軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第183話 3学期期末試験結果

三学期期末試験の結果発表日。

朝から学院の空気は、いつもより少し落ち着かなかった。

廊下を歩く生徒たちの話題も、ほとんどが試験結果のことだ。

「今日、順位出るんだよな」

「筆記はまだいいけど、実技が怖い」

「飛び級狙ってるやつらは大変だな」

そんな声を聞きながら、俺は掲示板の方へ向かった。

試験は終わっている。

もう答案を書き直すこともできないし、実技をやり直すこともできない。

それでも、結果を見るまでは落ち着かなかった。

筆記は、正直少し不安がある。

福嶋亮太の本のことが頭から離れなかった時間があった。

応用課題も、考えそのものには手応えがあったが、答案としてどこまで整理できていたかは分からない。

実技は、騎士団長に届かなかった。

最低基準は超えていると思いたい。

だが、前回のような確信はなかった。

掲示板の前には、すでに人だかりができていた。

セレナ、エドガー、ナディア、ガイル、ヴィクトルもいる。

俺が近づくと、ヴィクトルがこちらを見た。

「来たな」

「ああ」

「今回は、ちょっと荒れそうだよ」

「もう見たのか?」

「まだ。貼られるところ」

その言葉の直後、教師が掲示板に紙を貼った。

生徒たちが一斉に前へ詰める。

俺も、少し遅れて掲示板を見た。

そこには、三学期期末試験の総合順位が並んでいた。

一位 セレナ・ヴァレスト 293

二位 エドガー・アルスレイン 290

三位 ナディア・セルヴァン 282

四位 リオン・ハル 280

四位 ガイル・ベイルン 280

六位 ヴィクトル・ローデン 271

七位 レオス・バルトン 203

八位 ミラ・フェン 199

九位 クルト・ベルガ 198

十位 サラ・ノイン 196

掲示板の前が、一拍遅れてどよめいた。

「セレナ様が一位……?」

「リオンが四位?」

「いや、四位でも280だぞ」

「エドガー殿下で二位なのか」

「ナディア様も282って高すぎるだろ」

「ガイルもリオンと同点四位?」

「上位六人、どうなってるんだ……」

声があちこちから上がる。

俺は掲示板を見たまま、少しだけ固まっていた。

四位。

ガイルと同点だ。

悪い点ではない。

280点なら、普通に考えればかなり高い。

飛び級の条件も、満たしている。

だが、前回一位だった自分の順位として見ると、重かった。

「今回は、私の勝ちね」

隣で、セレナが静かに言った。

掲示板を見たままの声だった。

俺は少し笑って、息を吐く。

「ああ。完全に負けた」

「完全に、ではないでしょう。点差で言えば十三点よ」

「順位で四位まで落ちたからな。今回はかなり効いてる」

セレナは少しだけこちらを見た。

勝ったことを誇っている。

でも、浮かれているわけではない。

その表情には、昨日の悔しさもまだ残っているように見えた。

「私も、実技はまだ納得していないわ」

「それで一位か」

「総合では取れた、というだけよ」

その言い方が、いかにもセレナらしかった。

エドガーは掲示板を静かに見ている。

「二位か」

短い一言だった。

落胆しているようには見えない。

だが、満足しているようにも見えなかった。

セレナがエドガーを見る。

「今回は私が上ね」

「ああ」

エドガーは短く頷いた。

「次は取る」

「そう簡単にはいかないわ」

「そうだな」

短いやり取り。

けれど、その間に流れる空気はぬるくない。

ナディアは三位の自分の名前を見て、ほっとしたように胸元に手を当てていた。

「よかった……」

「282でその反応はおかしいだろ」

ヴィクトルが苦笑する。

「十分すごいぞ」

「そうですけど、皆さんが高すぎるんです」

「それは否定できないな」

ヴィクトルは肩をすくめた。

ガイルは、自分の名前と俺の名前を交互に見ていた。

「同点か」

俺が言うと、ガイルは頷いた。

「ああ」

そして少し間を置いて、淡々と言う。

「俺は上がった。お前は落ちた」

「はっきり言うな」

「事実だろう」

「まあ、そうだな」

悪気はない。

むしろ、ガイルらしい。

それに、その言葉は正しかった。

今回は、ガイルが上がった。

俺は落とした。

その結果、同じ場所に並んだ。

「今回は並ばれたな」

「次は抜く」

ガイルはまっすぐ言った。

その目に迷いはなかった。

「簡単には抜かせないよ」

「ああ。簡単なら意味がない」

そう言って、ガイルはもう一度掲示板を見た。

掲示板の前のざわめきは、なかなか収まらなかった。

セレナの一位。

リオン・ハルの四位。

ガイルとの同点。

どれも、生徒たちにとっては十分すぎるほど話題になる結果だった。

教室に戻ってからも、空気はまだ少しざわついていた。

「セレナ様が一位だって」

「リオンでも四位になるのか」

「今年の上位、怖すぎるだろ」

そんな声が聞こえる。

ほどなくして、ローヴェン先生が教室へ入ってきた。

手には、個別の結果表の束がある。

「総合順位は見たな」

教室が静まる。

「だが、順位だけで一喜一憂するな。見るべきは内訳だ」

そう言って、結果表が順に配られていく。

俺の机にも一枚置かれた。

視線を落とす。

リオン・ハル

筆記 88

応用課題 93

実技 99

合計 280

思わず、息を止めた。

八十点は超えている。

飛び級の条件は、満たしている。

だが、筆記88。

応用課題93。

これは、かなり落とした。

特に筆記は、やはり響いている。

福嶋亮太の本のことが頭に残っていた影響は、否定できない。

応用課題も、もっと取れると思っていた。

領地運営に関する課題だったから、むしろ自分向きだと思っていた。

でも、答案として整理できていなかったのかもしれない。

実技99。

そこは評価された。

騎士団長に負けたとはいえ、一瞬を作れたことは見てもらえていたのだろう。

だが、それでも総合では四位だった。

「今回も上位陣の点数はかなり高い」

ローヴェン先生が教壇の前で言った。

「だが、高い低いだけを見るな。前回から上がった者もいれば、落とした者もいる」

その言葉が、胸に刺さる。

「応用課題は、知識や経験を持っているだけでは足りない。

答案として整理し、読み手に伝わる形にしなければ点にはならない」

名指しはされていない。

だが、俺に向けられている気がした。

実務としてどう考えるか。

答案としてどう見せるか。

それは同じではない。

「喜ぶのも落ち込むのも勝手だ。だが、この結果を次にどう活かすかを考えろ」

ローヴェン先生はそこで言葉を切った。

「以上だ」

短い。

だが、十分だった。

昼休み。

俺たちはいつものように、食堂の一角に集まっていた。

周囲の視線は、いつもよりはっきりしている。

特に今日は、セレナへ向けられる視線が多かった。

総合一位。

その事実は、やはり大きい。

席に着くと、ヴィクトルが早速言った。

「じゃあ、恒例の嫌な儀式をやろうか」

「本当に嫌な言い方ね」

セレナが呆れ半分に言う。

「でも、気になるだろ?」

「まあ、それはそうね」

最初にヴィクトルが、自分の結果表を机の上に出した。

ヴィクトル・ローデン

筆記 91

応用課題 95

実技 85

合計 271

「俺としては悪くないと思うんだけどね」

ヴィクトルは肩をすくめる。

「実技が足を引っ張るのは分かってたし」

「応用95はかなり高いだろ」

俺が言うと、ヴィクトルは軽く笑った。

「そこはまあ、頑張った」

「筆記も91なら十分じゃない」

セレナも頷く。

「周りが怪物すぎるんだよなー」

ヴィクトルは呆れ気味

「それ、褒めてるの?」

「褒めてるよ」

「なら受け取っておくわ」

次に、ガイルが結果表を出した。

ガイル・ベイルン

筆記 89

応用課題 92

実技 99

合計 280

「実技99か」

ヴィクトルが言う。

「怖いな」

「そこより、応用課題が九十を超えた」

ガイルは静かに言った。

その声には、いつもより少しだけ重みがあった。

ナディアが柔らかく微笑む。

「よかったです。ずっと頑張っていましたから」

「ああ。助かった」

ガイルは素直にそう言った。

ナディアは少し嬉しそうに頷く。

「筆記も九十点目前です。着実に伸びてますね」

「まだ足りない」

ガイルは短く返す。

だが、その表情は悪くなかった。

次はナディア。

ナディア・セルヴァン

筆記 94

応用課題 95

実技 93

合計 282

「安定してるな」

俺が言うと、ナディアは少し困ったように笑う。

「私は、大きく崩れないようにするので精一杯です」

「それが一番難しいのよ」

セレナが言った。

「三つとも九十点台で揃えているのは、かなり強いわ」

「ありがとうございます」

ナディアは少し照れたように目を伏せた。

次に、セレナが結果表を置く。

セレナ・ヴァレスト

筆記 99

応用課題 98

実技 96

合計 293

改めて見ると、すごい数字だった。

筆記99。

応用98。

実技96。

全部が高い。

隙がない。

「文句なしの一位だな」

俺が言うと、セレナは少しだけ表情を緩めた。

「ありがとう。でも、実技はまだ納得していないわ」

「それでも96だぞ」

「点数の話じゃないの」

セレナは静かに言う。

「近づかれた後の一手。そこは、まだ足りない」

昨日の訓練場での会話を思い出す。

総合一位でも、セレナはもう次を見ている。

次に、エドガーが結果表を置いた。

エドガー・アルスレイン

筆記 98

応用課題 95

実技 97

合計 290

「こちらも高いな」

ヴィクトルが言う。

「でも、今回はセレナが上だったね」

エドガーは静かに頷いた。

「ああ。今回はセレナが上だ」

セレナがエドガーを見る。

「次も勝つわ」

「そう簡単にはいかない」

「分かっているわ」

短い。

でも、ぬるくない。

この二人も、ちゃんと競っている。

そして最後に、俺も結果表を机の上に出した。

リオン・ハル

筆記 88

応用課題 93

実技 99

合計 280

全員の視線が、少しだけ集まる。

セレナが最初に口を開いた。

「筆記、落としたわね」

「ああ。落とした」

誤魔化す気はなかった。

ヴィクトルが少し意外そうに言う。

「珍しいな。リオンが筆記でここまで落とすの」

「今回は集中しきれなかった」

そう言うと、セレナは何かを察したように、少しだけ目を細めた。

だが、皆の前では何も言わなかった。

「応用も、あなたならもっと取れると思っていたわ」

「俺もそう思ってた」

「答案として、少し散ったのかもしれないわね」

「たぶん、そうだと思う」

実務として考えたことを、そのまま答案に落とそうとした。

だが、試験では整理して伝える必要がある。

そこを少し間違えたのだろう。

ガイルが結果表を見ながら言った。

「実技は同じだ」

「そうだな」

「筆記と応用で、俺と一点ずつ違う」

「本当だ」

ガイルは筆記89、応用92、実技99。

俺は筆記88、応用93、実技99。

合計は同じ280。

ガイルは短く言った。

「次は抜く」

「さっきも聞いた」

「何度でも言う」

「分かった。俺も抜かれないようにする」

そう返すと、ガイルは少しだけ口元を動かした。

セレナがこちらを見る。

「今回は、私の勝ちね」

「ああ。今回はな」

「次も勝つわ」

「そう簡単にはいかない」

俺がそう返すと、セレナは少しだけ満足そうに笑った。

放課後。

ローヴェン先生から、飛び級基準を満たした者は翌朝学院長室へ来るようにと告げられた。

名前を呼ばれたのは、俺たち六人だった。

セレナ。

エドガー。

ナディア。

リオン。

ガイル。

ヴィクトル。

教室がまたざわつく。

点数上は全員、筆記、応用課題、実技の三つで八十点以上を超えている。

だから当然ではある。

それでも、六人まとめて呼ばれると、やはり目立つ。

俺は自分の結果表をもう一度見た。

四位。

前回の一位から、四位。

悔しくないわけがない。

セレナに負けた。

エドガーにも負けた。

ナディアにも抜かれ、ガイルと並んだ。

前世で四十五年生きてきた身としては何周りも年下の彼らに負けるのは納得いかないが、彼らが凄すぎるだけなんだと割り切ることにした。

次からは追う側に回る。

その方が、たぶん面白い。