軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第196話 認めない者

三年Sクラスでの授業が始まって、少しずつ教室の空気も変わり始めていた。

最初に教室へ入った時ほど、刺さるような視線はない。

それでも、完全に馴染んだわけではない。

授業の合間、教室の空気を見ながら、俺はそう感じていた。

休み時間。

次の授業の準備をしていると、一人の男子生徒がこちらへ歩いてきた。

背が高く、体つきもしっかりしている。

クラウス先輩のような静かな圧とは少し違う。

もっと真っ直ぐで、硬い雰囲気の人だった。

彼は俺たち六人の前で足を止める。

「ライオネル・グランツだ。少し話していいか」

声も硬い。

だが、敵意があるわけではなかった。

「はい」

俺が答えると、ライオネルは一度だけ頷いた。

「昨日の演習は見事だった。初回であれだけ動ける班は多くない」

まず出てきたのは、意外にも評価の言葉だった。

ヴィクトルが少しだけ目を動かす。

セレナも静かに聞いている。

ライオネルは続けた。

「君たちが優秀なのは分かった。実戦経験があることも、演習を見れば分かる」

そこで、声が少し低くなる。

「だが、俺はまだ、君たちを三年Sクラスの仲間として完全に認めたわけではない」

教室の空気が少しだけ固まった。

近くにいた三年生たちも、こちらを見る。

ヴィクトルが何か言いかける。

俺はそれを目で止めた。

「理由を聞かせてもらえますか」

ライオネル先輩は逃げなかった。

「俺たちは一年の頃から、ベルンハルト先生にしごかれてきた。

何度も失敗して、ようやく今の形になった」

その言葉には、怒りよりも重さがあった。

「君たちが飛び級でここへ来たことを否定するつもりはない。

実戦演習での動きも本物だった。だが、一度動けたからといって、同じ積み上げをしてきたとは思えない」

言っていることは、分かる。

彼らには彼らの二年間がある。

それを軽く扱われたくない。

ライオネルが言いたいのは、そういうことなのだろう。

「そう思われるのは当然だと思います」

俺は答えた。

「俺たちは、ここで二年間積み上げてきたわけではありません。

だから、言葉で認めてもらうつもりはありません」

ライオネルの目をまっすぐ見る。

「結果で示します」

少しだけ沈黙が落ちた。

セレナが続ける。

「私たちも、簡単に受け入れられるとは思っていません」

エドガーも静かに言った。

「同じ教室に入ったことと、信頼されることは別だと理解しています」

ナディアは丁寧に頭を下げる。

「私たちも学ばせていただく立場です。ですが、班として必要とされるよう努めます」

ガイルは短く言った。

「見ていればいい」

言葉は少ない。

だが、ガイルらしい。

ヴィクトルは少し肩をすくめる。

「まあ、こっちも口だけでどうにかなるとは思ってないですしね」

ライオネルは、俺たちを順に見た。

そして、少しだけ目を細める。

「なら、見せてくれ」

それだけだった。

認めたわけではない。

だが、少なくとも、こちらの言葉を聞く気はあるようだ。

「グランツの言っていることは厳しいが、間違ってはいない」

声がして振り返ると、クラウスが近くに立っていた。

どうやら、今のやり取りを聞いていたらしい。

ライオネルはクラウスを見る。

「クラウス」

「止めるつもりはない。今のは必要な話だ」

クラウスはそう言ってから、俺たちを見る。

「ただ、昨日の演習で君たちが見せたものも本物だ」

その言葉で、少しだけ空気が和らいだ。

クラウスは続ける。

「だからこそ、次は同じ課題を越えた時にどう動くかだ。

実力を見せることと、信頼されることは同じではない」

リオンたちを認める。

だが、既存三年生側の思いも否定しない。

この人が三年Sクラスの中心にいる理由が、少し分かった気がした。

ライオネルも、それ以上は何も言わなかった。

その時、教室の扉が開いた。

ベルンハルト先生が入ってくる。

教室の空気を一目見ただけで、何があったのか大体分かったのだろう。

だが、先生はすぐには何も言わなかった。

教壇に立ち、全員を見回す。

「三年Sクラスは、点数だけで成り立つ場所ではない」

低い声だった。

教室が静まる。

「同じ課題を越え、同じ失敗を背負い、互いの判断を預けられるようになって、初めて班になる」

その言葉は、俺たちに向けられているようでもあり、既存の三年生たちに向けられているようでもあった。

「飛び級組が優秀なのは、昨日見た。

だが、優秀であることと、班の一員として信頼されることは別だ」

ベルンハルト先生は、そこで一拍置いた。

「次回の演習では、班を組み替える」

教室の空気が動いた。

既存三年生たちの間にも、小さなざわめきが走る。

「既存生徒と飛び級組を混ぜる。互いを知れ」

ヴィクトルが小さく呟いた。

「うわ、いきなり来たな」

俺も同じことを思った。

今まで俺たちは六人で一班だった。

でも、次は違う。

三年Sクラスの既存生徒たちと混ざる。

実力を見せるだけでは足りない。

同じ班で動き、判断を合わせる必要がある。

ベルンハルト先生は淡々と続けた。

「組み合わせは改めて伝える。今日はここまでだ」

それだけ言うと、先生は次の授業の準備に入った。

授業が終わった後も、教室には少し緊張が残っていた。

俺は荷物をまとめながら、ライオネルの方を見る。

彼もこちらを見ていた。

敵意ではない。

だが、まだ認めていない目だった。

認めるかどうかは、次で決まる。

そんな目だった。

ライオネル・グランツの言葉は、決して気持ちのいいものではなかった。

でも、間違っているとも思わなかった。

俺たちは飛び級でここに来た。

けれど、三年Sクラスの仲間として信頼されるには、まだ何も積み上げていない。

なら、積み上げるしかない。

言葉ではなく、行動で。