軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編⑦ ガザルの企み

黒い魔石片を、ガザルは指先でつまみ上げた。

欠けた断面を、薄暗い灯りにかざす。

王都西南の森で使った試作品の一つ。

「核を壊されれば止まる。動きは鈍い。長くは保たない」

ガザルは低く呟いた。

机の上には、黒い魔石片がいくつも並んでいる。

その横には、細かな術式を書き込んだ紙。

魔物の骨。

獣型魔物の乾いた爪。

そして、まだ処理前の小型魔物の死骸が置かれていた。

部屋の中には、腐臭を消すための薬草が焚かれている。

だが、それでも死の匂いは消えない。

ガザルは気にしなかった。

人間の部下より、よほど扱いやすい。

王都西南の森での試験は、失敗ではなかった。

胸部の核を壊されるまで、死骸は動いた。

冒険者を襲った。

痛みに反応せず、恐怖も見せなかった。

十分だ。

「森を荒らすだけなら、これで足りる」

ガザルは、魔石片を机に置いた。

死骸駆動術式。

生き返らせる術ではない。

死んだ魔物の肉体に、黒い魔石片を核として埋め込む。

術式で筋肉と骨格を無理やり動かす。

それだけの粗い術式だ。

人間のような判断はできない。

複雑な命令も通らない。

長く動かせば、肉体が崩れる。

だが、村人を怯えさせ、街道を乱し、開拓を止めるには十分だった。

ガザルは、数日前のことを思い出す。

グレイヴ侯爵は、いつものように苛立っていた。

「ハル領の西の森を止めろ」

侯爵は、机を指で叩きながらそう言った。

「あの領地を、これ以上発展させるな。西の森の開拓が進めば、ハル家はさらに力を持つ」

ガザルは黙って聞いていた。

貴族の嫉妬。

面子。

領地間の力関係。

そういうものに、ガザル自身は興味がない。

だが、報酬が出るなら話は別だ。

「兵は動かせん。こちらの名が出るような真似も困る。だが、開拓は止めろ」

勝手な話だ。

だが、貴族の依頼とは大抵そういうものだ。

ガザルは、そこで初めて少しだけ目を細めた。

ハル領西の森。

その言葉だけは、聞き流せなかった。

かつて、自分の拠点があった場所。

リオン・ハルたちに潰された場所。

隠していた資材も、築いていた足場も、壊された。

あの森には、借りがある。

「承りました」

ガザルは静かに答えた。

人間は使えない。

ガザルはそう判断していた。

兵を動かせば、グレイヴ侯爵に疑いが向く。

冒険者を雇えば、金の流れを追われる。

盗賊を使えば、捕まった時に喋る。

人間は怖がる。

逃げる。

裏切る。

だが、死骸ならそれがない。

捕まっても何も話さない。

誰に命じられたかも知らない。

壊されれば、ただの魔物の死骸に戻る。

森に放つには、ちょうどいい。

ただし、数が必要だった。

ハル領西の森には冒険者が入る。

ハル家も、あの森の開拓を進めている。

一体や二体の死骸魔物を放ったところで、すぐに討伐されるだけだ。

小型魔物の死骸。

獣型の魔物。

できれば、中型の個体も混ぜたい。

それらを集め、胸部に黒い魔石片を埋め込み、術式を刻む。

腐りすぎた死骸は使えない。

核にする魔石片も数を揃える必要がある。

一体ずつ術式を施すにも時間がいる。

ガザルは机の上の紙に、必要な数を書き出した。

少数では足りない。

森を本当に混乱させるなら、群れに見える数がいる。

「三か月だな」

ガザルは低く呟いた。

三か月。

それだけあれば、ハル領西の森に放つだけの数を揃えられる。

「あの小僧……」

声は小さかった。

だが、部屋の空気がわずかに冷える。

グレイヴ侯爵からの依頼は仕事だ。

ハル領の発展を止める。

西の森の開拓を遅らせる。

それだけなら、ただの仕事だった。

だが、ガザルにとっては違う。

あの森には、自分の恨みも残っている。

「今度は、こちらが荒らす番だ」

ガザルは黒い魔石片を握りしめ、薄く笑った。