。

古い工房記録の一節。

そこには、青灰色の鉱石についてこう書かれていた。

魔力の通りがよく、熱を入れた後も性能低下が少ない。

ただし個体差が大きく、加工が難しい。

「昨日の石に近いな」

俺が呟くと、今度はナディアが別の本を開いた。

「こちらも見てください。青輝石です」

記述は短い。

青輝石。

希少鉱物。

深部産出品ほど魔力反応が強い。

その一文を見た瞬間、東の石切り場が頭に浮かんだ。

違法採掘されていた青く光る石。

あれが、ただの希少石ではなかったとしたら。

「ハル領の石切り場を思い出したのね」

セレナに言われ、俺は小さく頷いた。

「無関係とは思えない」

「でも、似てるだけじゃ足りないわ」

「わかってる」

だから俺たちは、その足で工房へ向かった。

工房担当の教師は、資料を見るなり棚の奥から小さな布包みを取り出した。

「学院保管の青輝石標本だ」

中に入っていたのは、青白い小さな欠片だった。

昨日の石と並べると、色味は近い。

だが、完全に同じではない。

教師は簡易測定具を使って、二つの反応を見せた。

まず標本の青輝石。

魔力を流すと灯りが点く。

強いが、わずかに揺らぎがある。

次に、昨日の青い鉱石。

同じように魔力を流した瞬間、灯りは鋭く立ち上がった。

しかも揺れが少ない。

「……近いが、こっちの方が安定してる」

教師が言った。

「青輝石と同系統と見るのが自然だろうな」

胸の奥が強く鳴った。

やはり繋がっている。

「先生、これがそんなに大きいんですか」

俺が聞くと、教師は即答した。

「大きい。反応が強いだけの石なら他にもある。だが、強くて、熱に耐えて、通りが素直なら話は別だ」

セレナが静かに頷く。

「素材の前提が変わる」

「そうだ。今の魔道具は素材に縛られてる。そこが一段上がるなら、作れるものも変わる」

明かり。

送風。

加熱。

今まで高価すぎたり不安定すぎたりしたものが、少しだけ現実に近づく。

それは工房だけの話じゃない。

生活そのものを変えるかもしれない。

けれど、同時に別のことも見えた。

「……厄介ですね」

俺が言うと、教師は少しだけ笑った。

「価値があるものほど面倒だ。騒げば人が寄る。掘れば争いも呼ぶ」

その言葉は重かった。

ハル領の未来になるかもしれない。

だが、扱いを間違えれば火種にもなる。

「もしハル領の石切り場に同じ系統の層があるなら、どうすべきですか」

教師はきっぱり答えた。

「まずは掘るな。記録と採掘跡を洗え。確信のないまま動けば、石に領地が振り回される」

その通りだった。

自室に戻ったあと、俺は机に向かった。

青輝石。

深部産出品。

同系統の可能性。

そして、軽々しく動くなという警告。

見えてきたのは希望だけじゃない。

危うさも同じだけあった。

新しい紙を出し、父への文面を考える。

書くべきことは一つだけだ。

東の石切り場の記録と、違法採掘が行われた場所を静かに洗い直してほしい。

もし相手が価値を知った上で掘っていたなら、狙った場所には理由がある。

俺はゆっくりとペンを走らせた。

青い石は、ただの珍しい石じゃない。

領地の未来を変えるかもしれない石だ。

だからこそ、急ぐにしても、急ぎ方を間違えちゃいけなかった。